教え、教えられ
「右足の踏み込みが甘い!」
「いでー!」
イースラのみならず、クラインとサシャもウライノスに弟子入りすることになった。
ビブローも実質的には師匠のようなもので、二人の熟練者から剣を教えてもらっている状況となっている。
クラインとサシャはウライノスからはまず型となる動きを習う。
イースラがやってみせたものを見て、クラインなんかは簡単そうだと言っていた。
だが、実際やってみるとそうラクなものではない。
実際の戦いでは相手や状況によって型の動きも多少変動がある。
ただそれは基本的な動きが完璧にできてこそ、変化のある動きでもしっかりと威力を発揮させられる。
何もない鍛錬では、ほんの少しのズレすら許されない。
ウライノスは非常に厳しく、手に持った木剣でクラインは足の位置を矯正される。
イースラも型の動きが完璧になるまで何回でもやらされたものであった。
ただイースラは今はもう型の動きも完璧にできるので二人とは別に鍛錬している。
ビブローがいたらビブローに相手でもしてもらうのだけど、今日はいないので一人で素振りに打ち込む。
アルドッグの重みにも慣れておきたいので、アルドッグを振り回している。
『なあ、あいつなんなんだ?』
頭の中でアルドッグの声が聞こえてくる。
少し不愉快そうな声のトーンをしている。
アルドッグの言うあいつとはギリウラのことであった。
ウライノスの弟子であるギリウラも同じく訓練場にいるのだけど、自分は鍛錬するでもなくイースラのことをジッと見つめている。
特に友好的な目をしているわけではなく、どこか嫌っているような態度すらある。
アルドッグとしてはムカつく目をしていると感じていた。
「あいつは兄弟子だよ。まあ、気に入らないのも理解はできるよ」
気持ちは少し分かるとイースラも思った。
急に現れたガキがウライノスの弟子になった。
加えてさらに二人弟子にしてもらって、一人は指導も受けずに勝手気ままにしているのに何も言われない。
ギリウラには回帰のことをウライノスは伝えていないので、何が何だか分からないのだろう。
イースラはただ邪魔な弟弟子なのである。
敵対心をあらわにするのも理解できない話ではないのだ。
ただギリウラの存在はイースラにとっても難しい。
ギリウラはイースラにとって兄弟子である。
大体どこでだって先に入った人のほうが偉い。
師弟関係においても、先に入った兄弟子の方が偉くて敬意を払うべきなのだ。
しかしイースラはギリウラが将来的にウライノスを裏切るのだと知っている。
兄弟子だと敬意を払っても、信頼を置くことはできない。
むしろ警戒すべき相手となっている。
もっと乱雑にしていいのなら、力でねじ伏せて関係を決めてしまうこともできるのだが、ウライノスがギリウラに対してどう考えているのか分からない。
裏切り者だとは伝えてあるが、ウライノスのギリウラに対する態度が変わったようには見えなかった。
イースラが勝手にギリウラを追い出すわけにもいかないのだ。
そもそも今はまだ裏切り者でもなんでもない。
嫌われているというだけでギリウラに手を出すこともできなかった。
『ともかく、気に入らないな』
「お前が気に入らないとしてもどうしようもないんだよ」
これから裏切らずに頑張る可能性も否定はできない。
イースラとしても割と視線は不愉快なので、なんとかしたい気持ちはありつつも今は無視しておく。
「ただ俺やサシャたちに手を出そうとしたら容赦はしない」
『そうだろうな。記憶で見たお前はなかなか怖い人であった』
アルドッグとしてはギリウラが早くイースラに手を出さないかなと思っている。
『できれば血を見る結末がいい』
「あまりうるさいと豚の血の中に漬け込んでおくからな」
『……少し静かにしよう』
最近だんだんとアルドッグの扱い方も分かってきたような気がするとイースラは思った。
「よし、ここまでだ」
「ぬはーっ! 疲れた!」
「へぇ……もうクタクタ」
一つ一つの動きを寸分の狂いもなく滑らかに再現していくことはかなりの集中力を要する。
クラインもサシャも汗だくになっている。
「あとは好きに休め、イースラは残れ」
「はーい」
「ギリウラ、お前も出てくれ」
「……分かりました」
どうして自分も追い出されるのか。
ギリウラはやや納得のいっていない顔をする。
「それじゃあ前回の続きからやりますか」
ウライノスはイースラの師匠である。
しかし同時にイースラはウライノスの師匠でもあった。
誰もいなくなった訓練場で改良された蒼天剣の動きを教える。
これまで何十年と同じ動きを体の芯まで叩き込んであるウライノスにとって、新たな動きに慣れることは案外難しいことだった。
それでもウライノスのセンスは高く、イースラが教えた動きをみるみると吸収していく。
「新しいことを学ぶ喜びを久々に思い出した気分だ」
慣れない動きにウライノスも汗をかく。
教える側になって久しいが、教えられる側の気持ちも思い出している。
「あっ、そこ違いますよ」
「チッ!」
「……本当に教えられる側の気持ち思い出してます?」
弟子に教えられる師匠という不思議な関係。
指摘すると時折怖い顔が出てくるけれど、五代目の思いは確実に受け継がれつつあったのだった。




