師匠現る4
「…………ふん」
負けず嫌いでも状況判断できないほど狂ってはいない。
ウライノスは剣を収める。
「団長も……ね?」
「…………はぁ」
まだ若干の殺気は漏れているものの、ウライノスが先に折れた形にはなった。
イースラが申し訳なさそうな顔をしてゲウィルを見る。
少し目を細めたゲウィルだったが、小さくため息をつくと剣を収める。
「大丈夫なのか?」
「たぶん……大丈夫です」
「何なら一緒にいようか?」
「いえ、二人だけで話さなきゃならないことがあるんです」
「……ならドアは開けておけ。必要なら助けを叫ぶようにしろ。近くにいてやるから」
嫌な相手、話したくない相手なら止めることはない。
イースラが間に入って止めたなら、ウライノスと話があるのだろうとゲウィルは察してくれた。
気遣いのカッコいい人だなとイースラは思った。
「それじゃあ……ちゃんと話しましょうか」
どう話したものか。
そんなことを悩みつつも、もう逃げられないので正面から向き合うしかないと諦める。
「では改めて、七代弟子……」
「やめろ。とった覚えのない弟子から挨拶されるいわれはない。気持ちが悪い」
「分かりました」
「それでどういうことだ?」
「俺は……未来から回帰してきました」
どストレート。
何の嘘偽りもなく、真っ直ぐな目をしてウライノスに何が起きたのかを話した。
ウライノスは口を挟むでもなかったが、ただ険しい顔をして話を聞いていた。
まずはイースラが回帰したということをざっくりと説明する。
これが全ての前提なのでしょうがない。
「それで回帰したんです」
「まあ………………そこはいいだろう。続きを話せ」
少し沈黙の間はあったものの、ウライノスは話を飲み込んだ。
納得したわけじゃなさそうな渋い顔をしているが、本題はそこじゃないからギリギリでスルーした。
「俺が師匠に出会ったのは戦いがかなり激しくなってきた頃でした」
イースラは回帰前のことを思い出す。
「俺が戦いによって敵に追われていた時に、師匠と出会いました。俺は師匠に助けられたのです」
当時のイースラはまだ弱かった。
必死に生きていて、冒険者ギルドの下っ端として働いていた。
ブレイクというモンスターが溢れた現象を起こしたゲートダンジョンの攻略に失敗し、仲間は散り散りになって逃げていた。
イースラも命からがら逃げていたのである。
だがモンスターに追いつかれて囲まれてしまう。
そんな時にウライノスに助けられたのである。
イースラはウライノスのことを見る。
今はだいぶ小綺麗な格好をしている。
容姿に対して大きなこだわりはなさそうだが、人に見られたりすることはなさそうなぐらいにはしてあった。
イースラの記憶の中のウライノスは髪も髭も伸び放題で、ヨレヨレの服を着ていた浮世離れした人だった。
「強くなりたい……そんな想いに応えて、師匠は俺を弟子にしてくれました」
紆余曲折はあったものの、助けてもらったことをきっかけにしてイースラはウライノスに弟子入りすることになる。
「その時の約束として冗談なんかの軽いものを除いて、互いに嘘はつかないと約束したのです。だから俺は……たとえ回帰前の約束だとしても、俺は守ります」
師匠であるウライノスとのたった一つの約束は嘘をつかないことだった。
言えないと言葉を濁すことはあっても、ウライノスはイースラに嘘をつかなかったし、イースラもしっかりと応えてウライノスに嘘はつかなかった。
だからたとえ信じてもらえずとも、今回も嘘はつかない。
「未来の弟子……か」
いきなり聞かされても納得しにくい話である。
ただ話の筋としては通っているし、納得はできた。
「……なぜそんな約束を取り交わした?」
「それは……」
「言いにくいことか?」
「はい……でもお伝えします。それは師匠が弟子である人に裏切られたからです」
嘘はつかないが、言いたくないことは言わないという回避策はある。
けれどもこれも言わねばならぬことだとイースラは思った。
どうしてイースラを弟子にし、変な約束を決めて、浮世離れした姿をしていたのか。
「今いらっしゃるあの方は……未来で師匠を裏切ったんです」
ウライノスは弟子に裏切られた。
そのせいで怪我を負い、戦いから離れて静かに暮らしていたのだ。
そんな過去があるのに、なぜイースラの師匠となってくれたのかは最後まで教えてくれなかった。
でもウライノスとの出会いが、イースラを最後の最後まで活かしてくれたのである。
「認めてくれなくてもいい。信じてくれなくてもいい。それでも俺はあなたから受けた恩を忘れない。たとえ回帰しようとも俺は……あなたの弟子なのです」
裏切りにあって人を信じられなくなっていたのに、それでも信じて弟子にしてくれた。
浮世離れしていた理由も嘘をつかずに話してくれた。
まともに師匠と呼べる人がいなかったイースラに初めてできた師匠は、傷つくことを恐れながらもイースラのことを受け入れてくれた。
だから回帰した今でも誠意を尽くす。
イースラなりの感謝と敬意の証なのである。




