師匠現る1
「はあっ!」
「鋭い一撃だな!」
アルドッグのゲートダンジョン攻略以降、少し変わったこともある。
まず周りの見る目が変わった。
たまたまオーラが使えるだけ。
運良く目に留まったから上級隊員になれた。
交流大会にまで出場したのに、そんな偏見も根強かった。
あるいは認めたくなくて運でどうにかしていると思い込みたかったのかもしれない。
だがイースラがアルドッグに支配されてゲウィルと戦う配信を見て、それでも運だったと否定することは自分を惨めにするだけだと気付いたのだ。
要するに、上級隊員にも認められたというわけだった。
「まだまだ!」
もう一つの変化はイースラが今戦っている相手だ。
「いくらでも来てください! このビブローが全身全霊を持ってお相手いたしましょう!」
イースラが戦っているのはビブローだ。
王国の騎士団長、いや、元騎士団長である。
ビブローは騎士団長の座を辞した。
その理由はイースラだった。
まずビブローの息子であるオルトーンの腕はくっついた。
切ってすぐライアンウルフのポーションを使ったので、今無理をしなければ騎士として戻れるだろう。
ビブローはオルトーンが助かったことに感謝をしていたのだけど、同時にイースラが腕を切ってからポーションを使うまでの早さや魔剣を手にして制圧したことにも疑問を抱いていた。
偶然にしては出来すぎている。
そこでゲウィルを詰めたのだけど、ゲウィルも当然のことながら何も知らない。
さらにエティケントを詰めたのだが、エティケントもイースラが回帰してきた人だとは言えない。
「少し休憩にしましょうか」
「ええ。……苦しい言い訳だったけど……何とかなったな」
最終的にはイースラが説明することになった。
回帰した。
このことを伝えるかどうか悩んだ。
しかし秘密は秘密にしておく方がいいこともある。
伝えることによる影響がどこで出てくるか分からない。
ゲウィルとビブローが信頼できない人ではないというつもりはないが、エティケントと違って回帰前に関係があった人ではない。
将来的な敵か味方かも分からない以上、イースラが回帰したという秘密は言わないことにした。
そこで役立つのが配信だ。
オルトーンの腕を切って魔剣から救い出してポーションでくっつけることも、魔剣を制圧することも、全部配信で見たと主張した。
二人ともかなり懐疑的ではあった。
腕をポーションでくっつけることはともかく、魔剣の制圧についてはどうなのかとイースラ自身も思う。
支配的な魔剣については持つ人が強いほどに魔剣も強い反応を見せ、魔剣に抗っている間も力を消耗させれば制圧しやすくなる。
こんなこと普通の配信では説明なんてしてくれない。
ただし、普通じゃない配信も探してみればあるものだ。
『ゲートダンジョン攻略解説』なんて銘打たれた配信がある。
不思議な配信で、気だるげな顔をした初老のおじさんがゲートダンジョンをどうやって攻略したのかをひたすら読み上げる。
眠りたい時に最適なのだけど、どうやって調べたのか難易度の高いゲートの攻略についても触れることがある。
時々有益な情報も出てくる。
たまたまそこで似たような魔剣の情報を聞いたことにした。
「最終的にはあの配信をどうやって眠らずに見ていたのか聞かれたもんな」
過去の配信は残っていないので確かめようもないが、本当にそんな情報が出てくるようなものなのかとゲウィルとビブローは配信を確認した。
結果的によく眠れたらしい。
そうした情報を元にイースラがエティケントに協力をお願いした、ということにした。
割と苦しい言い訳だったとイースラも思う。
しかし微妙な言い訳でも、配信から得た情報を元に動いたという説明を嘘だと断ずるものもない。
結局イースラが命をかけて魔剣を制圧したことに変わりはなく、エティケントに強制されていたわけでもないことは分かった。
ゲウィルは渋々納得し、ビブローはオルトーンの命の恩人としてイースラに感謝することになった。
「ビブローさん、仕事は大丈夫なんですか?」
「騎士団長の時と違って時間に余裕があるから大丈夫です」
「……別にそんな丁寧じゃなくてもいいですよ」
オルトーンを救ってくれたお礼がしたい、とビブローはイースラに言った。
そのままではイースラに忠誠でも誓いそうな勢いだった。
ビブローの実力があるなら何をさせても役に立ってくれるだろう。
けれども今は一ギルドに所属する下っ端に過ぎない。
ビブローを部下として得ても手に余してしまう。
「そのようなわけには……それにユリアナ様は今エティケント様の授業の最中ですので護衛もありません」
「本当に団長を辞めてよかったんですか?」
そこでイースラはビブローにユリアナの味方になってほしいとお願いした。
アルドッグのゲートダンジョンの件で、ユリアナが他の王子から牽制される可能性が大きく高まった。
エティケントだけでなく、他にも王城内に味方がいてくれれば助かると考えたのだ。
しかし騎士団長という立場で特定の王子、王女に肩入れするわけにもいかない。
なのでビブローは騎士団長を辞めて、ユリアナの護衛の騎士となったのである。




