魔剣6
「オーラの斬撃を飛ばすオーラスラッシュにも似ているが、相手の体内に直接オーラを打ち込む技など聞いたこともない」
ビブローが腕の装備を外す。
すると腕は真紫になっていた。
「俺は一度見たことがあるな」
「どこでだ?」
「この世界には剣や槍などの武器を使わず戦う者もいるだろう?」
「そうだな。数は少ないが、そうした人もいる」
己の肉体を武器として、拳での殴打や蹴りで戦う武闘家も存在している。
武器を使った方が遥かに殺傷能力が高いので、武闘家の数はかなり少ない。
「そんな武闘家の中にもオーラを扱う者がいて、その人があのような技を使っていたな」
「傭兵時代の話か?」
「その通りだ。敵ではなく、味方で出会えてよかったと思える相手だ」
「何にしても……珍しい技術だろうな。その時の人が教えた……なんてことはないだろうな」
「傭兵時代がどれだけ前だと思ってるんだ? しかもその中でも俺の若い頃の話だ。孫と祖父、というのにもギリギリなぐらいの年齢差があるだろう」
二人はイースラのことを見る。
今日ばかりは手伝わなくてもいいと、座らせられているイースラは困ったような顔をしていた。
こうしてみると子供の顔をしているが、戦っている時には子供とは思えないような鋭い目、鋭い剣筋であった。
「何者か気になるか?」
「お前は気にならないのか?」
「少し前まではな。身辺調査をしたこともある。だがあの子はただの孤児だった。孤児院を出てから俺のところに辿り着くまでそう時間も経っていない。分からない。何もな」
「ならば余計に……」
「気にしてどうなる?」
「なんだと?」
「すべての答えは本人しか知らないだろう。あるいは本人すら知らないのかもしれない。俺にできることは疑うことじゃない。あの子を信じて受け入れてやることさ。何かが起きたら、その時はその時だ」
ゲウィルはまっすぐな目をしていた。
「お前らしいな」
ビブローは思わず笑ってしまう。
「まあお前のところの問題だ。俺が気にすることでもないか」
ゲウィルという男は昔からこうだ。
だから傭兵団はまともなギルドになったし、だが一方でギルドの中では一番になれなかったりもする。
「仮に俺に何かがあったらお前に任せてみようか」
「縁起を悪いことを言うな。生きて帰る。これがお前の信条だろう」
「そうだな。それに……あの子がいるとなんだか上手くいく気がするんだ」
勘に頼るのはいけないが、勘は生き残るために必要なものである。
今回の遠征に不安は多い。
けれどもイースラがいると上手くいくような気がするのだ。
「戦場を渡ってきたお前の勘は侮れないからな」
「きっと彼も助けられる……」
「……そう願っているよ」
ーーーーー
「それでは改めて今回のゲートダンジョンのことをおさらいしておく」
魔物に襲われることもなく順調に一行は移動してきた。
青白く魔力が渦巻くゲートの前までやってきて、最後に攻略すべきゲートダンジョンの確認を行う。
「今回のゲートダンジョンは少し特殊だ。最後に戦うべきは魔物ではない」
多くの場合、ゲートダンジョンは魔物を倒せばいい。
全部なのか、特定の魔物なのか少しの違いはあったりするものの、どの道魔物を倒すことに変わりはない。
しかし今回のゲートダンジョンは魔物を倒して終わりのものではなかった。
「ゲートの中にあるダンジョン最奥部には一本の剣がある。これをどうにかする……のが目的だ」
やや曖昧な言い方になっているが、仕方ない。
どうしたらいいのか条件が提示されるわけではないのだから、魔物以外がゲートの攻略に必要とされた時にどうするのか推測しなければならないのは当然のことである。
単純に破壊すれば終わりのこともあるし、どこかにはめ込むとか魔物に与えるなんてこともあるのだ。
今回、最後に待ち受けているのは剣であった。
その剣をどうすれば攻略となるのかは分かっていない。
分かっていたら第二王子が攻略してしまっていることだろう。
「ただの剣ではない。見るものを惑わし、触るものを支配する。……言うなれば魔剣だ」
ゲウィルの言葉にみんなの雰囲気がややピリッとしたものになる。
魔剣というのはなかなか怖い響きである。
「魔剣を持つと体が支配される。魔剣を持った相手を殺せばいいというわけでもないだろうし……そして問題は今魔剣を持っている相手にもある。ここが第二王子が失敗した理由でもある」
当然ながら第二王子も魔剣の破壊を試みたり、魔剣を持った人を倒したりした。
しかしそれでも魔剣は止まらなかった。
最後の希望として魔剣はある人が手にすることになったのだが、これが大問題だったのである。
「今現在魔剣を持っているのはオルトーン。…………騎士団長ビブローの息子だ」
ゲウィルの顔はやや暗い。
ビブローの息子は騎士団長たるビブローの才能を受け継ぎ、父を超えるべく努力を重ねる真面目な人だった。
第二王子の出征においても、それを支える重要な役割を任されていたのである。
オルトーンなら何とかできるかもしれないと魔剣を託したのだが、オルトーンも魔剣に飲まれてしまった。
次期騎士団長とも言われるほどの実力があるオルトーンはかなり強い。
魔剣を持って暴れ回るオルトーンによって、第二王子の攻略は失敗することとなったのだ。




