表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

第4話 鈴音の試練(後編)

【登場人物】

鈴音→主人公の背の高い女の子。

楓→鈴音の同僚。スタイル抜群。

霜月→影屋敷の影武者候補の少年。橙次と仲が良い。中性的な美少年。

橙次→影屋敷の影武者候補の少年。霜月と仲が良い。背の高いがっしりしたイケメン。

香風→鈴音の大先輩。おっとりしている。

長月豪→香風の夫

 鈴音は霜月の姿を見つけると、思わず口元が緩んでしまった。


 その様子を見た楓が、くすりと微笑む。


 鈴音は我に返り、慌てて包帯が乾いているか確認した。


「ここの五本は乾いてるから、部屋に持っていってね。私は汚れた包帯を確認して、洗いに行ってくるわ」

「分かったわ」


 楓は包帯を取り込むと、部屋へ向かっていった。


 鈴音はもう一度広間を見る。

 ——すると、後ろから声をかけられた。


「おうおう、サボりか?」

「わっ! 橙次さん?」


 鈴音は慌てて振り返る。

 橙次がニヤリとした顔で立っていた。

 鈴音は口を尖らせる。


「ちゃんと仕事してます。それにしても、朝早くから訓練してるんですね」

「まあな。いつでも動けるように、明け方から始めることもある」


「……橙次さんは、やらなくていいんですか?」

「おっ? 俺はサボりじゃねーぞ。これから行くところだ。また後で部屋寄るわ」


「寄らなくていいです」

「お前への用事じゃねーよ」


 そう言うと橙次は、広間にいる霜月の方へ向かった。

 霜月は肩を組んできた橙次に、うっとうしそうな顔をしている。


「ふふ……あんなふうに気軽に霜月に近づけたらいいのになぁ……って、そうじゃない! 仕事に戻らなくちゃ」


 鈴音は顔を赤くし、足早にその場を離れた。

 いつもの準備を終えると、香風に声をかける。


「香風さん、準備終わりました」

「ありがとう。ちょうど良かったわ。今、縫合しているところなの。ついてきて」


 香風は先に手を洗いに行く。

 そのあと、いつもの部屋の二つ先の部屋へ向かい、布の束を見せた。


「これを服の上から着てね。頭にはこの布をつけるの。菌が患部につくと大変だから。今日は私も一緒に入りましょう」

「はい」


 香風は棚から白い服を取り、鈴音に渡す。

 着方を見よう見まねで整え、準備ができると、追加の布を持って部屋へ入った。


 中には三人いた。

 縫合している者と、その補助に立つ者。

 そして部屋の端で布を持って待機している者が一人。


 縫合している男が、ちらりと視線を向けてくる。


「治療・治癒副室長兼二班班長の香風です。二班の鈴音が縫合の見学をいたします。よろしくお願いします」

「鈴音です。よろしくお願いします」


 鈴音は頭を下げた。


 男は軽く頷くと、再び傷口へ視線を戻す。

 香風が小声で説明する。


「副室長で、一班班長の健剛殿よ。邪魔にならないように、左側から見ましょう」


 鈴音は頷き、香風の後ろについて健剛の左側へ回った。


 目に入ったのは、深く開いた傷口だった。


「綺麗な切り傷ね。健剛殿の縫合は、とても上手なのよ」


 鈴音も覗き込む。

 思わず口元に手をやりそうになった。


(こんなことで、怯んでちゃだめ……)


 断面を見た瞬間、くらりとした。


 それでも拳を握りしめ、目を逸らさずに見続ける。

 湾曲した針が肉に刺さり、糸で傷口が閉じられていく。


 縫い目は等間隔で、見事なものだった。


 どれくらい時間が経ったのか。

 終わる頃には、鈴音はどっと疲れていた。


 縫合が終わり、部屋を出る。


 白衣を脱ぎ、いつもの治療・治癒室へ戻ると、橙次が座っていた。


 机の上には、湯気の立つ茶が三つ。


「あら、橙次くん」

「香風さん、お疲れ様です。お茶、どうですか?」

「ふふ、いただこうかしら」


 楽しそうに会話する二人のそばへ、鈴音は歩み寄る。


「橙次さん」

「おう、お疲れ。お前も飲め」

「ありがと」


「それから香風さんも」

 香風はお茶を受け取り、軽く頭を下げた。


「ありがとう。橙次くん、お茶いただくわね。私は報告書を書かないといけないの。鈴音ちゃんは休憩してて」

「はい」


 香風が去ると、橙次は無言で隣に座る。

 鈴音も腰を下ろし、湯呑みを両手で包んだ。


 温かい。


「……今日、初めて縫合を見たの」


「そうか」

「……聞かないの?」


 いつもの軽口が返ってこない。

 鈴音は不思議に思い、橙次を見る。


「言いたくねえことを、無理に聞く必要はねえだろ」


 その言葉に、鈴音の目が潤む。

 思っていたことが、こぼれた。


「……まだ、何も始まってないのにね」

「ちゃんと始まってるじゃねえか」


 ぽたり、と涙が机に落ちた。


「……ぐすっ……もっと難しい治療がしたいの。でも、あんな縫合を見ただけで気持ち悪くなって、目も逸らしたくなって……それなのに上を目指したいなんて、おかしいよね」

「おかしくねえよ。最初は誰だってそんなもんだ」


 鈴音はきっと橙次を見た。


「今日の橙次さん、変。いつもと違う」

「同じでも違っても、俺は俺だ。お前だってそうだろ?」


 その言葉に、胸が少し軽くなる。


「ふふ……そっかぁ⋯⋯」


言えない言葉を飲み込む。


「もっと頑張って、霜月が怪我したら治療してあげるんだ」

「そこは俺じゃねえのかよ!?」


 いつもの調子の橙次にじんわりと安堵が身体を伝う。思わず声を上げて、鈴音は笑った。


「あはは、橙次さん全然怪我でここに来ないじゃない」

「当たり前だ。俺はスーパーエリートだからな」


「ふふ、何それ。……元気づけてくれて、ありがとう」

「聞こえねえな。もっと霜月みたいに憎まれ口叩け」


 それから鈴音は、時間の許す限り香風に治療を見せてもらった。


 そして香風から、治療の記録を取ってみないかと提案される。

 鈴音は、その提案を受けることにした。

わりとおちゃらけな性格っぽい橙次ですが、『暗殺の瞬』をお読みいただくと、推しになるかも!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
☆*:.。. 二角ゆうの作品.。.:*☆
総合ポイントの高い順
最新掲載順
― 新着の感想 ―
実際に縫合の治療を見学させてもらったんですね♪ 橙次は普段はおちゃらけてるけど、優しいですね(*^^*)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ