第3話 鈴音の試練(前編)
【登場人物】
鈴音→主人公の背の高い女の子。
楓→鈴音の同僚。スタイル抜群。
霜月→影屋敷の影武者候補の少年。橙次と仲が良い。中性的な美少年。
橙次→影屋敷の影武者候補の少年。霜月と仲が良い。背の高いがっしりしたイケメン。
香風→鈴音の大先輩。おっとりしている。
長月豪→香風の夫
「鈴音ちゃんは、どこまで目指しているのかな?」
朝、鈴音が来たときに香風にかけられた言葉だった。
鈴音は口を開いたものの、返答に困ってしまう。
「あの、どこまでって……どこなんでしょうか?」
「うふふ、ひっかけ問題みたいね。じゃあ聞き方を変えるわ。将来、何ができるようになりたいかしら?」
「友だちの役に立てるかもしれないから……難しい治療もできるようになりたいです」
鈴音は、真っ先に霜月のことを思い浮かべながら答えた。
(友だちって言っても、いいよね)
鈴音はそう感じていた。
それを聞いた香風は、少し鈴音を見つめたあと、穏やかに笑って尋ねる。
「そのお友だちって、この前来ていた霜月くんかしら?」
「そうです。香風さん、霜月のこと知ってるんですか?」
「知ってるも何も、橙次くんがよく話してるし、豪も戦ったもの」
鈴音は何のことか分からず、楓の方を見た。
しかし楓もきょとんとしている。
その様子を見て、香風が説明した。
「ああ、楓ちゃんは知らないわよね。私は結婚しているの。夫の名前は長月豪。影武者なのよ」
「へぇ、そうなんですか」と楓。
「えっ? そうなんですか?」と鈴音。
香風は少し驚いたように鈴音を見る。
「あら? 鈴音ちゃんも知らなかったのかしら?」
戸口の近くにいた橙次が、声を上げて会話に入ってきた。
「おいおい、香風さんのこと何も知らないんだな」
皆が入口の方を見る。
鈴音は口を尖らせ、少し拗ねたように言った。
「私、何にも知らない」
「あらあら、鈴音ちゃん落ち着いて。私が話していなかっただけよ」
橙次は得意げな顔を鈴音に向ける。
鈴音は口をへの字にした。
「橙次さんの意地悪」
「なんだよ、ひどいな。香風さん、豪殿の方が年下なんですよね?」
橙次が尋ねると、香風は頬に手を当てて微笑む。
「うふふ、そうなの。豪ってば情熱的でね。一目惚れしたって言った日から、毎日花束を持ってきたのよ。三つも年下なのにね。そのうち私が折れちゃったの。今でもすごいのよ」
そう話していると、豪がやってきた。
「香風! 今日は早く帰れそうだ。夕餉を作っておくか?」
鈴音たちは戸口の方を見る。
香風より少し若く見えるその男は、大柄でがっしりしていた。短い髪に、落ち着いた雰囲気。鈴音は不思議と怖さを感じなかった。
豪は橙次を見ると、大きく肩を落とす。
「なんだ、橙次殿もいるのか」
「えーえー、豪殿に会えて俺もがっかりですよ。俺の仲間は貴方に派手にやられましたからね」
その言葉に、鈴音の脳裏にある人物が浮かぶ。
「それって、霜月のこと?」
「鈴音、よく分かったな。そうだ。霜月は長月殿の雷でビリリとやられちまったのさ」
豪は少し気まずそうな顔をする。
香風は困ったように橙次を見る。
「あら、橙次くんのお友だちだったの。申し訳ないことをしたわね」
「いえ、あいつが下剋上ルールで無茶しただけなんで」
豪は香風と橙次を交互に見た。
「橙次殿、俺と態度違うじゃねえか」
「そんなことないっすよ。長月殿は大先輩ですから」
「ふふ、豪は強いもの。終わったら真っ直ぐ帰るから、お家で待っててくれるかしら?」
「もちろんだ! 朝陽と夕陽と一緒に待ってる!」
豪は香風を力強く抱きしめ、そのまま部屋を出ていった。
鈴音は目を丸くして橙次を見る。
橙次は声を落として説明する。
「あの若さで十八位。しかも二児の父だ。長月殿は二十五歳だぞ」
「えっ……憧れる」
「どういうことだ?」
橙次は驚いて鈴音を見る。
「だって、毎日花束を持ってくる情熱家でしょ? 今でもあんなに香風さんのこと好きなんて、羨ましいじゃない」
それを聞いた橙次は、下を向いて長いため息をついた。
「はぁ……お前、完全に恋脳だな」
「恋脳ってなによ。失礼ね」
鈴音は不満そうに顔をしかめる。
とはいえ、恋のことばかり考えてはいられない。
この前香風に話した通り、難しい治療をできるようになるには、知識と経験を積まなければならない。
■
翌日、鈴音は香風に治療を見せてほしいと頼んだ。
「そうね。まずはみんながやっていることを見るのも大切よ。いつもの補充と準備が終わったら、声をかけてちょうだい」
「分かりました」
準備を始めると、楓がいたので挨拶をする。
今日は教える意味も込めて、一緒に準備を進めることにした。
棚には薬草用と布用の棚がある。
薬草は状態ごとに分けられている。
乾燥させただけのもの、葉や根など部位ごとに分けたもの、すり潰して粉にしたもの。
布も大きさごとに分けられており、特によく使うのは包帯だ。
細長く切った布を巻いてまとめてある。
朝一番に棚を確認するのが、鈴音の日課だった。
楓を呼び寄せ、鈴音は説明する。
「この包帯の棚は、常にいっぱいにしておいてね。夜に使い切ることも多いから、朝一番に確認して補充するの」
楓は棚を覗き込む。
「こんなにあったのに、夜でなくなっちゃうのね」
「ええ、そうみたい。裏に乾いた包帯があるか見に行きましょう」
そう言って、鈴音は裏の洗濯場へ向かう。
ひらひらと包帯が風に揺れ、まるで泳いでいるようだった。
少しだけ広間が見えたので、何気なく視線を向ける。
——そこに、霜月の姿があった。
見つけた瞬間、鈴音の口元が自然と緩んだ。
[追記]
長月豪と香風の子どもの朝陽と夕陽は双子の女の子です。
また ”下剋上ルール”(年に一度のみ開催)
この1年のポイントをすべてをかけて自分より上位のものと戦うことが出来る。
30位の者は29位以下の者と決闘をする。対戦相手が25位だった場合、そのが勝った場合は25位となり、25位の者が勝てば挑戦者の1年間で稼いだポイントをもらえるのだ。
また対戦相手は抽選によって行われ、選ばれた者が承諾した時のみ対戦が叶う。




