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第1話 鈴音と霜月の出会い(前編)

数ある中から選んでいただきありがとうございます!

 桃園樹《とうおんじゅ》鈴音は、自分の名字が大嫌いだ。


 鈴音は桃花の里の里長の娘で、忍だった。

 とはいえ「里長の娘」というのは名ばかりだ。


 表の世界で作った子どもが生まれたから、律儀に里へ持ち帰った——それだけのこと。


 物心ついた頃から、父親は暴力を振るう存在だった。

 母親の違う兄姉もいたが、鈴音は一番下。


 そしておそらく、父親から殴られていたのは自分だけだったのだろう。


 父親はどこか歪んでいた。

 自分以外の者が鈴音をいじめると怒るくせに、二人きりになると殴ってくる。


 他の姉には「鈴音に目をかけろ」と言うのに——。


 そんな鈴音が齢十一のとき、ある人物が『影屋敷』という組織へ引き入れてくれた。


 影屋敷とは、表の世界の武将などの影武者となる者たちが集う裏の組織だ。


 時は戦乱の世。

 鈴音と同じ年頃でも、外へ働きに出る子どもは珍しくない。


 鈴音は肩にかかるほどの髪で、その年齢にしては少し背が高い方だった。


 影屋敷には治療・治癒室がある。

 そこが鈴音の配属先だった。

 人の傷が癒えていく様子は、不思議で、どこか面白くもある。


 もっとも、鈴音はまだ下っ端だ。


 任されるのは、きれいな布の調達や薬草の数を数えて記録するなど、雑用ばかりだった。


 そんな中で、鈴音はあることに気づいた。


 ——自分は男性恐怖症なのだと。


 薬草の補充で、男の人と二人きりで薬草室へ行ったときのことだった。

 二人きりだと意識した途端、父親の姿が鮮明に脳裏によみがえり、全身が震え、呼吸が乱れた。

 何かの病気かと思ったが、男の人と二人きりになると、同じ症状が何度も出る。


 治療・治癒室の副室長である香風《かふう》は、鈴音にとてもよくしてくれている。

 二十代後半で、長い髪を肩の下でゆったりと一つに結んでいる。

 まさに“大人の女性”という言葉が似合う人だった。

 鈴音は、優しい姉ができたようで嬉しかった。


「今日も仕事、張り切ってやるぞー!」


 お昼近く。

 昼餉のことで頭がいっぱいになってきた頃。


 補充用のきれいな布をたくさん抱えた鈴音は、影屋敷の廊下の角を曲がった。


 すると広間の方から、泥だらけの人影が歩いてくるのが見えた。


「まぁ! 大丈夫ですか?」


 思わず声を上げる。


 その人がこちらを見ると、鈴音は思わず目を奪われた。


 短い銀髪に、長いまつ毛。

 澄んだ瞳をした、どこか中性的な少年だった。


 ただし、全身はなぜか泥だらけ。 


「大丈夫です。泥だらけなだけで」


 そう答えた少年の足元から、トコトコと猫が歩いてくる。


 鈴音はそっとその頭を撫でた。

 猫はそのまま、素直に撫でられている。

 ふわふわの毛並みと、ほんのり温かい体温。


「可愛い!」

「ふふ。その子はだてまき。僕の仲間だよ」


 少年の笑顔に、思わず目が離せなくなる。

 鈴音は笑顔を返し、手に持っていた布を一枚差し出した。


「気休めですが、これをどうぞ。

 ほかに用があれば、治療・治癒室に来てくださいね。……私は鈴音です」


 少年は軽くお辞儀をして布を受け取る。


「僕は霜月。今日、影屋敷に来たばかりなんだ。 治療・治癒室に行けば、また君に会えるの?」

「うん……多分」

「じゃあ、この布をきれいにしたら返しに行くよ」


 律儀な人だな、と鈴音は思う。

 そして、もっと話してみたいとも。


「ふふ、それはあげます。

 その代わり、たまに会ってお話を聞かせてください。 霜月は影武者になるんでしょう? そういうこと、私知らなくて」

「情報提供か。いいね。

 僕も怪我の治療方法とか知りたいな」


 鈴音は小さくお辞儀をした。


 ふと見ると、霜月の隣に橙次が立っている。

 背が高く、がっしりとした体つき。よく鍛えられている。

 治療・治癒室に用事もないのによく顔を出す、有名人だ。

 ほとんどの人が話したことがあるのではないだろうか。

 鈴音もよく話すが——なんというか、遠慮がない。

 年上なのに、気づけば懐に入り込んでいるような人だ。


「それじゃあ霜月、またね……橙次さんも」


 霜月は会釈し、橙次は手をひらひらと振る。

 鈴音も手を振り返した。


 二人の姿が見えなくなるまで見送る。


 その後も鈴音は、いつものようにきっちりと仕事をこなした。

 終業間際、香風が近づいてくる。


「鈴音ちゃん、大丈夫?

 今日、一日中少し顔が赤かったけど、熱でもあるのかしら?」

「へっ? そうですか?」


 鈴音は両手で頬を挟んだ。


(ちょっと熱い……なんでだろう?)


「へへ、気のせいだと思います」

「それならいいけれど。……男の人で苦手な人がいたら、すぐ言ってね。代わるから」

「香風さん、ありがとうございます」


 霜月に会ったとき、鈴音は男性が苦手だということをすっかり忘れていた。

 父親の姿も、思い出さなかった。

 最近は少し慣れてきていて、受付の人や香風の夫などは大丈夫だったが——。


(そういえば、橙次さんだけは最初から平気だった気がする。

 そのとき、なんか失礼なこと言われた気もするけど……)

鈴音ちゃんのお話がスタートしました。

暗殺の瞬とはまた違った視点のお話になります(ㆁωㆁ)


【登場人物メモ】

鈴音→主人公の女の子

霜月→影屋敷の影武者候補の少年。

橙次→影屋敷の影武者候補の少年。霜月と仲が良い

香風→鈴音の大先輩

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☆*:.。. 二角ゆうの作品.。.:*☆
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瞬の話の時代設定と同じくらいの時期なのかな? (´・ω・`) 時代物も良いですね〜。 男性が苦手なのか。 _φ(・_・ 克服していく成長譚かな? どんな物語になるのかまだ分かりませんけど、今後の展…
まさかの忍者物。Σ(-∀-;) 愛する者よ、死に沿うらえ!! ゜+(人・∀・*)+。♪ 新連載頑張って下さいませ。 何か忍術使えるのかな?? ……わくわく。
おぉっ、暗殺の瞬のサイドストーリーなんですね♪(*^^*) だいたい何話くらいまで続きそうですか? 暗殺の瞬がずっと止まったままなもので…w キーワードの「だてまき」を見てだてまきー!!と思ったら猫…
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