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05 VSゴブリン

 ゴブリンは魔物だ。敵だ。決して人間とは相いれない。

 グロウゼビア王国で騎士団長を務めていたから、僕は幾度となくゴブリンと戦ってきた。だから、ここにいるどの誰よりもゴブリン退治のキャリアは長い。

 

 けれど、転生前にあれだけ戦った敵と、転生してからもまた戦うことになるとは。

 建物の陰に身をひそめながら、僕は風紀委員に混じってアサルトライフルを構えながら素早く移動した。

 

 幼い頃、ドラマや映画、漫画や小説などで銃の存在を知ったときは本当にショックを受けた。

 

 こんなものがあれば大抵の魔物なんて瞬殺だと思ったし、対物(アンチマテリアル)ライフルがあれば、どれだけ堅牢な鱗を持つ竜であっても数発で倒すことができると確信した。この武器を持って今すぐ【帰らずの森】に戻ってもう一度邪竜と戦いたいと心底願ったほどだ。

 

 向こうの世界では脅威でしかなかった小飛竜(ワイバーン)の群れだって、数機の戦闘機がいれば簡単に駆逐できる。それどころか、数十万にも及ぶ魔王軍ですら、二キロ先から戦車砲をばんばん撃ち込んで、爆破機で空爆すれば余裕で壊滅できると確信した。


 でも、同時にこうも思った。


 これだけ凄い装備を持った自衛隊が、どうしてグロウゼビア王国なんかに負けたんだろう……って。


 その疑問は三十年続く侵略戦争のことを少し調べたらすぐに解消した。

 あいつらは日本を侵略するために強力なスキルを用意していたのだ。そのスキルのせいで、自衛隊はグロウゼビア王国軍や勇者になす術もなくやられたのだ。


 程なくして、ぼろぼろの小学校が見えてきた。

 朽ちかけた正門の前でゴブリンがたむろしている。割れた校舎の窓の奥でゴブリンたちが忙しそうに行き来しているのが見えた。


「あそこがゴブリンの巣よ。ゴブリンの数は推定六十匹。ゴーレム二体は体育館にいるわ。わたしたちの任務は校舎内のゴブリンを制圧すること」

「分かりました」

『B班、裏門に到着しました。いつでも行けます』『C班、東門、配置に付きました』


 ヘッドセットを通して各班から通信が入る。僕やティナがいる班は正門から突入するA班だった。


『では、作戦を開始する。三、二、一、ゴー!』


 三年生の風紀委員長が号令をかけ、僕たちはいっせいに物陰から飛び出した。

 正門前にいたゴブリンが僕たちに気付き、武器を手に一斉に襲い掛かってきた。


 ゴブリンは人間の子供くらいの背丈の人型の魔物だ。

 髪の毛も体毛もほとんどなく、鼻と耳が尖り、肌はくすんだ緑色をしている。どいつも粗末な革鎧を着て、ぼろぼろの剣や槍を持っていた。


 貧相な見た目によらずこいつらは知能が高くて狡猾で、騎士団時代、僕はゴブリン討伐に結構手を焼いた。

 ゴブリンの別動隊が村の正面で騒ぎを起こして騎士団を引きつけ、村の裏から本隊が襲ってくることなんてざらだったし、落とし穴や仕掛け弓などの罠も使ってくる。たかが魔物と侮っていると痛い目を見る。

 

――いや、仮にそれだけの知能がなかったとしても、この世界の人間にとってゴブリンは恐ろしい魔物だった。


 先頭のゴブリンに狙いを定めてアサルトライフルの引き金を引く。

 弾丸がそいつの顔面に命中して、そいつは悲鳴を上げた。

 

 でも、倒れない。


 自動車のボディも容易に撃ち抜くはずの弾丸は、ゴブリンの顔面を貫通しないどころか、大したダメージを与えることもできていない。奴は鼻を大きめの蜂に刺されたみたいにぶるぶると顔を振っただけだった。


 僕に続いてティナや他の生徒もゴブリンに弾丸を浴びせたものの、やはり効果的なダメージは与えられなかった。

 僕たちが使っているアサルトライフルが弱いわけではないし、ゴブリンが鋼のように硬いわけでもない。銃撃の効果が薄いのには理由があった。


「――ああ、もう、これだから《銃撃耐性》スキル持ちの敵は嫌いなのよ」


 ティナが言う。全然動揺していないのは、今まで戦ってきた魔物の全てがそのスキルを所持していたからだ。


 《銃撃耐性》はその名の通り、銃撃によるダメージを大幅に軽減する防御スキルである。銃撃が一切通用しない《銃撃無効》よりはずっとましだが、厄介な能力であることには変わりない。


「みんな下がれ。これならどうだっ」


 風紀委員の一人がゴブリンの群れへ手榴弾を投げ込んだ。


「無意味よ。あいつら《爆破耐性》のスキルも持っているわ」


 ティナが制止しようとしたが、そのときには、手榴弾は放物線を描いて群れの中心に落ちていた。

 手榴弾が爆発して周囲のゴブリンがばたばたと倒れたが、奴らはすぐに起き上がってきた。急にバックしてきた車にぶつけられて転んだくらいのダメージしかなさそうだ。これでもし《爆破無効》だったら、倒れることすらなかっただろう。


 僕がグロウゼビア王国にいた頃、あんなスキルを持ったゴブリンなんて存在しなかった。

 というか、銃や爆弾自体が発明されていなかったので、そもそもそんなスキル自体なかった。


 今のグロウゼビア王国には僕が知らないスキルが存在している。

 それどころか、全ての魔物――それこそ、ゴブリンのようなスキルを持たないはずの下等な魔物に至るまで――が揃いも揃って、まるで誰かに与えられたかのように《銃撃耐性》《爆発耐性》のスキルを保有している。


 ――あいつら、こんなことに神の力を利用するなんて正気かよ。


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