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44 奇襲!

 戦闘が始まり、敵の第一波が防衛線に迫る。

 防衛線から異世界の兵へと攻城弩(バリスタ)や投石機による攻撃が次々に放たれる。


 ゴーレムが前面に出て堅牢な外殻でそれらを弾く。たまにゴーレムの間を縫った矢や岩がホムンクルス兵を打ち倒したが、その数は微々たるものでしかない。ゴーレムを倒さない限り攻城弩も投石機も本領を発揮できない。


 反撃でゴーレムの群れが顔の魔法陣を展開し薙ぎ払うように熱線を放った。白く細い熱線がアスファルトを斬り裂きながら防衛線に着弾し大爆発を引き起こす。


 生徒らは咄嗟に散会し無事だったが、土嚢も有刺鉄線もコンクリートの防壁も攻城弩も投石機も、二週間近くかけて作り上げた防衛線が、たった一度の攻撃で早くも崩壊してしまった。


 もうもうと立ち昇る土煙の中から、鎧型擬魔機(アーマーマキナ)に身を包んだ生徒の一団が飛び出してきた。風紀委員を中心に構成された遊撃隊だ。


 遊撃隊がゴーレムに突っ込むが、ゴーレムの背後から《魔法障壁(シールド)》を展開したホムンクルス兵が進み出てきてこれを迎撃した。


 ドワーフの遺伝子を組み込まれた力自慢の風紀委員・奥平が、斧型擬魔機(アクスマキナ)を振って《魔法障壁》を砕き、次々に敵兵を倒していく。


 だが、ホムンクルス兵が数人がかりで奥平に組み付き、動きが止まったところに他の兵士が次々と槍を繰り出した。鎧型擬魔機が貫かれることはなかったが、攻撃の衝撃がもろに伝わり奥平は血を吐いた。

 そこへゴーレムの巨大な鉄拳が奥平を襲う。

 

 別の生徒が横から奥平に体当たりを食らわせた。間一髪、吹っ飛んだ奥平は拳による圧死を免れた。彼は自分に組み付く兵士を振りほどきその生徒とともに後退する。


 百体を超えるホムンクルス兵が同時に《ファイアバレット》の魔法を発動させ、無数の炎の弾丸が遊撃隊を襲う。さらにゴーレムの群れが足を高く上げ踏みつぶそうとする。

 

 鎧型擬魔機の装備により遊撃隊の個々の能力は兵士を遥かに上回っているが、壁のようなゴーレムの前進とホムンクルス兵の数の暴力の前にはなす術がない。遊撃隊は盾を構えながら下がるしかなかった。


 ゴーレムとホムンクルス兵が遊撃隊を追っていると、不意に道路の両脇で大爆発が起こった。

 民家や電柱の根元に仕掛けられた爆薬が爆発したのだ。


 相手の警戒心を弱めるため、勇者やグロウゼビア軍の出現予測地点にはあえて罠を仕掛けなかったが、実は街中のいたるところにこの手の罠が張り巡らされていた。


 もちろん爆発でダメージを与えられないことは承知の上だ。

 

 吹っ飛んだ民家の瓦礫や倒れた電柱が道路を埋めてホムンクルス兵たちを分断し、瓦礫に足を取られたゴーレムがその場に倒れる。

 その隙に遊撃隊が反撃に転じ、連携攻撃で倒れたゴーレムをどうにか仕留める。

 

 道路を迂回していた別の部隊が裏道から出てきてホムンクルス兵に襲い掛かる。応戦のためそちらに向かったゴーレムが深い落とし穴に嵌り身動きが取れなくなった。

 そのゴーレムを仕留めようとした生徒と守ろうとするホムンクルス兵が白兵戦を繰り広げる。


 数で押してくるグロウゼビア軍を相手に、ムーンリーパーらは街中に仕掛けた罠を使い応戦する。

 

 そのような衝突が街のいたるところで起こり、戦況はすぐに膠着状態に陥った。

 この三十年間、日本は領土を奪われるのをただ指をくわえて見ていたわけではなかった。敗走を繰り返しながら、敵を分析し対策を立てていたのだ。

 

 それでも侵攻を止められなかったのは、《銃撃無効》《爆破無効》のスキルのせいだけではない。どんな奇策を弄しても、人間とホムンクルスの間にある戦闘能力の差を埋められなかったからからだ。

 

 だが今、その能力差はムーンリーパーにより埋められている。そこへ三十年間の異世界対策のノウハウが加わることで、ムーンリーパーは想像以上の善戦を見せ、五倍を超える敵兵を相手に真っ向から渡り合っていた。


 

 それに驚いたのは他の誰でもない、勇者クラインであった。

 この三十年間、グロウゼビア軍の進軍が止められたことは一度もなかった。

 

 四年前、中部地方侵略時にムーンリーパーと戦闘になったことはあったが、そのときは相手が少数だったこともあり圧倒的戦力差で蟻を踏みにじるがごとくねじ伏せた。


 前回よりずっと数が多くなったところでやることは変わらない。今回もムーンリーパーどもを踏みにじって前に進むだけだった。


 ――それなのに、どうして俺の軍は前に進めない?


 どうして、ムーンリーパーとかいう異世界製の人造人間(ホムンクルス)ごときに足止めを食らっている?


 踏みにじろうとした蟻が靴裏から足に這い上がってきたような錯覚を覚え、クラインは見えない蟻を払うように自分の足を乱暴に叩いた。


 そして、頭上を飛ぶ小天使へ怒鳴りつける。


「おい、オーランテ、能力向上魔法(バフ)を掛け直せ!」

『か、かしこまりました。しかし、どうするおつもりで?』


 小天使の小さな口からオーランテの神経質そうな細い声が聞こえた。


「あ? いちいち聞かねえと分からねえのかよ。決まってるだろうが! 俺が出てぶっ殺すんだよ、あのゴミどもをなあ!」

『しっ、失礼いたしました』


 すぐにオーランテがバフを掛ける。目に見えない力が自分の体の中に入り込み、体に力がみなぎるのが分かった。


 クラインは首をごきりと鳴らすと、聖剣を引き摺るようにして駆け出した。護衛の兵士がぞろぞろと後を追う。


 前線へ向かっている途中、前方で大爆発が起き、倒壊した建物や瓦礫で道路が埋まった。

 そうやってこちらの進路を塞ぎ迂回したところを待ち伏せする戦術は、昔から奴らが使っている。


 そんな手にいちいち付き合ってやる必要もない。

 クラインは地を蹴って瓦礫を飛び越した。


 そのとき、瓦礫の陰から漆黒の塊が二つ飛び出してきて、空中のクラインに背後から斬りかかってきた。

 クラインが瓦礫を飛び越えることを見越し、二人のムーンリーパーがその場に潜んでいたのだ。


「ちっ!」


 行動を先読みされたことが気に食わず、思わず舌打ちをする。

 しかし、蟻がどんな攻撃を仕掛けてこようが、《全攻撃無効》スキルを持つクラインには傷一つつけることができない。


 だから、そんな奇襲など避けるまでもない。

 そう思った矢先、氷のような悪寒が背筋を伝った。


 それは何百もの修羅場をくぐり抜けてきた勇者が身に着けた防衛本能の警告だった。

 その直感に従いクラインは身を捻った。


 耳元で風を切る音がして二つの刃がすぐそばを通り抜けた。

 右頬に何かが触れる感触。


 ちっ、食らったか。

 だが、俺の《全攻撃無効》の前ではそんな攻撃通じな――


 ――熱い。


 そう感じた次の瞬間、右頬が深々と裂けて血飛沫が宙に舞った。


 ……はあ?


 一瞬何が起こったのか分からなかった。

 ――まさか、この俺が血を流しただと?


 あり得ない。なぜ? どうやって俺の《全攻撃無効》スキルを突破した?


 訳が分からないまま広い交差点に着地。二人の襲撃者もほぼ同時に着地すると、左に伸びる道路に大きく退いてクラインから距離を取った。


 漆黒の鎧型擬魔機をまとったウルグラフといつかのハーフエルフの女だった。


「――!」


 昔なじみの手に見覚えのある剣が握られていることに気付く。その剣の切っ先はクラインの血で赤く濡れていた。


 ――パラーシュかよ。


 あの剣にはクラインの《全攻撃無効》の天敵とも言えるスキル《防御スキル貫通》が付いている。ハーフエルフが持っている剣もパラーシュそっくりだ。恐らく同様のスキルが付与されているに違いない。


 もし今オーランテの能力向上魔法が掛かっていなければ、間違いなく首を斬り落とされていただろう。


 傷を負ったこともそうだが、オーランテの力がなければ死んでいたことが、クラインのプライドを酷く傷付けた。


「……ウルグラフてめえ、それをどこで手に入れがやった!」


「決まってる。【帰らずの森】だ。何も考えずに手当たり次第にダンジョンをこっちの世界に押し付けるからこんなことになるんだよ」

 

 クラインを睨みながら、かつてウルグラフであった少年が飄々とした口調で言った。


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