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43 開戦

 六月一日。

 ついに運命の日が訪れた。


 奪還した街に作った防衛線に三校総勢九百名のムーンリーパーが配置に付いていた。

 彼らは防刃ベストとポリカーボネイト製の防護盾を装備し、腰に24式直剣を三本腰に提げている。一部の生徒はゴーレムの筋繊維を弦代わりに使用したコンパウンドボウを装備していた。


 敵は全員《銃撃無効》《爆破無効》スキルを有しているため、アサルトライフルは装備していない。太腿のホルスターに拳銃が入っているがそれはお守りのようなものだった。


 九百名のうち擬魔機を装備しているのは約百五十名。その中で鎧型擬魔機に身を包んでいる者のはさらに少なく、六十名程度であった。


 偵察のために何十人のムーンリーパーが街の各所を走り回っていた。さらに、総勢三百の偵察用ドローンが街の要所を俯瞰でとらえている。

 

 生徒らが布陣する地点のずっと後方には作戦本部が置かれていた。

 本部には大型ディスプレイが何十台と並んでおり、偵察用ドローンが捉えた映像をリアルタイムに映していた。レトゥグスや自衛隊の幹部がディスプレイを睨みながら小声で言葉を交わしていた。


 レトゥグスが心配そうな顔をしているのはムーンリーパーによる大規模な戦闘はこれが初めてだからだ。


 ムーンリーパーたちの能力を疑うわけではないが、実戦ではなにが起こるか分からない。しかもそれが初の集団戦ともなればなおさらだ。


(みなさん、頼みましたよ……)


 レトゥグスは心の中でそう祈った。

 

 午前十時を回った頃だった。


『――こちら西地区、次元光の発生を確認』


 街の西端の地域を偵察していた生徒からの作戦本部に通信が入った。

 同時に、その辺りを飛ぶドローンが映す映像が真っ白い光に塗りつぶされた。


 レトゥグスは作戦本部の外に飛び出した。

 街の西側にまばゆい光が生まれ、急速に膨張してゆくのが見えた。


 戦いが始まる。



 午前十時頃、奪還した街の西側にまばゆい光が生まれた。

 光は明滅を繰り返し建物を飲み込みながらドーム状に広がっていったが、ある程度の大きさに達したところで膨張を止め光も安定した。


 その光のドームの内側から次元を超えて蒼い鎧を着た金髪のエルフが現れた。右手には聖剣アルクトスを握っている。


 勇者クラインである。


 まるで王者が祖国に凱旋すかのような堂々とした足取りで、クラインはひび割れたアスファルトを踏みしめ悠然と進む。


 クラインのに続き、灰色の全身鎧に身を包み剣や槍、弓で武装したグロウゼビア王国の兵士が続々と姿を現す。彼らは全てホムンクルス兵だ。自律思考を持たず、クラインの命令なら命を投げ出すことも厭わない生ける人形であった。


 五千人のホムンクルス兵と隊列を組み前進するのは五十体を超えるゴーレムである。体長十メートルのゴーレムの群れが歩くたびにアスファルトは砕けて陥没し、地震のごとく大地を揺らした。


 ホムンクルス兵とゴーレムが左右に広く展開して布陣する。クラインはいつの間にか陣の中央に下がっていた。




 陣の後方には司教のオーランテの姿があった。

 かつて勇者パーティーの一員として世界を救ったこの男は、同じ勇者のもと、今度は別世界の一国を滅ぼそうとしていた。


 前回、勇者とともにこちらの世界へ来たとき、オーランテは敵からの狙撃を受けて校舎の崩落に巻き込まれ身動きが取れなくるという大失態を犯していた。


 能力向上魔法(バフ)を掛けるには対象者を目視する必要があり、そのために見通しの良い校舎の屋上に陣取ったのが仇になったのだ。


 勇者に切り捨てられないためにも二度と同じ過ちは犯せない。過去に勇者パーティーでともに戦った魔法使いイングリッドは勇者に処刑され、聖騎士ウルグラフもまた勇者に謀殺されている。


 勇者クラインは仲間にも容赦をしない。彼らと同じ轍を踏むわけにはいかないのだ。


 そのためオーランテはスキル《小天使》を使用した。

 翼の生えた真っ白い小人が複数オーランテの周囲に出現する。これは魔法使いで言う《使い魔》にあたるスキルだ。この小さな天使はオーランテと五感を共有しており、天使が見たものをオーランテも見ることができる。


 この天使を戦場の上空に舞わせていれば、オーランテは安全な後方にいながら勇者の姿を見続けることができるというわけだ。

 小天使の操作に気を取られると自分の周囲への警戒がおろそかになる。そのため、オーランテは十体のゴーレムに周囲を固めさせていた。このゴーレムたちと《全攻撃無効》のスキルがあれば敵にやられることはない。


 さらに間違っても瓦礫に埋もれないように、今度は高い建物のない広い公園内に陣取った。




 勇者クラインはまず数百人の兵士に命じて周囲を偵察させた。こちらの出現場所を読み、罠や伏兵を設置している可能性があるからだ。

 特に建物内は念入りに調べさせたが、意外なことに伏兵も罠も発見できなかった。


(奴ら、勝てないのが分かってるから端っから戦う気がねえのか? それはそれで拍子抜けじゃねえか……)


 ……まあいい。


 あいつらに戦う気があろうとなかろうとクラインのやることは変わらない。

 邪魔者を皆殺しにして東京になだれ込み、都民を鏖殺してから次元錨を打ち込むだけだ。


 空から偵察用ドローンが自分たちを監視していることに気付いたが、クラインはそれを無視した。

 元々隠れるつもりなどない。それにこちらの位置や進路を知られたところでどうせ奴らには打つ手がないのだ。英雄は英雄らしく堂々と進むだけ。それ以上でもそれ以下でもない。

 

 ――征くか。

 

 この手で東京を――日本を滅ぼすために。

 再びグロウゼビア王国を救うために。

 

 クラインは聖剣を高く掲げて高らかに声を上げる。


「全軍前進! 邪魔をする者はことごとく殲滅せよ」


 勇者の声に呼応し五千のホムンクルス兵とゴーレムが一糸乱れぬ足取りで進軍を始める。

 同時に、オーランテがクラインに能力向上魔法(バフ)をかけた。


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