26 死
ひらひらと逃げ回っていたクラインが、全員を振り切ってから足を止め、その場の全員を見回しながら言った。
「あーそうだ、俺さ、お前らんとこにスパイを送ってんだけどよ。そのスパイから聞いたんだ。国重煉人って奴が次元錨ぶっ壊しちゃってくれたんだって? どいつだよ? 今ここにいるのか?」
「国重は俺だ! 正々堂々戦え」
「ああ……、さっきから一番うるせえてめえが国重か。今、日本の英雄様なんだってな」
「だからどうした!」
国重がクラインへ躍りかかり斬撃を繰り出す。
不意に、国重の目の前からクラインが消えた。
次の瞬間、その姿が国重の真後ろに現れる。
「死ね」
聖剣が国重の背中を貫き、左胸から突き出した。
国重の手から《竜撃刀》が滑り落ちる。その口からどぼりと血が溢れた。
「ぐ……」
国重が震える両手を持ち上げて刀身を掴もうとする。
だが、その手は刀身に触れる前に力なくだらりと垂れた。
クラインが乱暴に聖剣を引き抜くと、国重はその場に膝から崩れ落ちた。
そして、
一閃。
聖剣が閃き、国重の首が宙に舞った。
「国重!」
生徒の半数が弾かれたようにクラインに飛び掛かった。
クラインの周囲に複数の魔法陣が展開され、光の矢が放たれる。大半はティナのハッキングで消し去ったが、全ての魔法陣に対応できず三名が矢を受けて倒れる。
「クライン、よくもっ――!」
レトゥグスが両腕を突き出し、超高位魔法の魔法陣を二つ同時に展開した。
「クライン、様。だろ。この裏切り者が」
一瞬でレトゥグスの横に現れたクラインがその両腕を斬り飛ばした。レトゥグスが呻いて倒れた。
「お父さんっ!」
ティナが悲鳴のような声を上げた。
「はっ、俺が逃げ回るだけのボーナスタイムは終わりだ。全員平等に死ね」
クラインが聖剣を振り上げレトゥグスにとどめを刺そうとする。
そのとき、ヘッドセット越しに、コンコンコン、とマイクを叩く音が聞こえた。
来た。合図だ。
「メーメ、撃て!」
『らじゃ!』
僕たちから離れた位置にある雑居ビルの屋上からまばゆく光る白い熱線が放たれた。
熱線は明後日の方向へ飛び、一キロくらい離れた位置にある校舎の屋上に直撃、爆発を引き起こした。校舎の中央に大穴が開き、屋上が崩壊する。
『命中。さっすがわたし!』
校舎に目を向けたクラインの顔が引きつった。聖剣を振り下ろそうとした手が止まりる。
「――クソが、やりやがったな!」
その隙に、ティナや他の生徒がクラインに斬りかかる。クラインは瞬間移動みたいな速度で左に跳んで躱した。
咄嗟に左に跳ぶのはクラインの癖だった。
それを知っていた僕は、クラインの着地際に突っ込みアサルトライフルの銃剣を繰り出した。
クラインが飛び退いてよけた――はずだったが、その動きが急に鈍くなったので、銃剣が顔面にヒットした。
これまでみたいにわざと食らったんじゃない。その証拠にクラインの顔が忌々しそうに歪んだ。
能力向上魔法が切れて動きが鈍ったのだ。
「クソが」
クラインが聖剣を振り回す。バフは掛かっていなくても、その斬撃の速度はハンパじゃない。
でも、ギリギリだったけど僕はその全てをどうにか躱すことができた。
こいつが苛立ったときは必ず自分が一番得意なコンビネーションを繰り出す。それを一番そばで見てきたのは僕だ。どんなに速くても、何の攻撃が来るか分かっていれば躱すことはそう難しくない。
クラインの攻撃の終わり際に銃剣で斬りつけた。その攻撃が効かないことは分かっているはずなのに、クラインは反射的に下がって躱した。反撃に驚き思わず逃げてしまったという感じだった。
すぐ反撃してくると思ったが、クラインはそうせずに横目で校舎の方角をちらりと見た。
「どうしたんだよクライン。オーランテが心配か? 残念だけどもうバフは掛けてもらえないよ。今頃瓦礫に埋もれて圧死してるからね。まあ、もし瓦礫のダメージがなかったとしても身動きは取れないだろうし」
オーランテはサポート・回復特化の司教で戦闘能力は低い。戦闘中は自分が標的にならないように上手く逃げ回るか、戦場から少し離れた場所に隠れるのがセオリーだった。
でも、能力向上魔法を掛けるからには、対象を視認していなければならない。あいつが学校のような背の高い建物からこちらを窺っていることは簡単に予測できた。
だから僕はここに合流する前に静馬を車から下ろし、オーランテを探してもらっていたのだ。




