24 謎のエルフ
戦闘音を頼りに、旧市街の外れに車を飛ばした。
ぼこぼこにひび割れたアスファルトを駆け抜けて戦場に到着したとき、その光景が目に飛び込んできた。
鎧型擬魔機を装備した十人のムーンリーパーとレトゥグスが、たった一人の侵略者を遠巻きに囲んでいた。
侵略者は金の長髪に白皙の肌、宝石のような緑色の瞳を持つ若く美しいエルフだった。
クラインじゃない!
でも、深海のように青く魔術的な装飾が施されたその鎧。
――そして純白の聖剣アルクトス。
それらの装備は間違いなく勇者のものだった。
一体どういうことだ? まさかクラインがあのエルフに装備を譲ったのか?
だが、あいつの性格からしてそんなことをするとは思えない。
レトゥグスが左右の手を前に突き出し、最高位炎撃魔法、《オーバーインフェルノ》の魔法陣を二つ展開した。二つの魔法陣から漆黒の業火が放たれエルフを襲う。
エルフは避けるそぶりも見せず、瞬く間に黒炎に包まれた。周囲の建物やアスファルトが凄まじい音を立てて一瞬で蒸発し、嵐のような熱波が周囲を襲って朽ちかけていた建物や電柱を吹き飛ばした。
さすが元王国魔導士団の団長、凄まじい火力である。その実力は勇者パーティーの魔法使いイングリッドにも劣らないだろう。
高位竜でも焼き尽くす炎を直撃させたにもかかわらず、レトゥグスは額に冷や汗を浮かべ顔を強張らせていた。決して勝利者の顔ではない。
その理由はすぐに分かった。
黒炎が消えたあと、エルフはその場に無傷で立っていたのだ。
二人の生徒が槍型擬魔機を構えエルフに突撃を仕掛ける。
ゴーレムの筋繊維と外殻を加工した鎧型擬魔機は、装備者が体を動かしたときに筋肉が発する微弱な電流を検出、それに連動してゴーレムの筋繊維を伸縮させる。これにより装備者は自分の力にゴーレムの超膂力を上乗せすることができ、単純な筋力は非装備時の数倍、瞬発力も二倍以上に向上する。
その鎧型擬魔機の性能を生かした突撃は、もはや人の形をした流星だった。
二つの流星がエルフに直撃し、凄まじい轟音と土煙が上がった。
だが、エルフは微動だにしない。槍の穂先は間違いなくエルフに触れているのに、なぜか傷一つ付けることができていない。二名の生徒が戸惑ったように後退する。
エルフは唇を歪めてにやりと笑ったかと思うと、自分を取り囲むムーンリーパーたちをゆっくりと見回し、「来いよ」とでもいうように手招きまでしてみせた。
ライフル型擬魔機や竜のブレスを放射する竜息型擬魔機による遠隔攻撃がエルフに殺到し、国重が竜の強固な骨を加工して作った《竜撃刀》で、ティナが《水銀剣》で前後から斬りつける。
その二人が離れると同時に、レトゥグスの最高位雷撃魔法《天雷》×二が炸裂し、巨大な雷の柱がエルフに降り注いだ。残りの生徒も次々と擬魔機を振るい攻撃を仕掛ける。
だが、やはり無意味だった。
地面が抉れ周囲の建物は跡形もなく消し飛んだのに、エルフには傷一つ付いていなかった。
「――! 日都也、どうしてここに?」
ようやく僕に気付いたティナが声を上げて初めて、その場にいる全員が僕に気付いた。
僕が来たことに気付かないくらいに全員が切羽詰まっていたのだ。
勝手に駆けつけた僕を叱る余裕もないらしく、レトゥグスは何も言わずにすぐエルフに視線を戻した。
「クラインはどこに? あいつ誰?」
怒られなかったのをいいことに、僕はレトゥグスに質問する。だが、レトゥグスが返事をする前にエルフが口を挟んできた。
「何だぁ、新顔か? はっ、誰が来たって無駄だぜ。この俺は倒せねえ。なんせチョー強えからな」
エルフは口元を歪めて笑う。
その笑い方や口調は驚くくらいにクラインに似ていた。――いや、似ているどころではない。まさにクラインそのものだ。見た目は全然似ていないのに、一瞬そのエルフの顔がクラインの顔と重なって見えた。
「――お前、誰だ? どうしてクラインみたいに喋る!」
「――あ? ガキの分際で俺のことをお前呼ばわりか? てめえ、あとで殺すから待ってろよ。てか、俺が俺みたいに喋るのは当たり前だろ。俺こそが勇者クライン様なんだからな!」
「嘘を吐くな。クラインはエルフじゃない。あいつは……、多分日本人だ!」
「――っ日本人じゃねえ! 俺はグロウゼビア人だ!!!!!!!!」
突然、エルフは凄まじい剣幕で怒鳴った。だが、感情を乱したことがバツが悪かったのか、エルフは深く息を吸って気を落ち着けてから続けた。
「……ふん。そういや、この姿でこっちに来るのは初めてだから、テメエが分からねえのも無理はねえか。俺もよ、五十を超えるとさすがに体にガタが来てな、膝と肩と腰がいてーのなんのって。それに、食いすぎでクソデブになってハゲ散らかしてきたから、体を捨てて魂をエルフの体に移したってわけよ。
どうよこの顔。チョーイカすだろ? やっぱ乗り換えるなら顔と寿命最強のエルフだな。これで今度は何百年も持つぜ。まさに、僕は死にましぇーん、だ」
そいつはエルフの美麗な顔を歪めて下卑た笑い声を上げた。




