23 命令違反
ほとんど同時に校内にサイレンが鳴り響き、レトゥグスが告げた内容が校内放送で流された。
僕は舌打ちをしてから、屋上の東側に回ってそこから飛び降り自分のクラスのベランダに戻った。ガラス戸をノックして、ちょうどそばでみんなと雑談をしていた静馬に鍵を開けてもらう。
「わ、びっくりした。日都也君、そんなところからどうしたの? ううん、それよりも、今の放送聞いた? 防衛戦だって。何が起こったのかな。うああ、ちょっと怖いねえ。わたしたちのクラスの担当は、グラウンドの南側だったよね?」
「うん。僕は風紀委員会の方に行くから、メーメとは別行動だけどね」
異世界からの侵攻。
突如始まった防衛戦。
聖騎士団長である僕の裏切りと聖騎士団の解体という事実。
色んなことが一気に起こりすぎて僕の頭はパンク寸前だった。
教室後方にずらりと並んだロッカーから防弾ベストやらヘルメット引っ張り出す。ハードケースからアサルトライフルとヘッドセットも取り出して慌ただしく装備する。
クラスメイトらと教室を出て一階に降り玄関を出たとき、正門前に、鎧型擬魔機や各種擬魔機を装備した生徒が十名並んでいるのが見えた。ティナの頭上には《月輪》が浮かんでおり、既に臨戦態勢である。
彼らの前には魔導士団の団長時代の装備を身に着けたレトゥグスがいる。今回は彼も戦うらしい。
奥の方から輸送車が出てきて鎧型擬魔機の一団の前で停まり、彼らを乗せて正門を飛び出す。
「おい、止まるな。後ろが詰まってんぞ」
いつの間にか足を止めていたらしい。友達に乱暴に背中を押されて僕はまた歩き出す。
条彩学園高等部総勢約四百名の生徒が訓練通り配置に付く。
一年A組はグラウンドの南側の守備だ。クラスメイトたちがグラウンドを担当する他クラスの生徒らとともに忙しそうに動き回り展開式バリケードなどを設置している。
僕は他の風紀委員と一緒にいた。半分くらいは擬魔機で武装している。
風紀委員会は遊撃隊だ。自由に動き回って敵をかく乱して他の生徒を助ける。折を見て敵陣に突入して壊滅させるのも仕事なので、傍らでは防弾加工の施されたSUVが数台エンジンを温めていた。
みんな、最初のうちは緊張していたが、少しもしないうちに空気が緩み、グラウンドのそこかしこから控えめな雑談が聞こえ始めた。
防衛戦に備えているものの、何が起こっているのか聞かされていないし、敵は影も形も見えないのだ。気が緩んでも仕方ないかも知れない。
でも、勇者が来たかもしれないのに暢気な空気を出しているみんなに僕は正直苛々していた。
――というか、そんな空気の中でただ突っ立っているだけの自分に苛々した。
馬鹿みたいにこんなところで待機していて何の意味がある?
僕が裏切ったって何のことだよ。僕が誰を裏切ったって言うんだよ。
どうしてクラインはこの世界を、この国を侵略する?
性格は悪いし傲慢だけど、お前だって人々の平和を望んでたんじゃないのか?
それなのにどうして僕の第二の祖国を蹂躙するような道を進む?
答えろよ、クライン!
…………行かなきゃ。
「メーメ、悪いけど、命令違反で僕と心中してくれん?」
ヘッドセットの個別通信で呼びかける。
『ど、どうしたの、いきなり?』
さすがに面食らったのか、調子はずれな返事が返ってきた。
「お前の力が必要なんだ。大丈夫、僕たちは貴重なムーンリーパーだからアホほど怒られるかもだけど退学にはならないよ。だから、頼む」
少し間があった。
『……今度すっごく高いスイーツ奢ってよね。五回くらい』
「恩に着る。今迎えに行くから」
通信を終えてすぐ、僕は少し離れた位置にいた風紀委員の三年生に話しかける。
「先輩、そのライフル型擬魔機、先週手に入れたばっかりですよね?」
「おう、そうだけど。それがどうかしたか?」
先輩の声は念願の擬魔機を手に入れた嬉しさに弾んでいた。
そのガタイの良い先輩が持つのは全長二メートルのライフル型擬魔機だ。僕が倒したゴーレムの生体部品を組み込んだ、強烈な熱線を放つことのできる貴重な遠距離型の擬魔機である。
もしかしたら静馬の手に渡っていたかもしれない擬魔機だったが、先週の所有者選定試験の結果、静馬ではなくこの先輩が所有者に選ばれたのだ。
選定試験の成績は互角だった。静馬がこの擬魔機を手にできなかったのは、体格と体力に劣りこのデカブツの運用に難があると判断されたからだ。
「その擬魔機、もう調整は済みましたか? 試射は?」
「心配すんな。どっちもばっちりだぜ。魔物が攻めてきてもこれで焼き払ってやるよ」
「良かった。それじゃあ動作に支障はないですね。ありがとうございます。お借りします」
僕は有無も言わさずその擬魔機をひったくると、そこに停めてあったSUVに飛び乗って急発進させた。全てのムーンリーパーは車の運転もヘリの操縦も中等部時代に習得する。
土煙を上げてグラウンドの南端へ向かう。擬魔機が長すぎでドアが閉まらない。
「メーメ、乗って!」
僕は助手席のドアを開けながら叫んだ。
「え、わ、わ! と、停まってくれないの? ならせめてもっとスピード落としてよっ!」
静馬が文句を言いながら助手席に飛び込み、勢い余って僕にぶつかってきた。
「ナイスゥ」
僕はアクセルを踏んで加速し正門を飛び出し、街の西側へと急いだ。
異世界からの侵略者がどのあたりに現れたか分からないが、旧市街地か奪還した街の辺りだろう。近くまで行けば戦闘音が聞こえてくるはず。
「ね、日都也君。説明してよ。これどういうこと?」
「勇者が現れたかもしれない。ティナさんたちが迎撃に向かったけど、僕もそこに行く」
「えっ、ゆ、勇者! 無理無理無理無理無理! 勇者ってラスボスでしょ。そんなのと戦いたくないよぉ。降ろしてよぉ!」
「悪い。一生奢ってやるから付き合ってくれ」
「嬉しいけど嬉しくないよっ……!」




