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20 勇者クラインとの思い出2

 翌朝、ヘリファルテとギオもが偵察に出てからしばらくして、ようやくクラインが目を覚ました。

 半分開かない目を擦り、ぼりぼりと黒髪を掻きながら、クラインが欠伸交じりに言う。


「おい、エルフとギオは?」

「僕の独断で偵察に出した」

「あ? 偵察? 何の」

「王から依頼された竜討伐の件、お前もおかしいと思うだろ? それを探ってもらうためだよ」

「はっ、馬鹿かてめえ」


 クラインがそう吐き捨てたので、僕の隣で朝食の用意をしていたイングリッドがじろりとクラインを睨んだ。


「馬鹿って何ですか。おかしいから調べることのどこが悪いのですか?」

「悪いに決まってんだろうが。調べても無駄なんだよ」

「どういうことでしょうか?」

「うっせーな、今に分かる。いちいち説明させんなよ」

「そうやって誤魔化さないではっきり説明してくださらない? この卑怯者」


 イングリッドのきつい物言いに、クラインは唇を歪めて馬鹿にするように笑っただけだった。


 それから一週間後の昼にようやく、僕たちは竜と邪教徒がいる集落のそばまで辿り着いた。

 集落の手前でヘリファルテとギオと合流する。二人とも渋い顔をしていた。

「どうだった?」


 ヘリファルテは無言で首を振った。ギオが溜息を吐いて喋り出す。


「ま、予想はしてたけど、王様の大嘘だぜ」

「というと?」

「集落の奴らは確かに竜信仰をしている異教徒だ。だが、邪教徒じゃねえ。穏健で争いを嫌う奴らばかりだ。んで、この先の渓谷にいる竜は知能が高くて理性的で、この集落だけじゃなくて周りの村からも竜神として慕われてる。訳もなく村を襲って滅ぼすような真似はしない」

「じゃあ、竜が村を滅ぼしたのは何か訳があったってこと?」

「いえ、それ自体作り話だったのよ。周辺の村に聞いたけど、そもそも竜に焼かれた村なんて存在しないって」

「それ、どういうこと?」

「はっ、だからてめえは馬鹿だって言ってんだよ。どうもこうもねえだろ。あの髭面の王様はありもしない惨劇をでっちあげて、俺たち正義の味方に竜を殺させようとしてんだよ」


 クラインが皮肉っぽく口元を歪めながら口を挟む。


「何のためにだよ?」

「何のために? あのなあ、そんなの俺たちにとっちゃどうでもいいんだよ。理由は知らんが、王様は俺たちに竜をぶっ殺させて心臓を持ってこさせたい。俺たちはそれと引き換えに王様から聖剣をいただく。それ以上でもそれ以下でもねえだろ。違うか、ああ?」

「――あ」


 クラインの言葉に納得したわけではないが、その一言で気付いた。

 この国で歌い継がれている歌。


「竜を食らえば神に至る」


 あの王様が国の存亡の危機を顧みずに竜の討伐に固執したのは、竜の心臓を食らって神になるためではないのか?


 そんなものを食べたって神になれるわけはないのに、多分ミル教の伝承にそういうのがあって、ミル教の狂信者の王様はそれを信じて疑わないのだろう。


「オラ、てめえら、ぼさぼさしてんじゃねえ。さっさと竜神様をぶっ殺すぞ!」

「は、アンタ何考えてるの? 正気?」

「おいエルフ。てめえも馬鹿なのか? そのためにここまで来たんだろうがよ」

「何も悪さをしていない竜を殺すなんてできるわけないじゃない!」

「だからよぉ、さっきからそんなのどうでもいいって言ってんだろうが。竜の心臓と引き換えに聖剣を手に入れる。これはそういうミッションなんだよ」

「それは……、そうだけど……。でも、納得いかないわ」

「けっ、文句があんなら来なくてもいいぜ。そこで黙って突っ立ったまま俺が竜をぶっ殺すところを見てろよ。てめえらもだ。来たい奴だけ来い」


 クラインは青い鎧をがちゃがちゃと鳴らして歩き出す。ギオと司教のオーランテがそれに続いた。

 ヘリファルテとイングリッドは動かなかった。


 僕も動かなかった。


 こんな国の隅っこで誰にも迷惑を掛けずひっそりと生きる竜を、王様の狂った思想のためだけに殺すなんてできない。そんなの許されない。


 半日後、すっかり日が暮れてから、クラインは人間の子供くらいの大きさの心臓をギオとオーランテに抱えさせて戻ってきた。


 竜の心臓はまだどくどくと脈打っていた。


 後日、僕たちはその心臓と引き換えに約束通り聖剣アルクトスを手に入れた。

 その日以来僕たちパーティーの間にあった亀裂はさらに広がった。


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