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13 模擬戦

 僕たち四人は体育館に移動した。一般的な高校の体育館の四倍くらいの広さがあって天井も高い。床や壁に弾痕が刻まれているのはここで射撃訓練も行うからだ。


 壁際でレトゥグスとティナが見守る中、僕と国重は体育館の中央で相対していた。お互い自衛隊正式採用24式直剣を構えている。刃は潰してあるが、思いきり相手をぶっ叩けば骨の一本や二本軽く折れるだろう。


 こうして真正面から国重を見ていると、クラインの面影があるのが分かる。

 でも、それほど似ていない。クラインの遺伝子情報を使っていると言われてようやく「あ、そういえば似てるかも」と気付くレベルだ。


 この国にとって勇者クラインは何千、何万の人々を殺した悪魔だ。最強のムーンリーパーがその悪魔とそっくりなのはいかがなものかという意見があったため、容姿に関わる遺伝子をいじったと聞いたことがある。


 僕は前世ではよくクラインと一対一で模擬戦を行っていたが、そのときにクラインから受けたほどの圧力を国重からは感じなかった。でも、さりげない足運びや素振の様子からかなり強いことは伝わってきた。


「では、始め」


 レトゥグスが合図する。


「行くぞ。先手必勝」


 そう言うと、国重は床を蹴って真っ直ぐ突っ込んできた。芸がない。


 ――けど、めっちゃ速い。

 下がったらやられる!


 僕はあえて前に出て、国重が剣を振るう前に肩から体当たりを食らわせた。

 国重は意表を突かれたみたいだったが、体幹が強いのかびくともしない。


 僕は国重に肩を押し付けたまま腹を狙って突きを繰り出したが、国重は横に躱して袈裟懸けに斬り付けてくる。


 剣で受けてすかさず反撃する。国重が僕の剣を払って斬り付けてくる。

 下がってよけると、国重は追ってきて激しい連撃を繰り出してきた。


 手数もそうだが、遺伝子にドワーフの膂力が組み込まれているだけあって、一撃一撃が凄まじく重い。

 僕は自分の剣を相手の剣にぶつけるように振るって力で押し返そうとしたが、さすがにドワーフの筋力にはかなわない。徐々に押されていき、気付いたときにはもう壁際に追い詰められていた。

 

 国重が横薙ぎに斬り付けてきた。

 後ろに高く跳んで躱したとき、背中から壁にぶつかった。


「もらった!」


 国重が手首を返し、空中で身動きのとれない僕に止めの一撃を放つ。

 僕は壁を蹴り国重の頭上を飛び越えて躱しながらカウンターで剣を振るった。


 それで決まると思ったが、国重は僕の予想を余裕で上回ってきた。

 国重は剣を振り抜いた姿勢から無理矢理身を沈めて僕の剣を避けると、振り向きざまに全身のばねを使って斬り上げを放ってきた。


 規格外の一撃だった。

 僕は空中でこれを受けたが、あまりの威力に剣がへし折れた上、そこからさらに五メートルくらい上方に打ち上げられた。


 国重が僕を追って高く跳び連続攻撃を仕掛けてくる。

 僕は折れた剣でどうにかそれを受けたが、最後の一撃だけは防ぐことができなかった。肩口に強力な一撃を受け、そのまま国重に押しつぶされるように床に叩きつけられた。


「ぐっ……」


 思わずうめき声が漏れた。


「それまで」とレトゥグス。


 国重が僕の上から離れて手を差し出してきたので、その手を取って立ち上がる。


「大丈夫か? 悪い、少し力が入った」

「いえ、全然平気です」

「けど皆上、お前、すげーな」

「はい?」

「俺とこれだけ長い間打ち合えるのは天岐か蔦島か志堂くらいしかいねえぞ。壁を蹴って跳んだときの一撃、あれマジで頭掠ってたからな。髪の毛何本か抜けたし。ハゲたらどうしてくれんだよ。てか、よけるの少しでも遅かったら食らってたしガチでヤバかったわ」


 国重はそう言って快活に笑った。典型的な優等生タイプだと思っていたが、思ったより砕けた口調だったし笑い方はクラインによく似ていた。


 機嫌が良さそうな国重とは正反対に、僕は厳しい顔をしていた。ほとんど防戦一方でいいところが全然なかったからだ。


 さすが、ムーンリーパーの最高傑作と言われているだけあってめっちゃ強いな、この人。

 そう思うと同時に、聖騎士時代なら間違いなく勝てただろう相手に手も足も出なかったことに、改めて自分がもう聖騎士じゃないってことを思い知らされた。


 弱いし、スキルも使えない。前世の記憶にしがみついてるだけ。

 ……何だよ僕、全然ザコじゃん。一人でゴーレム倒したからって調子に乗ってるなよ。今の僕なんて所詮この程度なんだよ!


 この程度でクラインを倒してこの国を救おうとか馬鹿じゃないのか? 本気でクラインを倒そうと思ってるならもっと本気でやれよ!


「……すみません。もう一本お願いできますか」


 僕は国重を睨み付けながら言った。こんなに悔しい思いをしたのはいつ以来だろう?


「おう、いいぜ。やろうやろう」


 国重が笑顔で答える。

 もう、目立ちたくないとかレトゥグスに目を付けられたくないっていう気持ちは消えてなくなっていた。


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