12 ダンジョン遠征について
「さて、皆上さん。来たる五月一日に、我々が人類史上初のダンジョン遠征を控えていることはご存知ですね? ここにいる国重さんや天岐さんらムーンリーパーの精鋭で遠征隊を結成しダンジョンに派遣するのです」
「はい。入学式のときに聞きました」
「知っての通り、ダンジョンは元々異世界の土地です。相転移魔法と呼ばれる特殊な魔法により、日本とグロウゼビア王国の土地を次元を歪めて入れ替えることで、グロウゼビア王国は安全な日本の領土を手に入れ、日本に魔物が蔓延るダンジョンを押し付けました」
「ええ、それも学校で習いました」
「この相転移魔法は一度発動すれば放っておいても効果が永続するものではありません。次元を歪ませ土地を入れ替えた後、次元を固定するために大地に次元錨を打ち込まねばならないのです。
次元錨の効果範囲は数十キロメートルと言われています。西日本がダンジョンと化しているのは、その次元錨がここより西の地域に無数に打ち込まれているためです」
勇者と王国軍は侵略をするたびに侵略地に相転移魔法を使い、三十年を掛けて西日本と中部地方を奪った。
侵略が五年に一度というスローペースなのは奪った土地の利用で揉めているためだとも、この次元錨の製造に時間が掛かっているためだとも言われている。
ダンジョン遠征の目的はこの次元錨を破壊し、日本の領土を取り戻すことに他ならない。
ムーンリーパー、擬魔機、ダンジョンや魔物の情報。その全てが揃った今、三十年間奪われっぱなしだったこの国がついに反撃に転じるのだ。
「三十年前と違い、今の我々には魔物を倒しダンジョンの奥深くに侵入し、次元錨を破壊するだけの力を身に付けました。これまでに行ったダンジョン調査のデータから考え、今回の遠征はほぼ成功するでしょう」
「だからもう第二次、第三次ダンジョン遠征の計画を進めているんですよね? 先生は本当に気が早い」
国重が口を挟んで苦笑する。この学校の生徒は特別顧問のレトゥグスを先生と呼んでいる。レトゥグスはそれが聞こえなかったかのように続ける。
「遠征にはより強力な戦力が必要です。第一次の遠征はメンバーも装備も日程も全て決定しているため変更はできませんが、皆上さん、あなたには第二次遠征から参加してもらおうと考えています」
「それは……、光栄です」
言葉を選んだつもりだったが、高校一年生が「光栄」はちょっと違ったかもしれない。
しかし、そんな提案をしてくるってことは、今のところ疑われていないのか? それとも、それを口実にダンジョンに僕を誘い出して、そこで殺すつもりか?
駄目だ、なんか疑心暗鬼になって何を言われても怪しく感じる。
「ただし――」
「ただし?」
「討伐作戦の報告書であなたに実力があることは分かりましたが、残念ながら、私が直接見たわけではありません。お手数ですが、あなたが遠征に加わる実力があるかどうか、この目で確かめさせていただきたい」
レトゥグスがちらりと国重を見た。その国重は僕を見てにやりと笑う。
……あー、そういうこと。
僕はどうしてここに国重がいるのかやっと理解した。
「――呼び出しておいて急に戦え? 先生、それ、あまりに彼に失礼だと思いますが」
ティナが不愉快そうに口を挟んだ。
「ティナさ――天岐先輩、構いませんよ」
誰かに試されるなんて、聖騎士時代からうんざりするほど経験している。今更その回数が増えたところで気にもならない。




