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10 風紀委員会室にて

 放課後、僕は入会届を手に静馬と一緒に二階の風紀委員室へ向かった。


「失礼します」


 ドアをノックしてから中に入る。


 風紀委員室は普通の教室の二倍くらいの広さで、スチールデスクが六台一組で数か所に配置されていた。奥にある大きなデスクは風紀委員長のものだろう。壁はロッカーや書類棚で埋め尽くされており、学校というよりオフィスみたいな感じだった。


 昨日、討伐作戦が終わり引き上げるときに何人かと話しながら帰ったので、室内にいる数人とは知り合いと呼べる間柄になっていた。


 ただ、全員が全員僕を歓迎してくれているわけでもない。


「よお、天岐のコネで入会した皆上じゃねえか。さっそく天岐にゴマすりに来たのか?」


 左手のデスクにいた男子生徒が僕を睨みながら厭味を言ってくる。


 二年生の奥平永汰(おくひらえいた)だ。長めの髪を中分けにして顎髭を生やした男子生徒で、背は低いがガタイが良く、制服がはち切れんばかりに筋肉が盛り上がっている。


 あっちの世界にドワーフという種族がいる。背が低いが筋骨隆々な体格をしており、長く豊かなひげが特徴の種族だ。鉱山や製鉄所、鍛冶屋、宝石商など金属や鉱物に関係する職業に就いている者が多い。


 手先が器用で凄まじく力が強い反面、足が遅く魔力はほとんどない。言ってしまえば魔法を捨て物理攻撃に特化した種族だ。性格は、エルフほどではないものの結構頑固で同族同士の結束力が強い反面、他種賊との交流が薄い。


 奥平はそんな特徴を持つドワーフの遺伝子を組み込まれたムーンリーパーで、ドワーフの気質を強く受け継いだのか新入りを嫌う傾向にあるらしい。昨日蔦嶌(つたしま)がそんなことを教えてくれた。


 僕は笑顔で軽く会釈をして奥平の前を通る。無視しないが相手にもしない絶妙な会釈である。

 委員長の席の右手前のデスクにティナは座っていた。


「お疲れ様です。ティナさん、これ、入会届」


 僕が声を掛けると、ティナはノートパソコンを打つ手を止めて笑顔を浮かべ、それを受け取った。


「うん、ありがとう。わざわざ来てもらってごめんなさいね。確かに受け取ったわ」

「いえ、これくらい全然です」

「静馬さんも一緒に来たのね。もしかして見学?」

「いえいえ。そうじゃなくてですね、日都也君にくっついて風紀委員室に出入りしたら、顔を覚えてもらってスカウトのときに有利になるかなあと思ったので、こうして顔を売りに来たんです。あ、顔を売るって言っても、何とかパンマンみたいに顔が取れるわけじゃないので勘違いしないしちゃ駄目ですよぉ。わたしの顔はこの世に一つだけですから。いわば絶滅危惧種なのです」

「おい、それバラしちゃ駄目なやつ」

「あれ、そうなの? もう言っちゃったけど」

「聞かなかったことにしてもらいなよ」

「うん、そうする。えっと、今のなしでお願いします」

「もう聞いちゃったから無理よ」

「むー、先輩のけち」

「静馬さんは小柄で非力だから白兵戦が苦手で、ゴブリンに苦戦することもあるのよね?」

「……えっ、どうして知ってるんですか?」

「これでも風紀委員の副委員長だから、風紀委員候補を探すために新入生のデータは把握しているの。筆記試験は苦手みたいね。中学時代は先生からいつも落ち着きがないって注意されている」

「うう……、そんなの自分が一番よーく分かってますから、わざわざ言わないでくださいよお」

「でも、射撃の成績は学年の中でも群を抜いているみたいね。凄いわ」

「そうなんですけど……、でも、敵はみんな《銃撃耐性》か《銃撃無効》スキルを持ってますから、あんまり意味ないかもなんですよ……」

「あら、そんなことないわよ。何か一つのことに特化している人は、ときには何でもできる万能な人よりも強いものよ」

「え、わたし、強いんですか? ね、聞いた日都也君。わたし強いんだって」

「うん、あくまでも『ときには』だからね?」

「うー、人が折角喜んでるのにそういうこと言うなよぉ」

「悪い悪い」

「ところで日都也。これから時間ある?」

「ええ。別に暇なんで大丈夫ですけど、どうかしましたか?」

「君のことを父に紹介したいのよ」

「……あの、いくらなんでも話が急すぎません?」

「そんなことないわよ。こういうのは早い方がいいじゃない。ほら、行くわよ」

「ちょっと待ってください。いきなりお父さんに会っても何て言っていいか分かりませんよ」

「こんにちは、でいいんじゃない?」

「うーん、まあ、そうか……。今時『娘さんをください』は古いですもんね」

「…………………………何の話?」

「お父さんに紹介してもらう話です。高校生同士じゃまだ早いとは思いますけど、ティナさんが早い方がいいって言うなら僕も覚悟を決めます」

「別に結婚するんじゃないんだから」

「え、しないんですか?」

「……君、わざとやってるでしょう?」

「わざとやってますね」

「そうじゃなくて、昨日の討伐作戦の件を父に話したら、父が君に興味を持ったのよ。知ってるでしょう? 私の父、この学校の特別顧問なの」

「特別顧問って……、まさかレトゥグス・ラハ・シュノンですか?」

「そうよ」

 

 顔が強張る。そいつは僕がこの学園の中で一番会いたくない人間である。

 

 そう言えばあいつはエルフだが、まさかティナの父親だなんて。昨日までティナのことをムーンリーパーだと思っていたので、二人が親子だなんて考えてもみなかった。


「……急にお腹が痛くなってきたんで、また今度でいいですか?」

「駄目よ」

「あのっ、わたしも一緒に行っていいですか?」

「そうね、んー、一応私の父だけど特別顧問として日都也を呼んだわけだから、あまり他の人を連れて行くのは良くないと思うわ。だから、ごめんなさい。今回は遠慮してちょうだい」

「えー。分かりましたけど。えー」


 静馬は拗ねるように頬を膨らませた。


「それじゃあ、行きましょう」


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