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クリスの隠し子騒動 その2

クリスとサリエルは図書館の別の本棚へと移り、サリエルが気になる魔術書を手にとってパラリと流し見していた。


するとザワザワとした騒がしい声が耳についた。


「図書館でなんだろう。」

クリスが入り口の方を見やると、王太子が側近を引き連れて中に入って来るところだった。


「ゲ!メンドクサソウ」

そう言うが早いか本を本棚に返すと、サリエルを小脇に抱えて図書館の奥へと急いだ。


「なんですの?」

突然のことに驚いたサリエルがクリスの顔を見上げて声を上げると、クリスは勘弁してという情けない顔をして


「いや、面倒な人がなぜかやって来たから、急いでここを出よう。」

と言うと、あっという間に転移魔法でその場から立ち去った。



王太子とその側近が図書室の奥に着いたときには、そこには誰も居ない。


「あれ、さっきそっちの方に行ったのに。」

二人を気にして見ていた人も、おかしいなと首を傾げる。


「きっと転移魔法で脱出したのだろうが、こそこそとするその行動、やましいことでもあるのだろう。本当にこの国から出国する気だろうか。あいつも大魔法使いの類に漏れず、か。しかしそんな大きな隠し子までいたとは。」


王太子は苦々しい顔をして側近に話しかけた。


そこへ急いで駆けつけた魔術師団長が話しかけた。


「殿下、こんな所に呼び出して何事ですか?」


「団長、令息は息災か。」


その言葉を聞いて不満げな顔を浮かべた魔術師団長に、輪をかけて不満げな顔を隠そうともせず王太子がじっとりとした眼差しを向けた。


「・・・うちのに何か?」


王太子の不機嫌さに自分の不肖の息子が関与しているとなれば、思い当たる節しかない魔術師団長は言葉少なく聞き返した。


「サロンの個室で話そうか。」

そう言うと、図書館奥の個室を借りて、そこへと側近と共に入って行った。



席につくと、魔術師団長が再度尋ねた。


「うちの愚息がなにかしましたか?」


「単刀直入に聞く。クリスに隠し子がいるのは本当か!?」


思いかけぬ質問に、魔術師団長は息を飲んだ。


「え?アレに子供が?なんの冗談ですかな?うちのアレに女が居ると殿下、本気で思われているのですか?」


「・・・なるほど、団長は知らぬようだな。先程までここで、面影の似た娘と二人本を読んでいたそうだ。

二人の話を聞いた者が申すには、父娘でどこぞに自由に旅たとうと言っていた、と。

今代の大魔法使いも王国から消えるのかと思ったが、それだけでなく同じ素要素のある娘まで連れてとなると、より問題は深刻だ。」


ひどく切羽詰まった様子の王太子の話を聞いて、別の意味で焦り出す魔術師団長。


「で、殿下、面影が似た娘と出国すると言っていたのですか!そ、そ、それは大変だ、一大事だ!なんと!奴め魔術師の(サガ)に引っ張られたか!」


「なんだ、急に慌てて。」


尋常じゃ無い様子の魔術師団長に王太子が怯んだ。


「殿下、アレが連れていたのは5才の女児で間違いないですか?黒髪黒目の!」


「ああ、そう聞いている、おい、間違いないな!?」

王太子が急ぎ報告してきた側近に聞いた。


「はい、間違いありません。4、5才ほどの少女を小脇に抱えて、転移魔法で図書館の前に現れたのです。」


「アーイーツーめー!こうしては居られない。もし本当にその子供と一緒に出国などしたら目も当てられぬ。こうしては居られぬ、至急魔法大臣に伝えねばならぬ。殿下、御前を失礼。」


そう言うのが早いか転移魔法でどこかへと向かいそうな勢いの魔術師団長の腕をむんずと掴んで、


「待った、待った。説明をしろ、なんだ!魔法大臣とはどういうことだ!?」

と、王太子が慌てて聞いた。


「王太子、手を離して下され。出国されてしまったら大事です。ヤツが連れていた女児は小公爵家の令嬢ですよ。今、あいつは彼女の家庭教師をするのに公爵邸で生活をしているのですが、他国に出国するのにご令嬢まで連れていくなど、誘拐紛いのことをするとは!とにかく、急いで小公爵に伝えねば。」


そう言うが早いか、王太子の手を振りほどいて、今度こそ転移魔法で行ってしまった。


「え?その連れの女児とは小公爵のご令嬢・・・誘拐とな?それこそ、大事ではないか!急ぎ、捜査に当たれ!」

王太子が側近に命令し王へ報告に向かい、側近は王国騎士団と憲兵へと知らせに走った。



自身の執務室で仕事に当たっていた魔法大臣の小公爵の元へ魔術師団長が転移魔法で現れた。


「な!どうしたというのだ、王宮内での転移は禁止されているだろうに。」

驚きの声を上げる小公爵に、魔術師団長が焦って言った。


「クリス、く、クリスがサリエル嬢を連れて王立図書館に現れて、二人で出国の相談をしていたそうだ。急ぎ存在の確認を取らねばならぬ。一緒に公爵邸へと向かうぞ。」


「な、なんですと!なぜそんな話になっているのです?二人?侍従のガブは連れてなかったのですか?」


「王太子に今しがた聞かされた話では、確かに二人と言っていた。王太子の側近が聞いた話だそうだ。出国されては不味い。とにかく、屋敷へと今すぐ向かおう。」


「わかりました。」


そう言うと、各々転移魔法で公爵邸へと向かったのである。



そうとは知らない二人は、王都の中央広場の噴水へと続く階段に腰を下ろし、屋台のアイスクリームを買ってのんびり食べていた。


「どうだい、なかなか美味しいだろう?」

クリスが夢中でアイスを食べるサリエルに話しかけた。


「ええ、とっても。刺繍の先生がお休みされたお陰で、とても楽しい時間が持てますわ。」

口の周りにクリームをつけながらサリエルは満足気に答えた。



その頃、公爵邸に転移魔法でついた小公爵は出迎えた執事のセバスチャンに声をかけた。


「サリエルは屋敷にいるか!?」


「いいえ、お嬢様はクリス様と王立図書館へと行かれるとおっしゃて出掛けてまだお戻りではございません。」


「サリエルは今日は稽古の日だろう?ガブはどうした?どうしてついていない。」


「今日は刺繍の家庭教師が急病のため、お休みになりました。ガブは部屋の模様替えを手伝っておりますが。なにかございましたか?」


玄関口から入りもせず、早口でサリエルの状況を確認する小公爵に、不測の事態を感じたセバスチャンが質問する。


「うちのクリスがサリエル嬢を連れて出国すると図書館で話していたらしく、王太子に呼ばれ急ぎ図書館へと向かったが、もう転移した後だった。まさかそんなことは無いと思いたいが、魔術師の(サガ)に引きずられたと万が一でもあっては困る。」


魔術師団長が沈痛な面持ちでセバスチャンに話す。


「そんな、まさかとは私も思うが、王太子がそういうのだ、とにかくサリエルを見つけなければ。公爵家の騎士団に探すように伝えろ!」

小公爵はそう命じると、魔術師団長を伴って自身の執務室へと入っていった。



玄関先でザワザワと騒いでいる声がガブにも聞こえてきた。

相方の先輩侍従に暇を告げて、セバスチャンの元へと向かった。


「セバスさん、何か問題が起こったのですか?」

「ああ、ガブ。お嬢様がクリス様と一緒に出国すると大騒ぎになっている。王国騎士団より先に、急いで屋敷に連れ戻さないと、例え王太子殿下の勘違いであってもクリス様もお嬢様も何かしらのお咎めを受けるかもしれない。」


「ええ!僕も探しに行きます。」


「ガブ、行き先に心辺りがあるのですか?」


「あの二人が図書館から居なくなったということは、たぶんそのまま帰らず、魔法の練習に行ったと思います。本で読んだ魔術を試したくなると思うので。ですから、広くて人の目が無い場所!つまり、王都の外れの森の中では?」


ガブの推測に理解を示したセバスチャンは、公爵家の騎士団長にガブを連れて馬で森の外れまですぐに迎えに行くように伝えた。


「ガブ、王太子の出国するって話よりお前の話の方が俺は信憑性が高いと思ってるよ。一刻の猶予もない、舌噛まないようにちっとばかし気いつけとけよ!」


騎士団長はそうガブに声をかけて、馬に鞭打って猛スピードで森へと向かったのだった。



お読みくださいましてありがとうございました。


誤字誤謬があるかもしれません。


わかり次第訂正いたします。


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