後日談 教会の断罪と再生
もう少しお付き合いください。
このサリエルたちが住まう世界で一番信者が多く、トーホー王国や周辺国で信じられている教会の教えとは、
《この世界を創られた、創造神と魔法を与えたもう精霊と病や怪我を癒す天使を三位一体として心から信じて奉れば、いずれ困難を乗り越える力を神から譲り受けた者が現れ、世界は新しく生まれ変わり、苦しみの無い幸福な世界が訪れるだろう》
という物である。
創造神と言われる神の存在は俄には感じがたいが、誰でも身近に魔法が存在する世界なので、魔力とは精霊から力を与えられわれわれ人間は使わせて貰っていると、そう平民も貴族も身分を問わず精霊の存在は身近に感じていた。
同じように、光属性の者は精霊からではなく天使から力を与えられた特別な者と思われ、治療院で治療をして貰ったことがある者たちは光属性の者が即ち天使であろうと、信奉の対象のように思われたいる節がある、、、光属性の者がほとんど居ないトーホー王国以外の国では。
もちろん、初代大魔法使いソフィアの時代には光属性の者は同じように天使と同列で語られていたため、前王族のダイエー王朝と王権をかけて戦う戦いに参加しなかったエドワード1世が国王に選ばれたのも、光属性の者を天使から力を与えられた特別な存在という認識が広く国民に持たれていたからだった。
ところが、ソフィアの呪いのせいで、身近に光属性の者が居ない現在のトーホー王国では、その存在は珍種の花やアンティークの花瓶や滅多にないダイヤのように、コレクションのような扱いだった。
誰に?トーホー王国の王妃に、である。
当然、繰り返しになるがそれ以外の国では光属性の者は天使と同列に語られている国も少なくないのだ。
それを拐って使役するなど、三位一体を旨とする教会の信義に背く行為だと、厳しい声がそこここで上がった。
『トーホー王国に神罰を与えなければならない』と。
『天使の無念を晴らさなければならない』と。
トーホー王国の王妃が、光属性の者を拐って集めて使役していた事件には、もちろん教会がずっぷり深く関わっていた。
教会が海賊や闇ギルドが違法に集めた者たちを、高値で買っていて、それをトーホー王国の王妃とその側近や王妃の生家に更に高く高くと値を吊り上げて売っていたのだから、つまり教会が奴隷商人をやっていたのだ。
奴隷商人は、トーホー王国やその周辺諸国のある大陸全土では既に違法とされ、国際条約で禁止されていたにもかかわらず、違法行為を教会が率先してやっていたのだ、己の私利私欲のために!
『なんと嘆かわしい!教会関係者が三位一体の天使たる、光属性の者を利己の為に貶めていた、それは悪魔に魂を売ったということだ!』
と、多くの国が教会を糾弾し、改革を迫った。
しかし、ここ数十年、教会内で権力を握っていた者たちは、トーホー王国の司教を勤めた者で構成され、この事件が公にされた時の教会は、大司教、枢機卿、教皇と上層部全てが汚染されていた。もちろん上が汚染されていれば下はそれに倣うで、上から下まで汚染され、ひどい有り様であった。
教会本部がある国、というか国自身が教会の存在で成り立っている、《ユニバ教国》は、その存在意義を見失い、各国の支持を失い、組織としての体を成さなくなっていた。
残っている数少ない、教国の中のまだ汚染されていない若い神父たち、他国で普通に教義に則った生活をしていた身分の低い神父などが集まり、この困難な局面を打破すべく協議に協議を重ねていたが、如何せんこの中の者が代表では教会を糾弾している各国が納得しない。
話し合いの中、ある若い神父が独り語ちた。
「不正の中にあって、しかもトーホー王国の国内の司祭であっても尚、清貧を貫き教会関係者に苦言を呈していた東の教会の司祭(東の孤児院の院長)しか、新生した教会の代表は務まらん。」
それを耳にした者たちは、確かに彼の方がいた、と、その存在を思い出した!
「東の司祭様は失脚したと聞いているが、その後はどこにおいでだ?お年的にはまだ存命であろう?」
「そうだな、10年ほど前は探している者もいたが、みつからなかったと聞いていたが。」
「と、いう話し合いが堂々巡りを繰り返しまして、どうか探してもらえませんか?」
ユニバ教国の教会本部にどうしても来て欲しいと、招かれたダニエルとアイラが若い神父にお願いをされていた。
ダニエルとアイラが東の司教と懇意であったのでは無いかと思われたのは、その当時、各々の名前で結構な額を何度も東の教会に直接持っていって寄付していたことが名簿に記載されていたからだった。
トーホー王国東の教会 キリロス司祭は善悪の判断の出来る正しい司祭で、孤児院で自らも寝泊まりし、教会のお勤めの他、孤児の面倒も直接司祭がみていた。
教会に割り当てられていた歳費も孤児院に割り振ってしまう上に、お金が無くて本国から派遣されてくる治療治療師は一人しか置けず、また治療をしても貧しい人からは治療費を貰わなかったので、日々の貧しさは言うに及ばず。
治療に来る人が多くてたった一人の治療師だけでは大変だからと、司祭は朝晩に森へ行って薬草摘みをしたり、薬湯を自ら煎じたりと身を粉にして教会に尽くしていた。
ダニエルとアイラはキロリス司祭の人となりを聞いて、自分達の身にもしものことがあったら、南の娼館に匿っている光属性の者とガブ、管理人の夫婦の保護をして欲しいとお願いに行ったのだった。
教会内部の腐敗には気づいていたが、光属性の者を拐い奴隷商人のようなことを教会がしていることをダニエルたちの告発で知った司祭は、二人の願いを聞き入れると共に、その間違いを正そうとしたのだったが、それが一部の教会関係者ではなく、教会のトップまで絡んだ大規模腐敗だったため、ある日、その命を狙われる羽目になってしまったのだ。
キロリス司祭の失踪に自分たちが関係していると深く後悔をしていたダニエルとアイラは、その行方を以前から幾度となく探していたのだが、なんの手がかりも得られぬままだったが、今回はなんとか司祭を見つけ助けだせるようにするとその若い神父に答えたのだった。
父子の感動の再会をした日、ガブの体にマリアの魔力痕を感じたロトは、マリアによって体内の魔力溜まりに蓋をされ、魔力経脈を細くされたガブの封印を解いた。
勇者と光の乙女の子であるガブの本当の力は、サリエル、クリス、ロトよりも更に大きく、これが教会の教義に記されている神から与えられた力だと、そこにいた者は本能で感じ取ったのだった。
ダニエルとアリラがユニバ教国からトーホー王国に戻り、ガブとサリエル、そしてロトと、荒らされたかつての東の教会の中に居た。
「ロト、お前また若い二人にくっついて回って。そのうち、濡れ落ち葉なんて揶揄されるぞ!」
ダニエルが片眉を器用に上げてロトに言った。
「それってどういう意味ですの?」
サリエルが即座に反応する。
「濡れた葉っぱが靴の裏に貼りついてたら、歩き辛くてウザったいだろ?そう言う意味さ。」
「なるほど、勉強になりますわ。」
二人で目を見合わせて、小さく頷いていた。
「そんなことはない!サリーちゃん、お義父さん濡れ落ち葉じゃないよね?今日は偶々一緒に来ただけだもんね?」
ロトがアワアワと言い訳を言っている、その横で、
「なにか、魔力を感じますね。このどこかに、地下室かな?」
「行ってみましょう、ガブ探知を続けて。」
ガブとアイラがキリロス司祭の探索を始めていた。
地下に続く細い螺旋階段を降りていく。
着いた先は、宝物庫、いやガラクタ置き場、倉庫だった。
子供が書いた絵や経典の写し、瓶に詰められたドングリ、布に包まれた薄いブルーの割れたガラス片、そういった多くの人にはガラクタや塵屑にみえる者も、たぶん孤児院の子供たちが院長先生にプレゼントした大事な品なのだろう。
キチンと貰った日付とくれた子供の名前を書いて、所狭しと置いてあった。
「この奥に魔力を感じる、アレ?この魔力って?」
一番奥の床に落ちている古ぼけたフェルトの小さなポーチを手にすると、そのガマ口を開き手を突っ込んだ!
「これ、クリス先生のマジックバッグ!せーの、、、」
ガブが声をかけ奥から何かを掴み出した。
すると、ドダドダドダドダ・・・と、司祭と司祭の体中に引っ付いている子供が六人飛び出してきた。
「え?キリロス司祭様!!」
アイラが叫ぶと、
「え?何だってもう見つけてしまったの!?」
「ガブ抜け駆けはズルいぞ!」
「司祭さま!」
上で遊んでいた3人が入ってきた。
ガブが拾ったポーチは、幼い日に王宮で、王太子のお付きに即されて、教会のバザーで出す物をと、クリスが作ったマジックバッグだった、クリス齢4才である。
「幼き魔法使いが、当時まだ神父だった私に、もし隠したい物があればここに入れといたら絶対見つかりませんよ。心貧しき人が持つと悪用される恐れがあるので、神父様がバザーで買ってくださいね、1ドラ(=100円)です。」
キリロス司祭は当時そう言って売り付けて来たクリスから買って倉庫に保管していたという。
そこに入れるような隠さなければいけないものなど、この教会には無い。
宝も財宝も無いのだ、キリロス司祭は清貧である。
しかし、あの夜、孤児院の窓を割って押し入ってきた者から逃れようと、教会のこの倉庫に逃げ込み、偶々一番奥に置いてあったこのマジックバッグを手にしたのだった。
躊躇している間もないと子供たちと手を取り合いそのバッグの口を開いたら、光に吸い込まれた先は教会の中だった。
但し、出口がないのだが。
そこで数時間みなでジッとしていたが、光と共に大きな手に司祭が捕まれたので助けようと子供たちが引っ付いたら、元の倉庫に戻ってきた、そんな話をキリロス司祭と子供たちは話したのだった。
「とても小さい世界では、時間がスゴくゆっくりと進むのよ。これはクリス先生の初期型のマジックバッグね、物を小さくする魔方陣が書き込まれているのでしょうね。」
サリエルがそう言って、マジックバッグを検証していた。
「何はなくとも、司祭がご無事で良かった。」
ダニエルが涙ぐんで、そう言葉を告げる。
「お主は随分更けたな、アイラさんはお変わり無く。」
司祭が二人を見てそんなことを言う。
「まあ、お上手ね。オホホ」
「ファハハハ」
そうして、キリロス司祭失踪事件は大円団となった。
キリロス司祭はユニバ教国へ向かい、教皇になって改革を指揮した。
教皇の相談役には勇者としてロトが指名され、教団の聖騎士団を取りまとめたり、各国の王族と交渉したりとキリロス教皇と二人三脚で教会の改革を推し進めたのであった。
「良かったな、ガブ。少し距離ができた方が親子は上手く行くもんだ。」
ダニエルがガブにそう語りかける。
「ええ、父が教会を改革しているのを見聞きすると誇らしい気持ちになります。俺は勇者ロトの息子なんだってそうみなに聞いて欲しいようなそんな気がします。」
「今度会った時に、それあいつに言ってあげて。めちゃめちゃ喜ぶから。」
そう言うダニエルの目が赤くうっすら涙の膜が貼っているのは、見ないことにして、
「わかりました。伝えますよ。」
ガブがそう笑顔を向けると、ダニエルの涙腺が崩壊していた。
「年を取ると涙もろくなるのね。」
アイラが呆れた目線を向けた。
「ロト様のこと、本当の息子みたいに思っているのですもの、仕方が無いわ。」
「じゃあ、私もお祖母ちゃんの気持ちにならなくっちゃね、フフフ」
サリエルとアイラはとても嬉しそうに笑い合うのだった。
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