ガブ父に会う
翌日の早朝、白い砂浜に降り立ったチームアズールの面々は裸足で砂浜の砂の感触、打ち寄せる波の音、波しぶきの冷たさを堪能していた。
「こ、これが、海!すごい!サリー、足の裏がキュッキュする。」
今日も女剣士姿のエラがはしゃいでいる。
「じゃあ、こんなのがあったら良いんじゃない?エーもどうぞ」
そう言うとクリスがパラソルとデッキチェアを魔法で出してそこに腰かけて、エラにすすめた。
「あら、素敵だわ!」
そう言うと、サリエルも同じ物を自分とガブの分を出して腰かけるが、
「寛いでいるところ悪いが、直ぐにでも父に会いに行きたいんだ。」
ガブが焦った顔でそう言った。
「いや、まだ時間が早くて相手にも悪いだろう?ここで朝食にしよう。ゾノさん、お願い。」
クリスがそう声をかけると、どこからともなくフットマン形代のゾノさんが、たくさんのトレーを積み重ねて運んできて、クリスとサリエルのそえぞれのテーブルに2セットづつ置いた。
そして、南国フルーツが添えられたトロピカルジュースを持ったに家政婦形代のミタさんも現れた。
「まあ、今日のミタさんはフルーツカッティングをして下さいましたのね。」
スイカの皮にヤシの木とハイビスカスの模様を彫った器を見てサリエルが喜びの声をあげる。
「さあ、ガブも座って。朝食にしましょう」
ガブは静かに腰かけ、ジュースを飲んだのだった。
そんなリゾートな時間を過ごしているところへ、極彩色の羽のオウムが飛んできた。
《ついてこい》
そうオウムからテレパシーのようなもので話しかけられた。
一行は立ち上がると、そのオウムの飛んで行く方角へとクリスのラグに乗ってついていった。
椰子の木や熱帯の木々が生い茂る森の中、突然現れた、木造の屋敷。
それは周囲と調和しており、古いが手入れが行き届いていて、感じの良い邸宅だった。
《入り口から中へ進め》
オウムはまたテレパシーで告げるとどこかへ飛んでいってしまった。
ガブが挨拶の声をかけ、ノブを捻ってドアを開けた。
「俺が先に入る。クーは最後尾をお願い。」
そう指示を出して、ガブが進む後ろをサリエルがついていき、エー、クーと順に入っていく。
中はヒンヤリとした空気が漂い、甘い花の香りがした。
奥へと進むと、急に扉が開き、紺の髪を長く垂らし片眼に眼帯をした男が両手を広げて出てきた。
「会いたかった、ガブリエル!パパだよ!」
そう言うが早いか、ガブをギュッと抱き締めた。
「げ!」
運命的な出会いの場面に似つかわしくない声がガブから上がる。
「おい、ロト。息子がひいてるぞ、顔みてみろひきつってるから。」
そう言って後ろから現れた男性に窘められ後ろに引っ張られた。
「仕切り直しだ。初めまして、わたしがダニエル、こっちがガブの父親のロトだ!」
「初めまして、チームアズールのガブと言います。後ろはチームのメンバーです。」
「初めまして、私はサリーです。」
「初めましてエーです。」
「初めまして、クーです。」
そう言うと、一行とダニエルは握手を交わし、ロトを眺めた。
ロトは挙動不審でその場に立ちすくんでいた。
「あ、こいつ息子に初めて会うのに緊張して、少し今おかしくなっているからほっておいて。さあ、こちらのテラスで座って話そう。」
ダニエルがそう言うと、家の奥にある中庭に面したテラスに設えたソファへと案内してくれた。
ガブの目の前に座ったロトはジロジロと不躾な眼差しをガブに向けた。
「ガブ、迎えに行くのが遅くなって申し訳ない。本当は訃報を聞いた時にすぐにでも迎えに行けば良かったのだが、大規模な海賊団制圧作戦を行っていた時で、言い訳になるが君のことを思わない日は無かったのだが。すまん。」
そう言うと、ガバリと勢い良く頭を下げた。
「いえ、お父さん、と、お呼びしても?私はサリー様の元で暮らしてまして、特段不幸ではございませんでした。お気になさらず。」
「お父さんと、是非呼んでくれ。そんな他人行儀な。一発、いや百発でも気が済むまで殴ってくれ。お前を独りぼっちにしたことをもっと詰ってくれて良いんだ!」
ロトは悲壮感たっぷりな顔でそういうが、殴るなどという考えも無かったガブは、結構引いた。
「ロト、いい加減にしないか。ガブの顔をみてみろ、笑顔がひきつっている。
ガブ、ロトはこうなんというか、私と幼い頃から荒事の中で冒険者として暮らしていたので、普通の家族関係を知らないんだ。
アイラと一緒に暮らしていた時も冒険者だったのでね、こう、間違ったら拳骨!嬉しかったら抱き締める!みたいな、ちょっと劇団仕草なんだ。オーバーアクションというか。悪いヤツじゃないから、引かないであげて。」
隣からダニエルが口を挟んだ。
「ではお父さん、海賊団の制圧作戦とは一体なんですか?昨日アイラさんもダニエル様と二人で報復をしているとか物騒なことを言ってましたが。」
ガブが自然に気になる言葉の意味を問うた。
「ああ、息子よ、抱き締めても?それはダメ?そうか、残念。いや、失敬。
マリアと恋仲になって、あの島で一緒に暮らしていこうと思ったのだが、子が出来たことで今後、問題が起こっても困ると、ダニエルに相談に行ったんだ。あの時マリアも連れていけばと何度悔やんだかしれない。まだ妊娠初期だったので、負担になってはと置いていったのが、悲劇の始まりだった。
なんでも王妃が多くの光属性の者を必要としているとかで、闇ギルドや海賊に教会が褒賞金を渡して拐わせていたのだった。
ダニエルと一緒に島へ戻ってみると、そこは地獄絵図で、光の乙女は全員拐われてしまった。
俺は、魔力痕を探知してすぐに探しに走ったのだが、悪事がバレぬように海上で小舟に移され、あちこちのルートでトーホー王国へと運ばれ、俺一人では時間がかかってしまった。
とりあえず、拐った海賊を潰し情報を得ながら、しらみ潰しに探して歩く他無かったんだ。」
そういうと、ロトはガブを見ながらその紺色の目から涙を流して泣き出した。
「すまない、お前にはもっと家族の幸せを与えてやれると思っていたのに。
マリアにも幸せにするって約束したのに、俺は何も守れなかった、ガブ、生きていてくれてありがとう。サリエル嬢、ガブを保護してくれてありがとう。
君のおかげでガブは普通の生活がさせてもらえた。
俺が出来なかったことをしてもらった恩は必ず返す。
まして、あのジャックとマリーの孫だからな、何倍にしてでも返すよ。」
そう涙に濡れた目でサリエルにも話しかけた。
「いいえ、お義父様、わたくしに恩義などお持ちにならないで。ガブと知り合えたのはわたくしの運命でしたのよ。」
サリエルがポッと頬を赤らめて言う。
「なんとお義父様と!そうか、ガブとサリエル嬢が夫婦か。ではジャックの孫が義理の娘か!これはお義父さん、張り切って王家を断罪しちゃうぞ!」
さっきまで泣いていたロトは一転満面の笑みを浮かべてそう物騒なことをサラリと言った。
「え?サリーとうとうガブと良い仲になれたのかい、早いね、いや早くないか、もう8年だもんね。」
クリスが驚きを口にし、
「まあ、サリー!いつの間に。その瞬間を目に焼き付けられなかったこと、我が生涯一生の不覚。」
エラはそう言って顔を覆った。
「クーもエーもなにをこんなところで言ってるんだ、サリーも暴露しないで!お父さん、王家を断罪って何ですか?そこ核心ですよね、この話の」
ガブが首まで真っ赤に染めながら、全方向にツッコミを入れた。
「ガブは苦労性だね、こんな時に律儀に。」
ダニエルはそう、可哀想な者を見る目を向けて、王家の断罪について話し出したのだった。
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