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【書籍化】燃費が悪い聖女ですが、公爵様に拾われて幸せです!(ごはん的に♪)  作者: 狭山ひびき
学園生活を謳歌します!

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エピローグ わたくしたちの明日(SIDEエレン) 3

お気に入り登録、評価などありがとうございます!


これにて第二部終了です!

 それから少しして、エレンは、最後の判断をするためにイザークと話をする機会を得た。

 もしイザークが、ここで気づいてくれたら。

 エレンの味方をしてくれたら。

 エレンの言葉を聞いてくれたら、もしかしたら二人の関係を変えることができるかもしれない。

 そんな淡い期待は、イザークにものの見事に打ち砕かれたのだが。


「僕が誰と友人になろうと君には関係のないことだ。それとも君は、僕が人の本質を見抜けないような愚か者だと言いたいのか? 馬鹿にしないでくれ」


 ああやっぱり、イザークはエレンの言葉を聞いてくれない。

 エレンの言葉だけ、聞いてくれないのだ。

 もうこれ以上は無理だろう。

 もう――疲れてしまった。


「……最後に一つだけ。わたくしは、殿下がよき君主となられることを、心より願っております」


(わたくしにはもう、あなたの隣で、あなたを支えることはできないけれど――)


 好きだったのだ。

 決してこちらを見てくれない冷たい婚約者だったけれど、大好きだったのに……。

 あのときエレンは確かに、もう、この関係を終わらせようと思っていた。



     ☆



「エレン」


 学園が夏季休暇に入り、エレンと父のクラルティ公爵はそれほど間を開けず王宮に呼ばれた。

 理事長室での話し合いについて、国王や王妃を交えて改めて話し合いをするためだ。

 本当はあの日――理事長室でイザークに時間を割いてもらったあのとき、エレンは、イザークとの婚約の解消を持ち掛けるつもりだった。

 エレンに危害を加えていた者たちをたどれば、イザークの友人である令嬢たちに行きつくのはエレンもわかっていた。そしてある程度、証拠も揃えてあった。これを提出すれば、エレンとイザークの婚約は、父の手によって解消に持ち込まれるのは間違いなく、最後にイザークの気持ちを聞こうとあの場を用意してもらったのだ。


(それなのに、まさかイザーク殿下が動いていたなんて……)


 イザークはエレンを信じていなかった。

 何を言っても無駄で、言えば言うほどにエレンが悪者になる。

 イザークの心は完全にエレンに背を向けていて、どれだけ手を伸ばそうとも、触れることすら敵わない。


 そう、思っていたのに。


 イザークに呼ばれてエレンは顔を上げる。

 今、エレンとイザークは城のサロンにいた。

 話し合いは終わり、案の定、父は激怒したけれど、最後の最後――イザークが、友人たちを切り捨てたことは評価した。

 意思を問われ、イザークがエレンとの婚約の継続を願ったこと、エレンが否を唱えなかったことで、婚約の解消までは至らずにまとまっている。


 ただし、イザークの友人たちおよび、ボダルト侯爵については、父は厳格なる処罰を求めた。

 多少の情報操作はされるだろうが、彼らがエレンを害そうとしたと言う事実は公表され、恐らくだがボダルト侯爵は失脚、イザークの友人たちは学園を去ることになるはずだ。

 エレンに対する嫌がらせでも、少々のものであれば大きな問題にはされなかっただろうが、中には命にかかわるようなものもあった。あれは「殺意あり」と受け取られても仕方がなく、王太子の婚約者の命を狙ったともなれば、かなりの重罪が課せられる。

 とはいえ、爵位を剥奪されるか、罰金となるか、はたまた実刑となるかはまだ決定していないが……処刑にはならないはずだ。

 処刑という重罰を与えてしまうと、エレンが身の危険にさらされていたことに加えて、イザークがエレンを放置していたことまで知られる可能性があった。王家としてはそれを避けたいところだし、言ってしまえば、学園内の問題だ。子供がしたことであるので、情状酌量の余地が生まれる。


 テーブルを挟んで反対側のソファに腰かけているイザークは、いつになく緊張した顔をしていた。

 何故かその手には、黒い仮面が握られている。


(なにかしら、あれ)


 ものすごく気になるが、今はそれを突っ込むより確かめておきたいことがあった。


「殿下、本当によかったんですか、わたくしとの婚約を継続して。……来春ごろには結婚式です。今日を逃せば、解消する機会はございませんよ」


 イザークは、エレンをずっと嫌っていたはずだ。

 それこそスカーレットのような天真爛漫で表情のくるくると変わる愛らしい女の子がよかったのではないだろうか。

 スカーレットは無理だろうが、探せば、王妃としても問題のない教養と冷静さを持つ、けれども明るく可愛い女の子が見つかるかもしれない。国内にいなければ国外でも。その機会を、イザークは失ったことになる。


「エレンはいつも、自分のことより僕のことばかりだな」

「そんなことは……」

「あるよ。いつもそうだった。そして僕は……いつもそれに腹を立てていたんだ。君が僕のことに口を出すのは、君の目に僕が頼りなく映るからなのだろうと。上から言われていると思って、ずっと君の言葉を聞こうとしなかった」


(そんな……)


 エレンは小さく息を呑んだ。

 そんなつもりはなかった。

 イザークが心配で……上から抑えつけようなんて思ったことはなかった。本当に本当にだ。強いて言えば、イザークにこちらを見てほしかった。彼と対等でありたかった。もっと話がしたかった。頼ってほしかった。……頼りたかった。

 そんなエレンの気持ちが、イザークには鬱陶しかったのだろうか。負担だったのだろうか。

 きゅっと唇を噛むと、イザークが慌てて首を横に振る。


「勘違いしないでくれ。今では、君が僕を想って進言してくれたとわかっている。……僕がただ、子供だっただけだ。自分の意思とは関係なく決められた婚約に反発し、君のことを何も知ろうともせずにただ目を背けた。本当に申し訳なかった」


 イザークが頭を下げるのを見るのは、これで三度目だ。


 一度目は理事長室で。

 二度目は、先ほどの話し合いの席で。

 三度目が、今。


 この方は、こんなに簡単に人に頭を下げる方ではなかったのに――、特に、エレンに対しては絶対に謝罪なんてしなかったのに、何がイザークを変えたのだろうか。


「すごく時間がかかってしまったけれど、これからは君と向き合って、君の素敵なところや可愛いところをたくさん知っていきたいと思っている」

「か、可愛い……?」


 言われ慣れないことを言われたせいでつい狼狽えると、イザークがくすりと笑った。


「スカーレットに言われたんだ。エレンは素敵でとても可愛いのに、それを知らない僕は損をしているしとってもおバカですって。……スカーレットは、たまに容赦がないよね」

「スカーレットが、そんなことを……」

「挙句に、あと一点で失格ですとか、殿下はポンコツですとか言うんだよ。そして、仕方がないからってこれを貸してくれた。この仮面をつけてカッコよくエレンにプロポーズしろだって」

「まあ……」


 どうして仮面、と思わなくはなかったけれど、スカーレットのすることだ。彼女はたまに変わった言動をする。そこがまた可愛いのだけれど。


「さすがに仮面なんてつけたらカッコいいどころか笑われるだけだからしないけどね」


 イザークは肩をすくめて仮面をテーブルの上に置く。


「エレン、僕は自分で思っている以上にたぶん頑固だし、視野が狭くて、思い込みが激しい。だけど、もうエレンに対して間違いなんて犯さないよ。これからはちゃんと君を見て、君と一緒に歩いて行きたい。だから――」


 イザークがソファから立ち上がり、エレンのそばまで歩いてきた。

 その場に片膝をつき、そっとエレンの手を取る。


「僕と、結婚してくれませんか?」

「――っ」


 まさか、こんな日が来るなんて思っていなかった。

 婚約が解消にならずに結婚したとしても、イザークとはずっとすれ違いの毎日だろうと思っていた。

 彼がエレンに向き合うことも――こんな風に、自分から求婚してくれることもないと、そう思っていたのに。


(スカーレット、きっとあなたが……)


 イザークを変えたのは、きっとスカーレットだ。

 可愛くて優しくて、とんでもなくお節介な、だけどとびきり素敵な聖女様。

 これまでだって「お友達」の一言でエレンに返し切れないだけのことをしてくれたのに、さらにこんな……。もう、一生かかっても、スカーレットに恩を返し切れない気がする。


「……わたくしで、よろしいのですか?」


 この期に及んでこんな確認を入れてしまうところが、エレンの可愛くないところだろう。

 お慕いしていますと、涙を浮かべながらイザークに抱き着きでもすれば、ちょっとは可愛げがあるものを……、それがわかっていてもできないのだから情けない。


「君がいいんだよ。僕のために、ずっと一生懸命に努力してくれた、エレンが……、こんな僕の立場を考えてずっと我慢を続けてくれていたエレンがいいんだ。きっと全世界探したって、僕のためにこんなに頑張ってくれる女の子はいない。……僕はもっと早くにそれを理解すべきだった」


 ここで、嘘でも好きだと言わないのがイザークだ。

 そんなにすぐに気持ちは変わらない。

 だからこそ、信じられた。


「殿下……、ずっと、お慕いしております」


 泣きそうになりながら、小声で告げると、イザークが瞠目した後でふわりと笑う。

 イザークがこんな風に柔らかく笑いかけてくれるのははじめてで、エレンは涙が溢れないように我慢するだけで精いっぱいだった。


「情けない婚約者でごめん。……これから、たくさん話をしよう。君のことが知りたい」


 イザークが立ち上がって、エレンの隣に腰を下ろす。

 そして、少しだけぎこちない動作で、まるで壊れものでも扱うように慎重に、エレンをぎゅっと抱きしめて――


「あ、あとごめん……。スカーレットには、ちゃんと仮面をつけてカッコよくプロポーズできたって誤魔化しておいて。怒られる……」


 最後はちょっと情けないことを言って、これもイザークらしいと、エレンは笑った。






お読みいただきありがとうございます!

第三部開始まで少々お待ちください!

ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ

どうぞよろしくお願いいたします。


ノベル②巻にて、スカーレットが「仮面怪盗ジャック」にはまるきっかけになったお話

『スカーレット、怪盗に魅了される』と、

エレンとイザークのその後の様子を描いた

『ドキドキは恋の病だと聞きました!』の

2本の番外編が読めますので、こちらもよろしくお願いいたします!


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