エピローグ わたくしたちの明日(SIDEエレン) 2
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それは、唐突に起きた。
イザークのあの表情を見た日から、ずっともやもやが続いていたエレンは、少々油断しすぎていたのかもしれない。
ドンッという衝撃に気づいたときにはすでに遅く、エレンは階段からものの見事に転がり落ちていた。
驚きすぎて、悲鳴を上げる暇もなく。
気づいたときには足首に激痛が走っていて、階段の上を見上げれば数人の女生徒が走り去っていく後ろ姿だけが見えた。
「つぅ……」
立ち上がろうとして、雷に打たれたような激痛に眉を寄せる。
これはまずい、かもしれない。
階段の踊り場で一人うずくまったまま、エレンは唇を噛む。
誰もうずくまるエレンに手を貸そうとはしない。
(それはそうでしょうね。だってこの学園では、わたくしは悪者ですもの)
おかしな噂が広まっていることに気づいたのはいつの頃だっただろう。
エレンが不特定多数の女生徒から嫌がらせを受けるようになったのと同じ頃だろうか。
おそらく誰かの陰謀だろう。
そう思って調べていたら、イザークの友人たちに行きついた。
なんとなく、筋書きを描いたのはボダルト侯爵令息あたりではないかと思われる。
あそこは、長女をリヒャルトにあてがおうとして失敗し、そのあとは虎視眈々とイザークの婚約者の座を狙っていた。
そのことにエレンも、父であるクラルティ公爵も気づいていたけれど、正直、クラルティ家と張り合ったところでボダルト侯爵家に勝ち目はない。
くだらない嫌がらせ程度なら、波風立てずに放置しておくのが賢明だろう。
そう思って、しばらくの間静観した。
その間にイザークが気づいて対処してくれればなおよし。気づかなくとも、イザークの側にいていつまでもエレンに対する嫌がらせはできまい。そう、思っていた。
(甘かったわ)
イザークは、エレンを嫌っている。
その事実がボダルト侯爵令息を増長させたのだろう。
嫌がらせは日に日にひどくなっていき、エレンも対処を検討する段階に入っていた。
その矢先に、これだ。
(でも、表立ってボダルト侯爵令息たちに罪を問えば、彼らの友人であるイザーク殿下の名前に傷がつくわ。わたくしとの婚約も……白紙に戻る可能性が高いでしょうね)
イザークが動き、ボダルト侯爵令息たちを断罪したのならばいざ知らず、エレンが自ら動けば、恐らく父はイザークを見限るだろう。
学園内ですら婚約者を守れない男に、この先娘は託せないという判断を下すに違いない。
もともと、父はエレンが王家に嫁ぐことに固執してはいないのだ。
この婚約は、王家に望まれて結んだものなのだから。
(どうしたらいいのかしら。……いえ、今はまず、どうやってここから移動するかでしょうね)
立てないのが困った。
何か杖の代わりにできるものがあればいいのだが、残念ながらそのようなものは持ち歩いていない。
(扇とハンカチで足首を固定すれば、何とかなるかしら?)
両足を痛めたわけではない。片足だ。それならば痛みさえ我慢すれば移動できるはずである。
(スカーレットも迎えにいかなければならないのに……)
何とかここから移動して、医務室に常備されているはずの聖女の薬をもらい、足を治療した後でスカーレットを迎えに行く。
時間的に、厳しいだろうか。
すでにかなりの時間をロスしているはずだ。
(困りましたわ……)
伝言を頼もうにも、頼める人物がいない。
クラルティ公爵令嬢であっても、学園に個人的な護衛や使用人をつれてくるのは不可能だ。やむを得ない事情がない限り認められない。ゆえにエレンの周りに、伝言を頼めそうな人はいないのだ。まあ、護衛がいればこのように無様に階段を転がり落ちることもなかったのだろうが。
「エレン様⁉」
エレンが弱り果てたそのときだった。
スカーレットの声がして、顔を上げればスカーレットとシャルティーナが駆けつけてくるところだった。
見つかってしまった、と自己嫌悪に陥りたくなると同時に、スカーレットというエレンにとって味方と言える存在の登場にホッとする自分がいた。
結果、エレンの足のけがは、スカーレットがあっという間に直してしまって。
――エレンはこの日、今後の身の振り方について、今一度改めて考えることにしたのだ。
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