エピローグ わたくしたちの明日(SIDEエレン) 1
あけましておめでとうございます!
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
――イザークは、スカーレットが気になっているのだろう。
エレンがそのことに気が付いたのは、何も偶然ではなかった。
最初におやと思ったのは、スカーレットを音楽室に案内した日のことだった。スカーレットが学園に登校した初日である。
リヒャルトから学園でスカーレットのことを頼まれていたエレンは、彼女を伴って音楽室に来た。
スカーレットは、いろいろ危うい。
孤児院と神殿で育った世間知らずな聖女が貴族社会で生きることだけでも大変なのに、婚約者は王弟、ヴァイアーライヒ公爵リヒャルトである。
次期王も狙える立場にいた男で、今でさえイザークではなくリヒャルトを次の王にという声は多い。
リヒャルトは極力スカーレットに貴族社会に関わらせたくないと言っていたが、否が応でも巻き込まれるのは誰が見ても明らかである。
そんな彼女がこれから先貴族社会で生きていくには、最低限、武器になるものが必要だ。
そしてその武器は、貴族令嬢の場合「教養」という一言で表される。
(スカーレットには、他者から侮られないだけの最低限の教養が必要だわ)
かかわった以上。頼まれた以上。エレンはスカーレットの面倒を見るつもりである。
状況によっては、クラルティ公爵令嬢として、それから未来の王太子妃としてスカーレットの後ろ盾になるつもりでいた。
もっと言えば……、エレンに向かって、何の打算もなくすがすがしいほど無邪気に「お友達」なんていう人物は、恐らくこの先においてもスカーレットただ一人だろう。
ならば、友人として、スカーレットを守るのはもはやエレンの使命のようなものだ。
そんな風に感じながら、スカーレットを音楽室に連れてきたあの日。
イザークが、にこやかに微笑みながらこちらに近づいてきたのだ。
イザークは、エレンを苦手としている。
用事がなければ近づいてこないイザークが、自らの足でエレンの方に近づいてきたことに驚いた。
同時に、その視線が、ただただスカーレットに向いていることに合わせて驚く。
エレンは幼いころからずっとイザークを見つめ続けてきたのだ。彼の表情の変化くらい、見ていたらわかる。
なんとなく、スカーレットはイザークの好みだろうとは思っていたけれど、ここまでわかりやすく彼女に好意を示すとは思わなかった。
ツキン、とエレンの胸が痛む。
出会ったばかりの少女には向けられる好意は、恐らくこの先もエレンには向けられない。
(わたくしがそばにいるのに、違う女性にそのような顔を向けるのね)
期待は、していなかった。
ただ、イザークの側にいられればそれでいいとも思っていた。
でも――
(わたくしは、何をされても傷つかない人間では、ないのよ)
本当に、このままイザークと結婚できるだろうか。
ずっとそうなると疑わず生きてきたエレンは、あの日はじめて、自分の未来に疑問を持ったのだ。









