エレン様のプライド 3
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お薬を作ると言っても限度があるので、聖女科の生徒たちはビーカー一杯分の薬を作れたら終わりである。
わたしはたくさんの薬を作ることに慣れているけど、普通の聖女はせいぜいお薬の瓶に五本程度が限度だって言っていたから、聖女の卵である生徒たちに無理はさせられない。
シャルティーナ様はちょっと無理をしてお薬の瓶に換算して十本分くらい作ったけど、そのあとでぐったりしていた。
わたしはたくさんお薬を作れるけど、わたしのグレーゾーンへの参戦はダメって言われたから、学園の医務室に置くように薬瓶に五本だけ作ったよ。わたしのお薬は医務室専用だから、聖女の卵の薬と分けて管理される。
……とはいえ、ここも別のグレーゾーンが発動されてて、学園の医務室に置かれている聖女の薬を買わせてほしいって要望が一部の貴族たちから殺到しているらしいけどね。
ベルンハルト様は、これらは怪我をした生徒たちのためのものだと突っぱねているみたいだけど、今度は生徒を使ってこっそり薬を入手させようと企む人まで出てきているそうだ。
学園内は基本安全だけど、今の状況では聖女の卵や聖女であるわたしやシャルティーナ様に直談判に行く人が出てくる可能性があるからと、わたしたちに専属の護衛がつくことになった。
わたしはリヒャルト様の口利きで、ハルトヴィッヒ様が護衛についてくれたよ。
まあ、べったり張り付く護衛じゃなくて、一定の距離を取って見守る形なんだけどね。学園内だから、さすがにべったり隣にくっついて護衛はできないんだって。
聖女科の授業が終わったら、エレン様が呼びに来てくれる。これから音楽室で音楽の授業を聴講するのだ。
今日は楽師たちが演奏するのを聴くのではなくて、生徒たちが演奏するのを聞くらしい。
リヒャルト様が音楽の先生を雇ってくれたから、明日からわたしも音楽のお勉強がはじまるし、参考のためにしっかり聞いておこう。
「おはよう、スカーレット」
エレン様と窓際の最後尾の席に座って授業のはじまりを待っていると、イザーク殿下がにこやかにやって来た。
イザーク殿下はいつもわたしの隣に来るんだけど、わたし、イザーク殿下の考えていることがよくわからない。
イザーク殿下と一度だけお昼ご飯を一緒に食べたけど、その時にはエレン様に対して不満があるようだった。
それなのに、わたしとエレン様のそばにくる。
エレン様とイザーク殿下が仲良しならそれに越したことはないけど、イザーク殿下はわたしに話しかけるけどエレン様には話しかけない。
イザーク殿下はわたしとお友達になりたいのかな?
お友達が増えるのは嬉しいけど、エレン様を無視する人とお友達にはなれない。だって、わたしはエレン様のお友達だから。
にこやかにわたしに話しかけるイザーク殿下と、イザーク殿下を見ずにただ前を向いているエレン様。
二人は婚約者で、結婚するのに……、このままで幸せになれるのかな。
わたしに貴族のことはよくわからない。
だから余計な口出しはしたらダメだってわかってる。
……でも、言いたい。エレン様は幸せですかって、訊きたい。
いつだったか、リヒャルト様が言ったことがある。
結婚は、その人の人生を一生を左右する問題なんだって。
もちろん、別れることもできるけど、高位貴族になればなるほど、離婚は難しくなるんだって。
だから、お互いのことが好きじゃないけど夫婦を続けている人もいるんだって。
……エレン様も、このままだとそうなるのかな?
エレン様はイザーク殿下が好きだけど、イザーク殿下はエレン様への不満を口にしている。
だからこのままだったら、気持ちは一方通行のまま。
お互いに好きじゃない、よりはましなのか、それともより悪いのかは、わたしにはわからない。
でも、たぶん悲しい。
わたしはリヒャルト様が大好きだけど、もしリヒャルト様がわたしを好きじゃなかったらって思うと悲しくなるのと一緒。
わたしはそっと胸の上を抑えた。
もやもやする。
そしてそのもやもやは――お昼前に爆発した。
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「枯れ専令嬢、喜び勇んで老紳士に後妻として嫁いだら、待っていたのは二十歳の青年でした。なんでだ~⁉」
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