ドレスのデザインと秘密 2
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……調子、悪いのかな?
アリセさんの青い顔に気づいたのは、わたしだけではなかったようだ。
ベティーナさんも心配そうな顔になっている。
「体調がすぐれないのであれば、後日でもかまいませんよ」
今にも倒れそうな雰囲気のアリセさんを気遣ってベティーナさんが提案したけれど、アリセさんは固い顔で首を横に振った。
「お気遣いありがとうございます。大丈夫です。少し、寝不足なだけですので」
……寝不足なのは間違いなさそうだけど、本当にそれだけ?
気になったのでアリセさんをよくよく観察してみる。
怪我はしていないみたい。病気は……見ただけだからはっきりとはわからないけど、何か大病を患っているわけではないだろう。
寝不足で疲れがたまっている?
でも、表情が硬いから、何か痛いのを我慢してる?
気になったけど、アリセさんがテーブルの上にデザインの書かれた紙を並べはじめたので、今はそちらのお話を先にした方がいいかもしれない。このお話が進まないと、アリセさんも気が気じゃないだろうし。
「こちらが結婚式のドレスのデザインです。そしてこちらが、パーティーでお着換えするドレスのものになります。ご確認ください」
まずはベティーナさんチェックが入るので、わたしはお菓子を食べながら二人のやり取りを見守ることにした。
ベティーナさんがデザインを見ながらアリセさんにあれこれ質問している。
……結婚式のドレスだけで、デザインが十二枚もあるね。
アリセさんがどれだけ本気でこのお仕事に向き合っているのかがわかる数だった。
だって、前の大きな仕立て屋さんは二枚だったもんね。デザイン。
ベティーナさんも真剣にデザインを確認しているけど、大きな仕立て屋さんのときより表情が明るい。前のときは眉間にしわが寄っていたから、アリセさんのデザインはベティーナさんにとっても納得のいくものなのだろう。
十二枚のデザインの中から、ベティーナさんが時間をかけて三枚選んだ。
「スカーレット様、いかがですか?」
三枚のデザインを渡されたので、チーズケーキを食べる手を止めてデザインを確認する。
「こちらは胸の下からスカート部分が花のように広がるのでウエストの締め付けが一番ないタイプですね。こちらの方は、サイドラインはすっきりしておりますが、切り替えの下にタックを入れているのでお腹周りはゆったりしております。最後にこちらは縦にも刺繍のラインが入りますので、ウエストラインはゆったりしていますがスタイルがよく見えます」
十二枚すべてコルセット不要のデザインで作られていたようだけど、ベティーナさんは特にこの三枚が気に入ったんだって。
わたしがデザインを見ていたら、アリセさんが張り詰めた表情でこちらを伺っていた。
「どれも可愛いです」
「では、この三つを候補に入れておきましょう。回答待ちの残りの二店のデザインも確認してから、最終的に判断いたしましょうか」
アリセさんだけで三枚も候補があるなんてすごいね。
最初のお店は候補ゼロだったし、二番目にデザインを持って来たお店は四つあるデザインの中で候補は一枚だけだった。
アリセさんはホッとした顔をして、今度は結婚式のあとのパーティーで着るドレスのデザインの説明に映る。
またベティーナさん確認が入るので、わたしは食べかけのチーズケーキを手に取った。
……このチーズケーキ、チーズの部分がふわふわと軽い食感で美味しい!
チーズケーキをワンホールぺろっといただいたところで、ベティーナさんがピックアップしたデザインを確認する。
こちらは五枚。
もちろん全部可愛いので、五枚とも候補入りだ。
……あとでリヒャルト様にも確認してもらお~っと!
ドレス選びの責任者はベティーナさんだけど、リヒャルト様が気に入ったものがいいもんね。
デザインを確認した後は、談笑のお時間だ。
さすがにデザインだけ受け取ってさようなら、も失礼だからね。
「アリセさん、このチーズケーキ美味しいですよ」
わたしがぺろっとワンホール食べたチーズケーキだけど、大丈夫。もうワンホールあります。
メイドさんがケーキを切り分けてアリセさんの前に置く。
お疲れのようだから、甘いものでも食べて元気を出してほしい。
アリセさんは恐縮しきった様子で「ありがとうございます」とぺこぺこ頭を下げてからフォークに手を伸ばした。
ケーキを一口食べて、ふわりと目元を和ませるから、きっと気に入ったんだと思う。
……わたしはもうワンホール食べちゃったから、あれはアリセさんとベティーナさんの分!
かわりに、クッキーをいただきます!
美味しいお菓子を食べてお茶を飲みながらお話しするのは、最近のドレスの流行についてだった。
ドレスの流行は、身分の高い女性が何を着たかで変わるんだって。
身分の高い女性とはつまり、王妃様やシャルティーナ様、エレン様のことなんだけど、リヒャルト様と結婚したらそこにわたしが加わると聞いてとっても驚いた。
……え? わたし、たくさんご飯が食べられるかどうかしか考えてないよ⁉
ドレスのデザインなんてわからないし、コルセットは嫌だから、たぶん、わたしを参考にしたらダメだと思う。
わたしはおろおろしたんだけど、ベティーナさんはくすっと笑いながら「コルセットが廃れるかもしれませんね」なんて言っている。それって大丈夫なんでしょうか?
お菓子を食べたからなのか、デザイン確認の緊張から解き放たれたからなのか、アリセさんの顔色はちょっとだけよくなったみたい。
とはいえまだ心配なレベルだけど、詮索しない方がいいのかな。気になるけど。
アリセさんはチーズケーキを一切れだけ食べて、十五分ほどして席を立った。アリセさんもお仕事があるからあんまり長居はできないよね。
お見送りは不要だってベティーナさんに言われているから、サロンで別れる。
「アリセさん、お仕事忙しいんですかね?」
アリセさんがサロンから出て行ったあと、気になったのでベティーナさんに訊ねたら、困った顔で頬に手を当てた。
「仕立て屋の規模に対しての仕事量を考えますと、恐らく、寝る間も惜しんで仕事をなさっていると思いますよ」
「寝る間も!」
それは大変だ。そんなことをしていたら倒れてしまう。
「睡眠は大切ですよ! 聖女仲間も言っていました! お肌の大敵?」
「それは少し意味合いが変わりますが……大切なのは間違いないですね」
ベティーナさんが笑いながら、残っていたチーズケーキをわたしのお皿に乗せてくれる。
……の、残すのはもったいないもんね? 食べていいんだよね?
自分の分は全部食べちゃった後だからいいのかなって思ったけど、ベティーナさんがにっこり微笑んでくれたのでフォークを握り締めた。
……やった、チーズケーキ!
ベティーナさんが「お気に召されたようなのでまた買っておきましょうね」と言ってくれる。ベティーナさん、優しい!
わたしがルンルンとチーズケーキを食べはじめた時だった。
「申し訳ございません、スカーレット様! お力をお借りしてもよろしいでしょうか!」
珍しく、ゲルルフさんが焦った様子でサロンに駆けこんでくる。
アリセさんが、倒れたらしかった。
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わたくし事ですが、7/30、書籍デビューして四周年を迎えました!
2021年に初めての書籍が出てからもう四年も経ったんだなと、感慨深い気持ちでいっぱいです。
五年目も頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします!









