ドレスのデザインと秘密 1
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聖女たちの「ストライキ」について、詳細が入らないまま一週間が過ぎた。
わたしは学園に通ったり、結婚式のドレスの打ち合わせをしたりしながら毎日を過ごしていた。
リヒャルト様も輪をかけて忙しくなっちゃって、朝ごはんを一緒に食べた後はすぐにお城に行って夕方遅くに帰って来る。
……一緒の時間が減って寂しい。
領地にいたときは、三食と一日二回のティータイムのときは一緒だったし、それ以外も、リヒャルト様の実験だなんだと一緒にいる時間が多かった。
リヒャルト様にはお仕事があるので、ずっと一緒にいられないのはわかっているけど……、ここのところ、リヒャルト様が足りない。
「ベティーナさん、今日もリヒャルト様は遅いんですか?」
午前中だけ学園に行って、お邸に帰ったら、やっぱりリヒャルト様はいなかった。
「そうですね……、夕食までにはお戻りになると思いますが」
夕食の時間まであと七時間。長い。
しょんぼりしていると、ベティーナさんが気を取り直したように「お昼ご飯にいたしましょう」と微笑む。
ぐぅ、とわたしのお腹も主張したので、もちろんそれには異論はない。
二階に上がって制服からルームウェアのワンピースに着替えると、とことことダイニングに向かう。
……一人のダイニングって、とっても広い。
十人以上が座れるテーブルは大きいし、部屋も大きい。
椅子に座ると、ゲルルフさんが「今日はスカーレット様のお好きなお魚料理ですよ」と柔らかく目を細めながらオレンジジュースを注いでくれた。
ジュースを飲みながら待っていると、次々に料理が運ばれてくる。
今日のメイン料理は鯛のポワレだって。
皮目がカリッとしていて、身はふわふわでとっても美味しい。
……このカリカリの皮と身を一緒に食べると面白い食感!
わたしはたくさん食べるので、ポワレも特大だけど、あっという間に食べ終わる。するとすぐに次が運ばれて来た。
スープも根菜のサラダも、焼き立てのバゲットも、全部美味しい。
美味しいんだけど……ちょっとだけ味気なく感じちゃうのは、きっとリヒャルト様がいないからかもしれない。
リヒャルト様はわたしが食べているときは、いつも優しい顔で見守ってくれる。
どれだけ食べても驚かないし怒らない。
微笑んで、「好きなだけ食べなさい」って言ってくれる。
リヒャルト様の「好きなだけ食べなさい」は、わたしにとっての魔法の言葉だ。わたしという、もりもりご飯を食べちゃうちょっと困った存在を肯定してくれる、優しい言葉。
……リヒャルト様、早く帰ってこないかなぁ。
まあ、わたしも、午後から「結婚式の準備」というお仕事があるんだけど。
お昼ご飯をたっぷり食べて、お茶を飲みながら一息つく。
あと一時間くらいすれば、仕立て屋のアリセさんがドレスのデザイン画を持って来てくれることになっていた。
ベティーナさんが声をかけた仕立て屋さんは合計五つで、大きなところから、アリセさんのように独立したばかりの小さなところもある。
アリセさんは一番に打ち合わせに来てくれたけど、デザイン画を持ってくるのは三番目だった。
ちなみに最初にデザイン画を持って来てくれたのは五つの中で一番大きな仕立て屋さんだったけど、ベティーナさんはデザインが気に入らなかったみたいだった。
流行は取り入れているし綺麗だけど、こちらの要望(すなわちウエスト周り)がきちんと反映されていなかったんだって。
コルセットは不要だったけど、ウエストを絞るデザインだったから、食後のポッコリお腹のことを考えてベティーナさんが「ダメ」と判断したみたいだった。
結婚式のあとの料理は豪華みたいだし、もちろんわたしはもりもり食べたい。
だから、たくさん食べられるドレスがいい。
ベティーナさんは「老舗の仕立て屋はデザイナーのプライドもありますから、要望がきちんと通りにくいんですよね」ってため息をついていた。
とくにわたしは公爵夫人になるから、仕立て屋さんとしては特大の広告塔らしい。
デザイナーさんは腕の見せ所だって言うけど、そのせいで、自分が「いい」と思うものを押し通そうとする傾向にあるんだとか。
ベティーナさんが小さな仕立て屋さんにも声をかけたのは、老舗の仕立て屋さんによくある「プライド」が邪魔だと判断したからなんだって。
……うん、わたしもプライドよりご飯を取るよ。だってドレスは食べられないし。
特に一番大きな仕立て屋さんは王妃様御用達のお店だから、プライドは山より高いって言っていた。山より高いプライドってどのくらいなんだろう。なんかすごそう。
「明日にはティアラのデザインも仕上がるはずですよ」
「金色ですか?」
「ええ、金にしております」
結婚式のティアラは銀が主流らしんだけど、リヒャルト様の髪の色がいいって言ったら金色で作ってくれることになったのだ。ちなみに、ラベンダー色は奇抜すぎてダメって言われた。そもそもラベンダー色の金属がないらしい。
そろそろアリセさんが来る時間になったのでサロンに移動する。
小腹がすいてくるタイミングなので、サロンにはお菓子がたくさん運ばれて来た。
さすがにアリセさんが来る前にお菓子を食べはじめたらだめだよねって、美味しそうなお菓子を前にお腹を抑えながら待っていると、五分くらいしてアリセさんがやって来る。
「本日はお時間を取っていただき、誠にありがとうございます」
アリセさんが丁寧に頭を下げて席に着く。
手には分厚い紙の束を抱えていた。
……いったいどれだけのデザインを描いたのかな?
驚いて顔を上げたわたしは、アリセさんの顔色を見て目を瞬く。
アリセさんの顔は、パッと見てもわかるくらいに青ざめていた。









