ストライキってなんですか? 2
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問題とは聖女に関することだというので、わたしはリヒャルト様と共にお城に向かうことになった。
リヒャルト様は帰っていいと言ってくれたけど、なんとなく、今はリヒャルト様と離れたくない気分だったのだ。
陛下はサロンでお待ちだというので、リヒャルト様とサロンへ向かう。
そこにはベルンハルト様とシャルティーナ様の姿もあった。
……お二人も一緒なんて、いったい何があったのかな?
ここまで案内してくれたハルトヴィッヒ様が一礼して去っていく。
わたしとリヒャルト様が席に着くとお茶とお菓子が運ばれて来た。わたしの前には大量に。
「スカーレットも来てくれて助かるよ」
陛下は穏やかに微笑んでそうおっしゃる。
ちょっと厳格な感じはするけど、やっぱりイザーク殿下と陛下は顔立ちがそっくりだ。
「それで、突然召集をかけるなんて、いったい何が起きたんですか」
「デートの邪魔をしたのは悪かったが、そう怒るな。ベルンハルトからも散々文句を言われたんだ。これ以上は聞きたくない」
ということは、ベルンハルト様とシャルティーナ様も突然呼びつけられたんだね。シャルティーナ様がとってもおしゃれをしているから、お二人もデート中だったのかな。
外出先まで探しに来るなんて、よっぽどのことなのだろう。
リヒャルト様もベルンハルト様も、そしてシャルティーナ様もどこか警戒しているような表情をしていた。
国王陛下は困った顔。
わたしは、とりあえずお菓子を食べる。
……だってお腹がすいているんだもん。緊張している空気の中で、ぐ~ってお腹が鳴ったら台無しだもんね? たぶんこれから真面目なお話をすると思うし、お腹が鳴るのは避けるべきだ。
並べられたお菓子の中で、一番お腹に溜まりそうなアップルパイに手を伸ばす。
甘酸っぱく煮られたリンゴは少しだけシャリシャリ感が残っていて、ほんのり塩味のきいたサクサクのパイ生地と絶妙にマッチしていてとっても美味しい。
パイ生地とリンゴの間にはサワークリームが敷かれていた。
濃厚さとさわやかさを同時にプラスできるなんて、サワークリーム、すごい!
アップルパイに夢中になるわたしをよそに、国王陛下たちは話を続けているようだ。
「最近、徐々に聖女の薬の価格が高くなっていたことに気づいていたか?」
「ええ、まあ。ただ、多少の価格の変動は毎年起こることですし、それほどではないと見ていましたけど」
リヒャルト様がすぐに答える。
リヒャルト様は聖女のお仕事場を作ることもあって、聖女の薬の価格変動をチェックしたんだって。さすが実験とか検証とかデータを取ることが大好きなリヒャルト様である。
「聖女の薬に何か問題でも?」
これは、ベルンハルト様。
陛下は首を横に振って、はあ、吐息を吐き出した。
「これはある情報筋からなのだが、どうやら、聖女たちがストライキを起こしたらしい」
「なんですって?」
シャルティーナ様がびっくりした声を出した。
……ストライキって何?
もぐもぐしながら顔を上げると、リヒャルト様と目が合った。
そして、わたしが理解していないといち早く気づいたらしいリヒャルト様が「ストライキ」について教えてくれる。
簡単に言うと、聖女たちが仕事を放棄したのだそうだ。
しかも中央神殿だけじゃなくて、国中の神殿で「ストライキ」が起きているのだそう。
……えーっと、つまり。神殿の聖女たち全員が「仕事しません」って状態ってこと?
え? それってとってもまずくない?
ここアルムガルド国には、中央神殿のほかに、東西南北にそれぞれ一つずつ小規模な神殿がある。
その五つの神殿すべてで聖女たちが仕事を放棄しているのなら……うん、非情にまずい。
お薬は在庫があるからまだいいけど、癒しの力はそうはいかない。
聖女の癒しの力を誰に使うかは、神殿が決めている。要は寄付金額で決めているらしいから、貴族とかお金持ちが多い。
そして、聖女の力は一日に一度だけと限定してあるから、順番待ちをしている人も大勢いる。
ただでさえ順番が回って来るのに時間がかかるのに、加えて聖女たちがストライキを起こしたことで予定の日になっても癒してもらえない人たちから、不満が上がっているのだそうだ。
さらに、ストライキのせいでお薬も値上がり傾向にあるという。
「貴族連中が騒いでいる。そして、神殿相手に強く出られないからか、その不満がこちらに回ってくるのだ」
さすがに国王陛下に直接文句を言う人はいないだろうけど、国に対して不満が上がっているんだって。不満をぶつけてくる人は貴族が多いから、不満を受ける窓口は頭を抱えているらしい。
「いったいなんでストライキが起きたんですの?」
シャルティーナ様が頬に手を当てて嘆息した。
「それについては調べさせている。神殿内部の情報はなかなか入ってこないからな、詳しいことはまだ把握できていないが……、シャルティーナ、神殿の外にいる聖女たちを集められるか?」
「多少は可能でしょうけど、神殿が抱えている聖女全員分の仕事は賄えないと思いますわよ。結婚して一線から退いた聖女もおりますし……」
「お手伝いしますか?」
「スカーレットはだめだ」
癒しを求めている人に癒しが行き届かないのは大変だとわたしは名乗りを上げたんだけど、リヒャルト様にすぐに却下された。
「スカーレットは出したくない。……いろいろ規格外すぎて、何が起こるかわからない」
リヒャルト様はそう言うけど、神殿で暮らしていたときはみんなと同じようにできていましたよ?
リヒャルト様に信用されていないみたいでちょっとむぅっとしたけど、シャルティーナ様もベルンハルト様も、陛下まで、難しい顔で「そうだな」って頷いている。
……なんで⁉
「普通の聖女だと完全に癒せないような大病や大怪我でもスカーレットなら癒してしまいますからね。それどころか、古傷まで癒してしまうのですもの。スカーレットの特異性が外部に漏れる危険は避けるべきですわ」
「そうだな。スカーレットなら、ついうっかり、他の不調まで癒してしまうかもしれないからな。腕の怪我を治したついでに失明も治した、なんてことにでもなってみろ。騒ぎになるぞ」
ベルンハルト様もシャルティーナ様に同調する。
リヒャルト様が「あり得る」と言ってこめかみを抑えた。
「スカーレットの作る薬ですらいろいろ規格外な効果が表れているんだ。スカーレットの力は、できる限り秘密にしておきたい」
……まあ、わたしは力のコントロールは苦手ですけどね。でも、まったくできないわけじゃないのにな。
いっぱい治すときはたくさん力を使うし、ちょっと治すときはちょっと力を使う。そのくらいはわたしにもできますよ?
もちろん、治すべき箇所がたくさんあったら全部治しますけどね!
「とにかく一刻も早く情報を集めてください。なぜストライキが起きたのか。それがわからなければ対処のしようもありません」
「ああ。わかっている。だが、理由がわかってもすぐにどうにかなる問題ではないかもしれない。……それからスカーレット。聖女たちが何か不満を抱えていたなど、なんでもいい、知っていることがあったら教えてくれないか」
「不満、ですか?」
わたしは聖女仲間たちとおしゃべりした内容を思い出す。
不満……不満かあ、何かあったかな? あ~そういえば……。
――あ~、退屈~。
――出会いがないわ、出会いが!
――この服飽きちゃったわね。こんなローブじゃなくてもっと可愛い服に変えてくれないかしら?
――そういえばリリアってば、この前病気を癒した富豪の息子にプロポーズされたらしいわよ。
――えー、いいな~。イケメン?
――微妙~。
――微妙か~。でも、ここから出られるなら微妙でもいいかもね~。それにお金持ちだし、いい暮らしはできそうじゃない?
――あーここから出た~い。
――なんで聖女になんて生まれたのかしらね~。わたし、普通の女の子に生まれたかったわ~。
――あ~、誰でもいいからイケメンでお金持ちで優しくて、ついでに背の高い王子様がここから攫ってくれないかしら~。
――お金持ちで優しくて背の高いイケメンなら妾でもいいわぁ~。
ここまで思い出して、わたしはポンと手を打った。
「不満あります!」
「何が不満だ?」
「えっと……」
わたしが思い出した聖女との会話をそのまま伝えると、サロンの中に沈黙が落ちた。
国王陛下とリヒャルト様、ベルンハルト様はちょっと引きつった顔をしていて、シャルティーナ様は笑顔のまま固まっている。
しばらくして、ベルンハルト様がこほんと咳ばらいを一つした。
「な、なんというか、イメージとだいぶ違うな」
「イメージ?」
「いや、ほら……聖女って女性ばかりだろう。なんて言えばいいのか……秘密の花園的な? いろいろ妄想が……」
「あなた」
シャルティーナ様が笑顔でひくーい声を出す。
ベルンハルト様がぎくりと肩を揺らして乾いた笑みを浮かべた。
「い、一般論だ一般論! 私がそう思っているわけではなくてだな」
「本当かしら」
シャルティーナ様、笑顔だけど目が笑っていない気がする。
リヒャルト様がこめかみを指先でぐりぐりして、国王陛下がぽりぽりと頬をかいた。
「あー、助かったよスカーレット。参考にさせてもらおう」
「はい! お役に立ててよかったです!」
へへ、国王陛下から褒められたよ!
わたしはやり切った感満載でアップルパイの続きを口に運ぶ。
それ以降は、誰一人としてわたしに意見を求めなかった。
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7月22日に書下ろしノベルが発売されます。
電子限定で、レーベルはシェリーLoveノベルズ様です。
現代あやかしラブファンタジーとなります(≧▽≦)
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出版社 : 宙出版
発売日 : 2025/7/22
あらすじ:
両親にも虐げられ、家族の中で孤立していた真面目女子のしおり。大好きだった祖母が亡くなり悲しんでいると――神社で狐の耳をつけた男性と小さな男の子に出会う。独りぼっちになってしまい、誰かと繋がっていたいと願うしおりは、ひょんなことから幽世から来た「おきつねさま」という青年・涼夜とその甥・光明と“疑似家族”を始めることに。しおりに恋人ができるまでの期間限定の家族ごっこだったけれど、次第に涼夜に家族以上の感情を抱くようになり……。









