結婚準備と内緒話 2
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朝、ベティーナさんに学園まで送ってもらうと、わたしは旧校舎へ向かった。
今日は一時限目と二時限目を聖女科で過ごして、そのあとでエレン様と歴史の授業を受ける。わたしは見学だけだけど。
「おはよう、スカーレット」
旧校舎に向かうと、先生をしているシャルティーナ様のほかにベルンハルト様の姿もあった。
ベルンハルト様はリヒャルト様とよく似ていて、特に笑った顔がそっくりだ。
「おはようございます、ベルンハルト様」
「お義兄様って呼んでくれていいんだよ? スカーレットは私の義妹になるんだからね」
「お義兄様?」
試しに呼んでみると、ベルンハルト様が笑みを深める。
そして、手に持っていた小さな箱を差し出してきた。
「チョコレートだよ」
「ありがとうございますお義兄様!」
……チョコレート‼
「……ベルンハルト様、抜け駆けはよろしくなくてよ」
チョコレートの包みをもらって、すぐに食べていいかなとわくわくしていると、シャルティーナ様が軽くベルンハルト様を睨んだ。抜け駆けってなんだろう。
「抜け駆けというけど、シャルティーナはここでスカーレットに会えるじゃないか。理事長室には来てくれないんだし、このくらいはいいだろう?」
あ、そう言えば理事長室にお菓子を準備して待っているって言われていたんだった。
ベティーナさんがお菓子を入れたバスケットを持たせてくれるから、理事長室に向かう必要がなくて行っていなかったけど、行ったほうがよかったのだろうか。理事長室のお菓子、気になるし。
……カフェテリアにもまだ行けていないね。
今日は午後の授業も一つだけ参加する予定だから、お昼休みに行けるだろうか。
「そうじゃありませんわ。お義兄様なんて……わたくしだって、まだお義姉様と呼ばれていないのに……」
「呼んでもらえばいいじゃないか」
「ここは学園ですもの。わたくし、一応教師の立場ですし」
「変なところで真面目だな、君は」
ベルンハルト様がおかしそうにくすくすと笑う。
「変なところ、は余計です」とシャルティーナ様が怒った顔でベルンハルト様の腕をぺしって叩いた。相変わらず仲良し夫婦である。
「そうそう、それでねスカーレット。今日はちょっとお願いがあって来たんだよ」
シャルティーナ様と軽くじゃれ合った後で、ベルンハルト様が笑顔のままわたしに向き直る。
「お願いですか! じゃあこれは賄賂というやつですね!」
「スカーレット? いったいどこで、そんな言葉を覚えたのかな?」
「リヒャルト様から教えてもらいました。ベルンハルト様がお菓子を持ってお願い事をしに来たらそれは賄賂だから……あ! 受け取っちゃダメなんでした。返します」
チョコレートは食べたいけど、リヒャルト様からダメって言われているし仕方がない。
「いやいやいや、ちょっと待とうかスカーレット。それは賄賂じゃなくてプレゼントだからいいんだよ? そして私は『お義兄様』だよ『お義兄様』。……リヒャルトめ後で覚えてろ」
最後に低い声でぼそりと何かつぶやいたみたいだけど、よく聞こえなかったからスルーしよう。
シャルティーナ様はあきれ顔で、やれやれとため息をついていた。
「それで、いったい何のお願い事があって来たんですか?」
わたしの代わりにシャルティーナ様が訊ねる。
ベルンハルト様はぽりぽりと頬を掻いた。
「いや、ほら、聖女科で薬の作り方の授業をしているだろう? それで、スカーレットが見本を作った、と」
「ええ」
「……その見本、くれないかな~って」
「ベルンハルト様……」
「いや、決して私利私欲のためじゃないよ? ほら、騎士科の実技とかで怪我をする生徒がいるだろう? たまにひどい怪我をする子もいるし、せっかくだから保健室においておきたいなってさ。聖女の薬は貴重だからね、無理にとは言わないけど……」
「わたしは別にいいですけど、あのお薬は苦いですよ。苦い薬草ですし」
「薬はたいてい苦いものだろう? 苦くないものがあるのかい?」
「薬草を苦くないものにすれば、苦くないです」
「へえ……」
ベルンハルト様が感心した顔で頷いた横で、シャルティーナ様が困った顔をする。
「スカーレットは簡単に言っていますけど、薬草が変われば取り扱いの難易度も変わります。苦いからと言って薬草を変える聖女はいないと思いますわ。効能で変える場合はありますけど、聖女の薬の場合は薬草の効能の影響はごく一部ですから」
そうなの⁉
あれ? でも神殿じゃあ違う薬草を使うこともあったよ。
まあ、値段がどうとか言ってたから、そのせいかもしれないけど。
あと、庭で苦くない薬草を栽培していたから、それも使っていたし。聖女仲間には扱いにくいって不評で、ほとんどわたし一人で使っていたけどね。
「なるほど。じゃあ薬の味はひとまず置いておくとして……、スカーレットの作った薬は、分けてもらえるのかな?」
「スカーレットがいいなら構いませんわ。前回スカーレットが見本で作った薬も保管してありますが……スカーレット、いいかしら?」
「いいですよ!」
あんな苦いお薬なんて、わたし、いりませんし。
リヒャルト様のお邸では苦くない薬草で別に作るから、持って帰る必要もないはず。
「助かるよ。騎士科は怪我が多くてさ」
「じゃあ、ベルンハルト様……お義兄様もリヒャルト様も怪我が多かったんですか?」
「まあ、それなりにね。大怪我をしてシャルティーナに怒られたことも何度か……」
「授業なのに本気で打ち合いなんてするからそうなるんです。まったく、今も昔も騎士科の生徒は血の気が多くて困りますわ」
……それは大変!
「この前作った薬は、傷に利かないわけではないですけど病気の方のお薬なので、傷薬も別に作ります!」
「いいのかい? それは助かるけど……シャルティーナ?」
「今日は授業で傷薬を作ろうと思っていましたし、スカーレットにも見本を作ってもらいましょう。それでいいかしら?」
「ああ、頼むよ。……あまり長居をしたら授業がはじまる時間になりそうだな。それじゃあスカーレット、理事長室にも遊びにおいでね」
ベルンハルト様がひらひらと手を振って歩いて行く。
遊びにおいでと言われたので、今日のお昼休みは、カフェテリアに行ってそれから理事長室に行こうかな。エレン様がいいよって言ってくれたらだけど。
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