結婚準備と内緒話 1
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わたくしごとですが6/4でまた1つ年を取りました!
今年も楽しいと思っていただけるような作品を頑張って書いていきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします!
オーケストラを聞いた翌日は、ベティーナさんが呼んだ仕立て屋さんと打ち合わせだ。
結婚準備に必要なことなんだって。
ちなみに猫の歌はお邸に帰って披露したらリヒャルト様に爆笑された。
ベティーナさんもゲルルフさんも、他の使用人さんたちも笑い出したんだけど、あれかな。「にゃーにゃーにゃーにゃー」の猫が怒っているくだりが面白かったんだろうか。
ちなみに猫の歌は「二拍子」らしくて、リヒャルト様が「二拍子」も教えてくれた。「四拍子」と似ているけどちょっと違う。
せっかくだから覚えようとベルをチリンチリンしながら猫の歌を歌っていたらまた笑われた。一生懸命お勉強しているつもりなんだけど、解せない……。
でもおかげで、なんとなく「二拍子」はわかった。
リヒャルト様が歌を歌いながらだと覚えやすそうだなって、二拍子を覚えた後で四拍子と三拍子の歌を教えてくれるって言っていた。楽しみ!
「スカーレット様、ベルはこちらに」
「はい!」
仕立て屋さんと打ち合わせ中にベルを鳴らすわけにもいかないので、ベルはベティーナさんに片付けてもらう。
リズムが取れるようになったら楽器を教えてくれるそうだから早く覚えたいけど、さすがにベルを鳴らしながら打ち合わせはできない。
結婚式のドレスは「フルオーダーメイド」で作るとベティーナさんが言っていた。
お金持ちの貴族令嬢は結婚式以外のドレスもフルオーダーメイドで作るらしいけど、わたしの場合は急いで作ることが多かったからフルオーダーメイドははじめて。
セミオーダーメイドというのはしたことがあるらしいけど、わたしには違いがわからない。
ちなみに今日はざっくりとしたデザインの方向性を決めるらしい。
デザインの方向性を決めた後で、デザイナーさんがデザインを描いて持って来てくれるんだって。
しかも仕立て屋さんは一つのお店じゃない。いくつかの仕立て屋さんとお話して、最終的に一番いいデザインを出したお店で作るんだそうだ。
デザインが決まったら、今度は生地を選んで、採寸して、仮縫いして、試着して……と、ドレスが完成するまでは果てしない道のりがあるらしい。
……ドレスって作るの大変!
結婚式のドレスは、最近は白が主流だそうだ。
だけど、神殿での聖女の服も白だったから、違う色がよければ違う色でもいいとリヒャルト様が言っていたけど、リヒャルト様は白い服を着るって言うからわたしも白でお揃いにしたい。
仕立て屋さんが到着したそうなのでベティーナさんとサロンへ向かう。
仕立て屋さんはベティーナさんより少し年上に見えるから三十代半ばくらいだろうか。
アリセさんってお名前らしい。貴族じゃないから姓はないそうだ。
姓で思い出したが、リヒャルト様と結婚したらわたしもヴァイアーライヒって姓がつく。
スカーレット・ヴァイアーライヒになるのだ。
……リヒャルト様とのお揃いで、なんか、くすぐったい。
ベティーナさんによると、アリセさんは「シングルマザー」なんだって。
シングルマザーが何かわからないから聞いたところ、旦那さんと離婚してアリセさん一人で子育てをしているんだそうだ。
アリセさんの子供は十歳の女の子で、アリセさんのお店を手伝うためにもう針仕事をしているんだって。すごいね。
アリセさんは声をかけた仕立て屋さんの中では一番若い人らしい。
ベテランの仕立て屋さんばかりの中でアリセさんに声をかけたのは、最近、若い貴族令嬢たちがアリセさんのデザインしたドレスを好んで着ているかららしい。
伝統もいいけど、斬新性も捨てがたいですからねってベティーナさんが言っていた。よくわからない。
とにかく、今日はアリセさんと打ち合わせだ。
また後日、別の仕立て屋さんとも打ち合わせがある。しばらく打ち合わせが続きそう。
わたしはドレスのことはさっぱりなので、基本はベティーナさんにお任せだ。
二人が話している間、お菓子を食べながら耳だけ傾けておく。
……今日のお菓子はプリン!
プリンにクリームとかフルーツとかがトッピングしてあってとても可愛いし美味しい。
「ドレスですが、コルセットでウエストを締めないデザインで作れますか?」
「コルセットなし、ですか……。あまり例はありませんが、よろしいのですか?」
「ええ、構いません」
「それではローブデコルテではなく、そうですね……、ノースリーブのエンパイアラインとかでどうでしょうか。胸の下で切り替えるのでコルセットは不要ですし、デコルテが大きくあくので首元の飾りが映えます。品もありますし、露出が多ければレースのグローブなど小物を使えばよろしいかと」
アリセさんが持って来ていた手帳にさらさらっと簡単なデザインを描いてみせる。
もぐもぐしながら覗き込めば、ベティーナさんがいかがですかって訊ねてきた。
ドレスのことはわからないけど、これならたくさん食べてお腹がぽっこりしても目立たない気がする。
何度か着替えるから、全部同じデザインのドレスにはできないそうだけど、他のものもできる限りお腹が目立たないものでデザインしてくれるらしい。
「ベティーナさん、全部白ですか? どこかにラベンダー色を入れられませんか?」
「ラベンダー色ですか?」
「リヒャルト様の色です」
リヒャルト様が、結婚式のジャケットのカフスボタンを金と赤にするって言っていたから、わたしもリヒャルト様の色をどこかに入れたい。
そう主張すると、アリセさんがふんわりと微笑んだ。
「それでしたら、胸元の切り替え部分にラベンダー色の糸で刺繍を入れてはどうでしょう?」
「それならアクセントになっていいかもしれませんね」
ベティーナさんからもオッケーが出たので、そのようにデザインしてもらうことにする。
打ち合わせが終わると、アリセさんが真剣な顔で「どうぞよろしくお願いします」と頭を下げた。
……そっか、アリセさんで決まりじゃないから。
まだ他の仕立て屋さんとも打ち合わせがある。
ベティーナさんを見たら、やんわりと首を横に振られたので、ここで「いいですよ」と言ってはいけないらしい。
「デザインが出来たらお持ちください。最終的にどうなるかはまだわかりませんが、楽しみにしていますね」
ベティーナさんがわたしの代わりに答えてくれる。
去り際、アリセさんが何かを考えているような……ちょっと張り詰めたような顔をしていたのが、すこーしだけ気になった。









