金色のベルとデート 3
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次の日。
リヒャルト様から「デート」に誘われた。
今日は学園に行く予定の日じゃないし、リヒャルト様もお仕事はお休みなんだって。
「義姉上からの情報だが、王都に新しいケーキ屋がオープンしたらしいから行って見るか」
ってお誘いされたので、もちろん「行きます!」ってお返事したよ。新しいケーキ屋さんと聞いて行かないという選択肢はわたしにはない!
デートだから、朝から張り切って支度をして(ベティーナさんが!)、コルセット不要のゆったりした、けれど可愛いピンク色のドレスを着せてもらった。見たことないドレスだから、新しいんだと思う。
……うーん、どんどんドレスが増えていくなぁ。
気づいたら増えているんだけど、ベティーナさん、いったいいつ買っているんだろう? 謎……。
ドレスも新しいけど、今日の髪飾りも新しいみたいで、リヒャルト様の瞳の色のようなラベンダー色の石のバレッタだった。
編み込んでまとめた髪が、バレッタと白いリボンで飾られていて、鏡を見せてもらったけどとっても複雑でどうなっているのかわからなかったよ。
「スカーレット、ケーキ屋に行ったあとは劇場に行こうか。ちょうどオーケストラの演奏会が開かれている。音楽を習うなら、より多くの音に触れておいた方がいいだろう」
劇場は個室を抑えてあるから、お菓子を食べながら聞いていいんだって。それなら、音色の中にわたしのお腹の音がぐうぐう入り込む危険はなさそうだね。
リヒャルト様と馬車に乗り込んで、まずはケーキ屋さんへ向かう。
ケーキ屋さんは中で食べるスペースがないから、ケーキを買ってその足で劇場に行って、劇場の中で食べればいいんだそうだ。
ケーキ屋さんに行ったら、お店の前にはたくさんの人が並んでいたけど、リヒャルト様は事前に連絡を入れていたらしくて、到着したらお店の人がケーキの入った箱を持って来てくれた。
「とりあえず全種類頼んでおいたよ」
「全種類!」
リヒャルト様、大好きです!
大きな箱を持ってまた馬車に乗って、今度は劇場へ。
劇場は扇の形をした王都の真ん中のあたりにある。
丸い屋根の大きな建物だ。
劇場の前で馬車を降りて、横に広い白い階段を上っていく。
綺麗な格好をした人が何人も階段を上っているから、みんなオーケストラを聞きに来たんだと思う。
「まあ、リヒャルト様、ごきげんよう」
リヒャルト様と手を繋いで階段を上っていたら、品のいい年配のご婦人が扇で口元を隠しながらにこりと微笑んだ。
……ごきげんよう!
挨拶されたから、リヒャルト様のお知り合いかな?
わたしも「ごきげんよう」した方がいいかなと思っていると、リヒャルト様がそっとわたしを背後に隠しながらご婦人に向き直った。
「ご無沙汰しております、ボダルト侯爵夫人。本日はご夫君はご一緒ではないのですか?」
「ええ。残念ながら、仕事だそうで。閣下は……」
「婚約者と演奏を聞きに来たんですよ。それでは、ご夫君にもよろしくお伝えください」
ちらっとご婦人の視線がわたしに向いたけど、リヒャルト様はさっさと話を切り上げると、わたしの肩に手を回して歩き出す。
……もういいのかな?
結局わたしは挨拶しなかったけどよかったのだろうか。
気になって振り返ろうとしたら「後ろを見るな」と言われたから、あのご婦人はリヒャルト様と仲良くないのかもしれない。
そのまま劇場に入って、個室に案内されると、リヒャルト様が椅子に座って「はー」と大きく息を吐き出した。
「まさかボダルト夫人と会うとはな」
「苦手な方なんですか?」
その声が疲れているみたいだったからそうかなって思ったら、リヒャルト様に苦笑された。
「苦手……そうだな、苦手だ。侯爵の方は大臣でね。聖女科の設立を反対している一人だし、夫人の方は夫人の方で噂好きというか、まあ、面倒な人だよ。その上、娘を私に押し付けようとしたことが……って、これは言う必要ないな」
なるほど、なにかあったんですね。
「リヒャルト様、疲れた時はケーキを食べたらいいですよ」
リヒャルト様が買ってくれたケーキはたくさんあるもんね。一緒に食べようと誘ったら、また苦笑されちゃった。
「食べるより、スカーレットが美味しそうに食べているのを見る方が癒されるよ。飲み物と、それから皿とフォークを持って来させよう。少し待っていなさい」
リヒャルト様が劇場のスタッフを呼んで、紅茶とお皿とフォークを持ってくるように頼んだ。
個室は広くてテーブルもあるから、落ちついでケーキが食べられそう。
個室は二階にあって、扇形をした劇場が見渡せる。
ケーキをもぐもぐしながら見下ろせば、一階の席に次々と人が入っていくのが見えた。
……みんなの話し声が響いている感じがする。面白い! そしてケーキ美味しいっ!
やっぱりここはイチゴからだよねって、イチゴのショートケーキに口をつけたんだけど、ふんわりクリームに甘酸っぱいイチゴのバランスが最高だった。ケーキは全部大好きだけど、ショートケーキはなんというか、格別というか、別格って感じがする。
「ショートケーキがすごく美味しいケーキ屋さんは、全部すごく美味しい気がします」
「そうなのか?」
「なんとなく」
ヴァイアーライヒ公爵領のカントリーハウスで料理長をしているフリッツさんも「お菓子作りは基本が大事」って言っていた。きっとこれが基本。そんな気がするんだよね。
「君が言うならそうなのかもな。スカーレットは何でも美味しそうに食べるようで、なかなか味にうるさいからね」
「好き嫌いはありませんよ」
「そう言う意味じゃないよ。だいたい美味しそうに食べるけど、これはこの味がいいとか、こっちの方が好きとか、よく言うだろう?」
「はい! このショートケーキは、クリームにちょっとだけお酒の香りがして美味しいです」
「酒?」
「ちょっとだけですよ」
リヒャルト様が心配そうな顔で、一口を要求したのでフォークに刺して差し出す。
ぱくりと食べたリヒャルト様が「アルコールは飛ばしてありそうだな」とほっとしたように笑った。いくら何でもこの程度で酔ったりしないのにね。
「まだ食べますか?」
「いや、もういいよ」
甘かったのか、リヒャルト様が紅茶に口をつけて笑う。
リヒャルト様は甘いものは好んで食べないんだって。それなのに、ケーキ屋さんとかお菓子屋さんに一緒に行ってくれる。優しい!
ショートケーキを食べ終わって、次に紅茶のシフォンケーキを食べていると、劇場の中の灯りが落とされはじめた。
暗くなったな~と思っていると、前のステージに明かりが灯り幕が上がる。
ぱ~って、いろんな楽器の音がした。
「そろそろはじまるみたいだな」
わたしはフォークを握り締めたままステージに釘付けになる。
初オーケストラ、楽しみです!









