金色のベルとデート 1
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学園は、午前中の授業は三つだけで、三時限目が終わったらお昼休憩らしい。
ただわたしは、お昼前にベティーナさんが迎えに来てくれるので、三時限目を聖女科ですごしたのち、迎えに来てくれた馬車に乗ってヴァイアーライヒ公爵邸に帰宅した。
学園からヴァイアーライヒ公爵邸までは、馬車で十分もかからない。
馬車を降りると玄関にリヒャルト様が立っていた。
「ただいま帰りました、リヒャルト様!」
「おかえり」
リヒャルト様に「おかえり」って言ってもらうのははじめてかもしれない。
いつもはわたしが「おかえりなさい」をする方だもんね。
「学園はどうだった? 困ったことはなかったか?」
「楽しかったです!」
お腹がすいただろうからと、リヒャルト様がそのままダイニングに連れて行ってくれる。
ベティーナさんは「着替えを……」と言いかけたけど、タイミングよく(?)わたしのお腹がぐぅうううう~と主張したから、着替えはあとでいいですよって言ってくれた。
リヒャルト様と手を繋いでダイニングに向かうと、席についてすぐにご飯が運ばれてくる。
学園でのことをお話ししたかったけど、ご飯を口に入れたままおしゃべりするのはだめだから、先にご飯をいただくことにした。
今日のランチは生ハムと卵のガレットにサラダ、オニオンスープ、スペアリブの煮込みなんだって。スペアリブは骨がついていて食べにくいからって、リヒャルト様が骨を外してくれた。
ガレットの上には、ふわふわの雪みたいなチーズがこんもりと盛ってある。
一緒に出された焼き立てのカンパーニュは、そのままバターで食べてもいいけど、スープやスペアリブと一緒に食べると美味しいよって教えてくれた。
「お飲み物はオレンジジュースでよろしいですか?」
ゲルルフさんがオレンジジュースの入ったピッチャーを片手に訊ねてきたけど、すでに口の中にはガレットが詰まっていたから、こくこくと頷くことで返事をする。
ガレット、美味しい! 生ハムとチーズの塩気が絶妙です! とろっと半熟の卵も濃厚!
ガレットをぺろりと食べ終わると、おかわりはと聞かれたので「もちろん」って頷いた。
ガレットは美味しいけど、わたしが一枚でたりるはずがない。
新しいガレットが運ばれてくるのを待つ間、スペアリブをいただきます。
……わ! やわらかい!
しっかり煮込まれているスペアリブは、口の中に入れたらほろってほどけるよ!
パンと一緒に食べたら美味しいって教えてもらったから、カンパーニュにスペアリブのソースをつけて食べる。濃厚なソースをパンが吸って、とっても美味しい!
夢中でご飯を食べて、お腹が満足したころに食後のデザートが運ばれて来た。
「あ、ゼリー!」
「好きだろう?」
「はい!」
ゼリー、美味しいよね。ぷるんぷるんで食感も楽しいし、つるんと入っていくからいくらでも食べられる。
今日のゼリーは中に数種類のフルーツが入っていて、宝石箱みたいに綺麗。
……うまうま、幸せ~!
ゼリーを四つもらって大満足したわたしは、食後の紅茶を飲みながらリヒャルト様とおしゃべりタイムに突入することにした。
……リヒャルト様とおしゃべりするの、好き!
学園はどうだったかって、改めて訊かれたから、朝からの出来事を順番に話しはじめたんだけど……馬車を降りて聖女科の旧校舎へ向かう前のくだりを話している段階で待ったが入った。すごく序盤なんですけど! これからがいいところなのに!
「スカーレット、ちょっと待ちなさい。その、挨拶は友達にしかしたらダメというのはなんだ?」
「エレン様が教えてくれました!」
一つ「常識」を教えてもらったから賢くなったよと伝えたら、怪訝な顔をされてしまった。なんでだろう。
「エレンがどうしてそんなことを言い出したのかを知りたいから、詳しく教えてくれ」
「はい!」
エレン様に会うまでのことが知りたいとのことだったので、馬車を降りてエレン様に声を掛けられるまでのことを説明すると、リヒャルト様がこめかみを抑える。頭が痛いときとか何か困ったことがあるときのリヒャルト様の癖だ。
「スカーレット、エレンはそう言う意味で言ったんじゃないと思うぞ。単に、すれ違う人間全員に挨拶する必要はないと言いたかったのだろう。スカーレットだって、私と街に出かけた時に、すれ違う他人に挨拶して回ったりしないだろう?」
そう言われれば、そうかもしれない。
「学園も街も、ある意味で同じだ。知らない人間に挨拶して回らなくていい。必要な時だけでいいんだ」
「必要な時?」
「話しかけられた時や、知り合いに会ったとき、もしくは何か聞きたいことがあったときだな」
「それ以外は挨拶はいらないんですか?」
「そうだな。突然話しかけられた方も戸惑うぞ」
そう言うものなのか。なるほど、わかりました!
わたしとリヒャルト様の会話を聞きながら、ベティーナさんが苦笑している。
……わたし、まだまだ「常識」が足りないんだろうね~。
サリー夫人に一般常識を教えてもらっている途中で王都に来たからね。帰ったら続きを教えてもらわないと。
「スカーレットは閉鎖的な場所で育ったからな。少しずつ覚えて行けばいいだろう。それからほかには?」
「エレン様とお友達になりました!」
「そうか、それはよかったな」
「はい! あ、でも、聖女科ではご迷惑をおかけしました」
わたしが薬を作った時の話をすると、リヒャルト様がくすくすと笑う。
「それは義姉上も困っただろうな。だが、手本にはならなかったかもしれないが、迷惑をかけたというほどでもないはずだ。気にするな」
「はい!」
リヒャルト様が気にしなくていいというのならそれが正解だろうから、わたしは大きく頷く。
「あ、そうそう! エレン様から楽器を使えるようになった方がいいって言われました。楽器は武器になるんだそうです!」
「……何か勘違いをしていそうだから詳しく説明してくれ」
「わかりました!」
音楽室での会話を説明すると、リヒャルト様がまたこめかみを抑える。
「エレンはそう言う意味で言ったのではないと思うぞ。まあ、楽器は貴族のたしなみだからな、何か一つでも演奏できるようになっておくに越したことはないが……」
「武器じゃないんですか?」
「もちろんだ。楽器で人を殴ってはいけない。そんなことをして楽器が壊れれば、作った人間が悲しむぞ」
「確かに!」
せっかく作ったのに壊されたらいやだよね!
「エレンが武器と表現したのは、楽器が演奏できれば、できないと揶揄してくる人間から身を守れると
言いたかったかだろう」
「楽器ができないと馬鹿にされるんですか」
「する人間も、まあ、中にはいる。一部の貴族だがな」
貴族社会、大変!
「じゃあ、わたしも楽器覚えます」
「そうだなあ……、だが今うちにはピアノくらいしか……。城に行けば私が使っていたヴァイオリンがあるにはあるが……」
「ピアノでいいです」
「……ピアノは難しいと思うぞ?」
「そうなんですか?」
「ああ。すぐに弾けるものではないと思うが……実際に触ってから判断してもいいか。着替えたらサロンにおいで。ピアノを触らせてあげよう」
「はい!」
ピアノ、触っていいんだって!
「ああそれから、しばらくの間は、学園で何があったのか詳しく教えてくれ。……放置すると、おかしな勘違いが増えていきそうで怖いからな」
よくわからないけど、リヒャルト様とのおしゃべりは楽しいから否やはないですよ!
わたしは「はい!」と返事をすると、ベティーナさんと一緒に、制服を着替えるために二階に上がった。









