美味しい学園生活 4
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そのあとはひたすら見学のみをして、二時限目がはじまる前の休憩時間にエレン様がやって来た。
一時限目の間何も食べずにいたからお腹がすいて、机でもりもりお菓子を食べていたら、教室にやって来たエレン様があきれ顔をしちゃったよ。
「あなた、どこにいてもお菓子を食べるのね」
「むぐぐぐぐ?」
「それ全部食べていたら移動が間に合わないから、今口の中に入れているものだけにしなさい」
「むぐっ」
口の中にお菓子が入っているので、わたしは頷くことで返事をする。
残りのお菓子はバスケットの中に戻して、口の中のお菓子を咀嚼して飲み込むと、シャルティーナ様と聖女の卵たちに挨拶をして教室を出た。
学園は広いから、授業と授業の間の休憩は二十分と長めにとられているんだって。
「二限目は音楽室よ。と言っても、今日は演奏を聴くだけなんだけど」
貴族たるもの芸術にも精通していなくてはならないと、学園では音楽や美術といった芸術系のお勉強が充実しているんだって。
計算問題とか、難しい授業はわたしは不向きだから、リヒャルト様がわたしが聴講する授業を選別してくれたらしい。
……うん、いきなり計算しましょうねって言われても、わたし、困るし。
両手でたりない数の計算はわたしには無理だもん。そのうち練習しましょうねってサリー夫人は言っていたけど、昔から数が多い足し算引き算とかは、ちんぷんかんぷんになるから、正直できる気がしない。
「そう言えばあなた、楽器はできるの?」
「できません!」
「そう。何か一つくらいは覚えておいた方がよくてよ。楽器は貴族のたしなみだもの。……侮られないためには、武器は必要よ」
「楽器って武器になるんですか?」
「違うわよ! ああもう、あなたに説明するのって大変だわ。どうして伝わらないの?」
それはそのぅ、すみません……。
帰ったらリヒャルト様にそれとなく教えてもらお~っと。
とにかく、これから向かう音楽室では、ただ座って音楽を聴いていればいいんだって。そのくらいならわたしにもできるよ。
エレン様と音楽室に向かうと、そこはまるで劇場のように広い半円状の教室だった。
階段のように作られている席は円周側に向かってだんだん高くなっていて、ピアノが置いてあるステージみたいに作られている教壇側が一番低くなっている。
教室内にはすでにたくさんの生徒がいて、エレン様が連れてきたわたしが珍しいのか、扉の近くにいた人が一斉に振り返った。
……「ごきげんよう」した方がいい? あ、でも、お友達以外にはしないってエレン様が言ってたよね。
無言で目の前を通り過ぎるのは気まずいけど、エレン様は気にしたふうでもなく一番後ろの窓際の席に向かっていく。
わたしももちろん後をついて行くよ。
窓際の一番後ろの席に座ると、エレン様が軽く窓を開けた。
「ここでなら、お菓子を食べながら聞いてもいいでしょう。窓際なら風も通りますし、匂いもそれほどこもらないでしょうからね」
……エレン様‼
どうして扉から一番遠い窓際に行くのかなって思ったけど、そう言うことだったんだね!
感動して祈りのポーズになったわたしに、エレン様は「やめなさい」と顔をしかめてから嘆息する。
「あなたのためじゃなくってよ。授業中にあなたのお腹の虫の声がカルテットに混ざったら大変でしょう? わたくしが恥ずかしいじゃない」
ツンって顎を反らして言うけど、ちょっとだけ顔が赤い。
エレン様かわいいっ。
やっぱりお祈りを……と思ったとき「エレン」と柔らかいけど非難の混じった声がした。
誰だろうと振り返ると、あ、イザーク殿下だ!
きらきらの金髪のイザーク殿下が、咎めるような顔でエレン様を見ている。なんでそんな顔をするのかな?
「その言い方はどうなんだろう。聖女スカーレットに失礼じゃないか」
……うん?
わたしがきょとんとしていると、エレン様がさっきより顔を赤く染めて、ぷいっと顔をそむけた。
「わ、わたくしは、失礼なことを言ったつもりはございませんわ」
うん、そうだよね? だって、綺麗な音楽の中で「ぐぅううううう~」なんて聞こえたらびっくりだもんね。
むしろ、エレン様はわたしがお菓子を食べられる席に連れてきてくれたんだから、失礼なんじゃなくてとっても優しいんだよ。
だけどイザーク殿下は納得していないみたい。
「君自身がそのつもりがなくても、言われた人はそうは思わないんだ。君はただでさえ言い方がきついし、もう少し発言には気を付けるべきじゃないかな。ねえ、スカーレット? ああ、久しぶりだね、会えてうれしいよ」
えーっと?
ここは「ごきげんよう」していいところなのだろうか。
イザーク殿下からは少し前に飴ちゃんをもらったけど、イザーク殿下とわたしはお友達? 「ごきげんよう」はお友達にしか使っちゃだめだから……じゃあ「こんにちは」ならいい?
……あ、そうだ。
「この前は飴ちゃんありがとうございました」
うん。挨拶していいのかわかんないから、お礼ならいいよね。
「あと、エレン様はわたしに意地悪なんて言っていませんよ? お菓子を食べていいところに連れてきてくれたんです」
優しいでしょう?
お菓子の入ったバスケットを見せながら言うと、イザーク殿下が虚を突かれたような顔になる。
エレン様もびっくりした顔になったけど、なんでだろう。
イザーク殿下はしばらくわたしとバスケットを見比べた後で、こほんと一つ咳ばらいをした。
「……まあ、君がエレンを許しているなら、僕としてはかまわないよ」
許すってどういうこと?
わたし別に、エレン様と喧嘩してないけど。
イザーク殿下が、わたしの隣に腰を下ろす。
よくわからないけど、イザーク殿下もここで授業を聞くみたい。
あ! エレン様はイザーク殿下の婚約者だから、きっと側にいたいんですね‼
仲良しですね! わかります‼









