美味しい学園生活 3
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五人が五人、真剣な顔で練習をはじめたから、わたしは席を立ってふらふらとみんなに近づいていく。
聖女の薬は、薬草の成分を抽出しつつ、その抽出した成分に聖女の力をくっつけて安定させて作るのだ。だから薬師の薬と比べると効果が段違いなのである。
そして重要なのは「聖女の力」の方だから、薬草は聖女の力と相性のいいものであれば正直なんでもいい。まあ、薬草によって若干の違いは出るけど、誤差と呼んでいいものなのだ。
そしてお薬だけど、慣れれば薬草をそのまま水の中にぽいって入れて作れるけど、慣れるまでは薬草をすりつぶしたほうがやりやすい。
ただ、それをやると、お薬の味がまずくなるから、わたしはあんまりしたくないけどね。
聖女の卵たちは、せっせと乳鉢で薬草をすりつぶしているけど……あ、あの薬草、苦いんだよね。
薬草にも種類があるけど、初心者用の薬草がある。
成分が抽出しやすく、聖女の力が安定しやすいやつなんだけど、ものすごく苦くて、わたしは好きじゃない。
だからわたしは苦くない薬草を使うことが多い。
薬師は薬草の成分だけで薬を作るからいろんな種類をたくさん使うけど、聖女は聖女の力を付与することで薬を作るから、あんまり薬草の種類は必要ない。
ただ、聖女の力が付与しやすいかしにくいかの差と、傷薬に使うものか飲み薬の差でしかない。
わたしが普段使う薬草は、苦くない代わりに扱いが難しいそうで聖女仲間には不評なんだけど(あとあんまり売られていない)、味って重要だと思うからわたしはあの薬草が好き。
……いくらお薬でも、美味しくない薬は飲みたくないもんね。薬なんだから苦くて当たり前って、お薬作りを教えてくれた先輩聖女は言ってたけど、苦くないに越したことはないでしょう?
わたしが愛用している薬草は、ヴァイアーライヒ公爵領のタウンハウスの庭で栽培させてもらっていたけど、王都では栽培させてもらっていないから、今度お願いして花壇の一角でも借り育てよっと。しばらく王都に滞在するなら、あったほうがいいもんね?
……って、皆さん、ドロドロになるまで薬草をすりつぶしますね。
あの味を想像して、わたしはうえってなっちゃうよ。
ドロドロにすりつぶした薬草を、みんなが水の入ったビーカーの中に入れていく。
そして聖女の力を使うんだけど……うーん、うまく行っているのは一人だけかな?
シャルティーナ様も気づいたみたいで「あら」と頬に手を当てている。
わたしは近くにいた、淡い茶色の髪をした女の子の側に寄って手元を覗き込んだ。
「癒しの力が水と薬草まで届いていないみたいですよ。もっとこう、ぐわっという感じで」
「え? ぐわ……?」
「そうです、ぐわっです! どばっです」
「ぐわ、どば……」
女の子は不可解そうな顔になって、わたしとビーカーを見比べる。
……あれ? 伝わらない……。
「ええっと、じゃあ……」
ぐわっでもどばっでもダメなら、何があるだろうか。
「うーんと、そうそう、えいやあ! って感じで」
「えいやあ……」
ますます変な顔をされちゃったけど、どうして⁉
……ぐわっでもどばっでもえいやあ! でもダメならわたしはどうしたら……。
助けを求めてシャルティーナ様を見上げたら、「あらあら」って顔をされちゃったよ。
「スカーレット、実際にやって見せて上げたらどうかしら? わたくしも見たいわ、あなたが薬を作っているところ」
そう言うことなら、喜んで!
説明するよりそっちのほうが簡単だもんね!
わたしの机の上に水の入ったビーカーと薬草が準備される。
乳鉢も用意されたけど、すりつぶしたらただでさえ苦い薬草の味が強くなるからすりつぶしたりなんてしませんよ。
わたしが席に着くと、五人の聖女の卵が集まって来た。
「スカーレットのお手本だから、みんな参考にしてね。じゃあスカーレット、作ってみてくれる?」
「はい」
わたしは薬草をぽいっとビーカーの中に入れる。
聖女の卵たちは薬草をすりつぶさないことに驚いていたけど、わたし以外の聖女でもすりつぶさないで使う人はいるよ。
と言おうとしたら、シャルティーナ様に苦笑された。
「普通はすりつぶすけど、中にはすりつぶさないで作る人もいます。だけどみんなはすりつぶして作りましょうね」
……あれ、すりつぶすほうが普通なの?
しまった、苦いのが嫌とか言わずにすりつぶしたほうがよかったかなあ。でももうビーカーに入れちゃったし、今更だよね。
やっちゃったことは気にしない。
わたしはビーカーを両手で握って、えいって聖女の力を使う。
ぱっと光って、はい、完成~!
「できました」
「「「「「「…………」」」」」」
あれ?
聖女の卵たちとシャルティーナ様まで黙り込んじゃったよ?
何か間違えただろうか?
でも、お薬はちゃんとできているよ?
なんでみんな、びっくりした顔でわたしを見てるの?
「……スカーレット、もうできたの? ……できているわね」
シャルティーナ様が恐る恐ると言った様子でわたしのビーカーを持ち上げて中を確認する。
そして、頭が痛そうにぎゅうっと眉間にしわを寄せた。
「えーっと……。みんな、スカーレットは薬を作り慣れているから一瞬だったけど、みんなは時間をかけてゆっくり作りましょうね?」
なんか、わたし、お手本失敗したみたい。
シャルティーナ様がわたしの机にビーカーを置きながら「規格外だってことを忘れていたわ」なんて呟いたけど……うぅ、初日から、わたし、ご迷惑をかけたみたいです。
これって、任務失敗……でしょうか? がっくり。
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まだイラストはご紹介できませんが、うさぎとうさ耳を、ぜひぜひお楽しみに(#^^#)
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