美味しい学園生活 1
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三日後。
真新しい学園の制服に身を包み、今日からわたしは学園に通うことになります。
といっても、毎日じゃないんだけどね。
聖女科に顔を出すのは週に二回か三回くらいになる予定で、その他も、エレン様のご都合がいい時に聴講というものをさせてもらうから、だいたい週に三回、多くて四回くらいになるだろうとリヒャルト様が言っていた。
もっと言えば丸一日じゃなくて、半日くらいの参加になるらしい。
わたしには結婚準備という課せられた任務(?)があるから、そのくらいがちょうどいいみたい。
あと、長時間学園で過ごさせて空腹で倒れたら大変だからだそうだ。
……カフェテリアっていうレストランみたいな設備が学園にあるらしいけど、ご飯やおやつは決まった時間にしか提供されていないんだって!
お腹がすいたらいつでもご飯やおやつが食べられるわけではないみたいだから、確かに一日中学園にいたら倒れちゃうかも。
「こちらのバスケットにお菓子を入れておりますが、くれぐれも一度にすべて食べないようにしてくださいませ。最初に全部食べてしまったら、あとあと困ることになりますよ」
って、ベティーナさんが釘を刺す。
学園の正門前までは馬車で来たけど、お見送りしてくれるって言ってベティーナさんもついてきてくれたのだ。優しい!
リヒャルト様は今日はお城でお仕事だって。
わたしが学園から帰宅する頃には戻って来るよって言ってた。
「わかりました! ちょっとずつ食べます」
「空腹で倒れそうになったら、先生の誰かに声をかけるようにしてくださいね」
リヒャルト様がわたしの体質について説明してくれたらしいから、学園の先生たちはわたしの燃費の悪さについてはだいたい理解しているんだって。
だから聴講中もお菓子を食べていいと許可をもらっている。先生たちも優しいね。
ベルンハルト様も理事長室にいてくれるそうで、お腹がすいて我慢できなくなったら理事長室に来ていいよって言ってくれた。お菓子を用意してくれているらしい。さすがリヒャルト様のお兄様! ベルンハルト様、大好き!
「最初は聖女科の授業のある旧校舎へ向かってください。二時限目ごろにエレン様が迎えに来てくださるそうですから」
「はい!」
今日の一限目は聖女科の授業にお邪魔する予定みたい。
どんなふうに授業をしているのか見学して、もし授業内容とかに気づきがあったら教えてねってシャルティーナ様から任務をいただいている。考えるのは苦手だけど、そのくらいならきっとできる……はず!
……よーし、頑張って任務を果たすぞ~!
基本的に食べることとお薬を作ること以外はポンコツのわたしである。何かのお仕事をいただくことはほとんどない。だから、頂いたお仕事はきっちりとこなしますよ! そして、「スカーレットはできる子だ」ってリヒャルト様に褒めてもらうんだもんね! ぷぷぷ……。
「じゃあ、いってきます!」
「いってらっしゃいませ。お昼前にお迎えに上がりますね」
「ありがとうございます!」
馬車を降りて、バスケットを握り締めてとことこと歩いて行く。
旧校舎は正門から見える大きな校舎の裏側にあるから、いったん裏に回って、裏庭をずんずんと奥へ進んでいかなくてはならない。
……学園の中は広いけど、中庭に行けばシャルティーナ様が迎えに来てくれるそうだから迷子にはならないもんね!
中庭までの道のりは覚えているのだ。
この前もそうだったけど、学園の中にはマグノリアがたくさん咲いていてとっても綺麗でいい香り。
前は授業がはじまった後で来たから人はほとんど見かけなかったけど、今日は制服姿の人がたくさんいる。
わたしがとことこと歩いていると、いろんな人がちらちらと見てくるから「こんにちは~」と挨拶してみた。
すると「ごきげんよう」と返答がある。
……ごきげんよう!
なるほど、ここではそれが挨拶なんだ。
わたしが「こんにちは」から「ごきげんよう」に言葉を変更して、きょろきょろしながらいろんな人に声をかけていると、背後からあきれた声がした。
「何をなさっているの? まさかその調子で全員に挨拶をしていくつもりではないわよね?」
聞いたことのある声、と思って振り返ると、エレン様がいた。
「あ! エレン様、こんに……ごきげんよう!」
「ごきげんよう」
知らない人ばっかりだから、知った人に出会うのは嬉しい。
「それで、あなた、今日は二限目からだったはずでしょう? ここで何をなさっているの?」
「一限目は聖女科に行くんですよ」
「あら、そうなの。聖女科は旧校舎だったかしら?」
「はい! 中庭に、シャルティーナ様が迎えに来てくれるんです」
「中庭ね……」
エレン様は少し考えるように視線を落として、それから軽く周囲を見渡すと、そっと息を吐いた。
「その調子で会う人会う人に挨拶していたら遅くなるでしょう。いいわ、中庭まで案内して差し上げてよ」
なんと、中庭まで一緒に行ってくれるらしい。エレン様優しい!
エレン様と並んで歩いていると、やっぱりちらちらと見られる。
わたしが挨拶すると、エレン様が困ったような顔をした。
「だから、目が合う人全員に挨拶して回らなくていいのよ」
「そうなんですか?」
「ええ。知らない人に声をかける必要はないわ」
でも、わたし学園で知っている人の方が少ないよ?
エレン様でしょ、シャルティーナ様に、ベルンハルト様。あ、あとこの前会ったイザーク殿下! そのくらいしか思いつかない。
むーんと唸っていると、エレン様がまたため息をつく。
「他人に挨拶して回る必要はないのよ。友人でもないのに挨拶された方も驚くわ」
「お友達ですか? お友達ほしいです」
「微妙に論点がずれたけど、話を理解しているのかしら?」
エレン様がこめかみを抑えた。
この癖、リヒャルト様やベルンハルト様と一緒! 兄弟じゃないのに一緒って、なんか面白いね。
……って、うん?
「エレン様、じゃあ、エレン様はわたしとお友達ですね!」
「……え?」
「だってエレン様、わたしと挨拶しましたよ」
お友達にしか挨拶しないなら、エレン様はわたしをお友達だと認識しているということだ。嬉しい!
「そ、そういう意味じゃ……」
「お友達じゃないんですか?」
「~~~~~~っ! ああ、もう、あなたってどうしてそう、人の調子を崩すのが得意なのかしら?」
どういうこと?
よくわからないので首をひねると、エレン様が今度は額に手を当てた。
「もういいわ。わたくしとあなたはお友達。これでいいでしょう?」
やっぱりお友達だった!
「はい!」
リヒャルト様、わたし、エレン様とお友達になりましたよ!
帰ったらリヒャルト様に報告しようと思いながら、エレン様と一緒に中庭へ向かう。
すると、中庭のベンチにシャルティーナ様が座っていた。
シャルティーナ様はエレン様と一緒のわたしを見つけて、きょとんとしてからふんわりと笑う。相変わらず、実年齢不詳なとっても美人さんである。美魔女さん。
「スカーレット、エレンと一緒だったのね」
「はい! ここまで一緒に来てくれました!」
わたしが報告すると、エレン様がやれやれと肩を落とす。
「ご無沙汰しておりますわ、シャルティーナ様。それではわたくしはこれで。二時限目がはじまる前にスカーレットを迎えに行きます」
「ええ、リヒャルト様から聞いていてよ。よろしくお願いするわね」
エレン様とシャルティーナ様はにこやかに会話をしているみたいだけど、微妙に距離がある感じがするのはどうしてかな?
エレン様が校舎の方に歩いて行くと、シャルティーナ様が「行きましょう」とわたしに手を差し出した。
手を繋いでくれるみたいなので繋いで、旧校舎がある方向へ歩いて行く。
「ところでスカーレット、そのバスケットは何かしら?」
不思議そうな顔でシャルティーナ様が訊ねたので、わたしは元気よく答える。
「お菓子です!」
すると、シャルティーナ様がぷっと噴き出してそのまま笑い出した。
……なんでだろう?
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