学園というところに視察入学します 4
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貴族学園の中は、今、マグノリアっていう花がたくさん咲いていた。
濃いピンク色の大きな花で、甘くてとってもいい香りがする。
葉っぱが出る前に花が先に咲く木らしくって、だからあちこちがピンク色に染まっているみたいに見えるよ。可愛い。
すでに登校時間はすぎているから、学園の前庭には誰もいなかった。
馬車を降りて、正門からリヒャルト様と手を繋いで歩いているけど、正門から玄関までの石畳の道がとっても長い。
「リヒャルト様も、学園でお勉強したんですか?」
「そうだな。私の場合は十五から十七までここにいた」
学園は十二歳から入学できるそうだけど、男の人は十六歳前後で入学することが多いんだって。
「楽しかったですか?」
「どうだろうな。公務もあったから、他の生徒と同じような時間は過ごさなかったが……。まあ、いい思い出ではあるよ」
お友達のハルトヴィッヒ・バーデン様とも、学園で親しくなったんだって!
学園に通っていたらお友達ができるって言っていた。わたしもお友達ほしい!
学園には「普通科」「騎士科」「文官科」があるらしい。聖女科が正式に新設されれば四つ目の学科なんだそうだ。
貴族令嬢のほぼ九割と、騎士や文官を目指さない貴族は「普通科」。
将来騎士や文官として働くことを希望する人は「騎士科」や「文官科」を選ぶらしい。
ちなみに王族は基本「普通科」なんだそうだけど、リヒャルト様は興味本位で「騎士科」に通ったんだって。ベルンハルト様が途中から「騎士科」に編入したと聞いたらしくて、なら最初から「騎士科」でもいいだろうってそっちを選んだらしい。
「なんで騎士科なんですか?」
「体を動かしたかったんだ。あと、普通科で学ぶ内容は、城で学び終えていたからな」
なるほど、すでにお勉強した内容だったから必要なかったんですね! さすがリヒャルト様! とっても優秀!
でも、理解できました。ハルトヴィッヒ様は騎士なのに、リヒャルト様はどうやってお友達になったんだろうって思ったけど、同じ学科でお勉強していたからなんですね。
リヒャルト様とおしゃべりしながら歩くのはとても楽しい。
正門から玄関までが長いな~って思ったけど、手を繋いでおしゃべりするのは楽しいから、これはこれで幸せ。
「ところで、その制服はどうだ? 苦しくないか?」
「大丈夫です。コルセットいらないから」
わたしは今、リヒャルト様が買ってくれた学園の制服に身を包んでいる。
深緑がベースのチェック柄で、ところどころ赤いラインが入っている可愛い制服だった。
スカートはひらひらで、膝丈である。
膝丈っていいね。動きやすい。
貴族令嬢はあまり足を見せるべきではないって言われているらしいんだけど、学園の制服は例外なんだそうだ。そのルールはよくわからないけど、この制服は貴族令嬢にも好評らしい。
「それよりリヒャルト様、おなかすきました。それ、食べちゃダメですか?」
わたしと繋いでいない方のリヒャルト様の手には、大きなバスケットがある。
バスケットの中身はお菓子だった。わたしが空腹で倒れないように準備してくれたのである。リヒャルト様、優しい! 大好き!
「さすがにここで歩きながら食べるわけにもいかないだろう。私は手続きがあるし、中庭に行こうか。中庭にはテーブルや椅子があるからな」
「はい!」
今日の目的は、わたしに学園の様子を見せることと、わたしの「視察入学」の書類の手続きをすることなんだって。
仮設の聖女科は、使っていない旧校舎があるから、本格的に聖女科を設立することが決まるまではそこを使うと言っていた。
すでに聖女科に通う聖女たちはお勉強を開始しているんだって。
教師の聖女がすぐに用意できなかったから、当面の間はシャルティーナ様が先生を務めるのだそうだ。
シャルティーナ様から、わたしも手が空いているときは手伝ってねって言われたけど、わたしは人に教えるのは向かないよ。たぶん。
聖女科に関するわたしの役割は、授業を聞いて雰囲気を見ることと、シャルティーナ様のお手伝いになりそうである。
中庭に向かうと、前庭よりもたくさんのマグノリアの木があった。
たくさんありすぎて、ピンク色のカーテンの中を歩いているみたいだよ。
「相変わらず無駄に多いな。この時期は香りが強くてむせ返りそうだ」
懐かしいのか、リヒャルト様が苦笑している。
なんでも、学園が設立された時の王妃様がマグノリアが大好きで、学園のあっちこっちに植えさせたんだって。そのおかげでどこに行ってもマグノリアがあるんだそうだ。
マグノリアのピンク色のカーテンの中を進んでいくと、木でつくられた円卓があった。中庭は生徒たちの憩いの場で、円卓とかベンチとかがたくさん置かれているんだって!
リヒャルト様が円卓の上にバスケットの中身を出していく。
……お菓子がいっぱい!
「じゃあ、私は手続きをしてくる。学園内は警備が厳重だから大丈夫だとは思うが、何かあれば大声をあげなさい。警備員が駆けつけてくるはずだ。私もできるだけ早く戻って来る」
そんなに心配しなくても、大丈夫だと思いますよ。
一度危険な目に遭ったけど、そのあとでリヒャルト様がすぐに動いてくれて、わたしの身の回りの安全は確保されているってベティーナさんが言っていたし。
それに、わたしは聖女ですからね! 万が一怪我をしても自分で治せます! ってこれを言うとリヒャルト様が心配しちゃうから言えないんだけどね。
リヒャルト様はとっても心配性だと思う。
だって、お腹がすいて倒れただけでものすっごく過保護になるもんね。
燃費が悪いわたしは、お腹がすきすぎて動けなくなることなんて珍しくもなんともないのに、そうならないようにすっごく心を砕いてくれるのだ。
……へへ、そんな優しいリヒャルト様が妻にしてくれるって約束してくれたんだよ。
リヒャルト様と一緒にいると、時折心臓がぎゅうーって苦しくなるのがちょっと不安なんだけど、ベティーナさんに確認したらこれは病気じゃないらしいから、死ぬことはないんだそうだ。
よかった。わたし、まだ生きられる!
「じゃあ行って来る。スカーレット、私が戻るまでここから動いてはいけないよ」
「はい! お菓子を食べながらここで待ってます!」
元気よく答えると、リヒャルト様が微笑んで歩いて行く。
……それじゃあ、いっただっきま~す!
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本作、最初から大幅に加筆修正をかけておりますので、よかったら(≧∀≦)









