学園というところに視察入学します 2
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「聖女の働く場所は確保したが、聖女の力の使い方を学ぶ場所をどこにしようかという話になってね。これまで通り神殿で学ばせていたら神殿が口を出して聖女を外に出そうとしないかもしれない。だから聖女の力を学ぶ場所も、他に用意する必要があるんだが、聖女の仕事場でそれをするのか、それとも別の場所を用意するのかで意見が割れているんだ」
「もぐもぐもぐ……場所って重要ですか?」
神殿でも、聖女は先輩の聖女から力の使い方を学ぶ。聖女以外に聖女の力の使い方を教えられる人がいないからだ。
だから別に、場所がどこであれ教えてくれる聖女がいればいいと思うんだけど。
「重要なんだよ、スカーレット。どこでもいい、では逆に聖女たちを混乱させるし、教え方にも差が出るだろう。それはよくない。最低限、基本は同じように教えなくては」
えーっとつまり、この人が知っていて、あの人が知らない技術があったらダメってことですね。それはなんとなくわかりました。
神殿でも、ここまで出来たら一人前っていう基準があったもんね。
一人前にならないと聖女デビューさせてもらえなかったから、基本は必要なんだろう。
……わたしは力のコントロールが苦手な落ちこぼれだったから、先輩聖女たちが頭を抱えていたもんね~。
なんとなくわかったから、わたしは二切れ目のクグロフにフォークを突き刺す。
……もぐもぐもぐ……これはレーズンの味。美味しぃ~!
「それでだな、スカーレット。聖女の力を学ぶ場所を、貴族が通う学園内に作ってはどうかという発案があったんだ」
「もぐもぐもぐ……がくえん?」
どこかで聞いたことがあるなと首をひねって、そう言えばエレン様が通っているとかなんとか言っていたなと思い出す。
エレン様はクラルティ公爵令嬢って高い身分の人で、王太子殿下の婚約者だ。
そのエレン様が、イザーク殿下と学園に通っているという話は以前聞いた気がする。
「がくえん、が何かは知りませんけど、貴族が通うなら平民の聖女の卵は通えないんじゃないですか?」
「基本はそうだ。だが、もしそこに聖女の力を学ぶ学科を新設するなら、そこには貴族や平民……もちろん、君のような『国の子』として登録された子も通えるように整えようと思う」
それならいいかもしれないけど、でもそれはそれで大変そうな気もするな~。
サリー夫人が、貴族は特権階級だって言っていた。
特権階級がなんたるかについてはまだはっきりと理解できてないけど、貴族と平民は違う。
同じ扱いにしたら、怒る貴族もいるんじゃないかなあ?
まあ、常識知らずのわたしの考えることだから、実際はそんなことはないかもしれないけどね。
わたしがもぐもぐしながら考えていると、リヒャルト様が肩をすくめた。
「まあ、これについては賛成意見と反対意見で真っ二つに割れていてね。貴族令嬢の多くはどちらにせよ学園に通うから、聖女の力を学ばせるのは家庭教師か何かをつける形にして、聖女の力を学ぶ学科……仮に聖女科にしておくか。その聖女科に通わせるのは平民や国の子のみにして、場所も貴族学園とは違う場所に設置すべきじゃないのかという大臣もいる」
「なるほど~」
だんだん話が難しくなってきましたよ。そろそろついていけなくなりそうです。
「だが、聖女は保護される立場であり、聖女に心地よく力を使ってもらうためには、そこは区別せずに聖女科に貴賤問わず通わせるべきではないかという意見もある。私はむしろ、そちらに賛成だ。わざわざ新しい学園を新設する必要もないし、貴族だ平民だと分ける必要もなかろう。神殿で力の使い方を学ぶときに、貴族と平民で分けたりしないだろう?」
「そういえばそうですね」
言われてみたら、貴族出身の聖女が神殿に力の使い方を学びに来ることがあるけど、貴族だ平民だと分けずに一緒の部屋でお勉強していた。トラブルが起きたという話も聞いたことがない。
「だから、学園も一緒にすればいい。……だが、新設するとなると、どうしても慎重にならざるを得ない。思い付きで新しい学科を新設して、うまくいきませんでしたではすまないからな」
なるほど、新しい学科を作るって言うのは大変なんですね! でもすみません、学科が何かを理解できていないです。いえ、口には出しませんけど。長い説明とかいやだし。
「だから様子を見るためにも、新設する前の実験がしたい」
……実験。
リヒャルト様、実験とか検証とか大好きですよね~。
また詳しいデータとか取るんだろうな~。わたしの出し汁……もとい「癒しの水」のときのように。
「えーと、要するに、その実験をするから領地に帰れないってことでいいですか?」
「そういうことだ」
わかりました、それなら納得です。だって、リヒャルト様だもん。その実験にこだわりたいんですね! いつもみたいに、数字がいっぱい羅列された紙をいっぱいいっぱい作りたいんですね!
「付き合わせて申し訳ないが、結婚式の準備などもあるからこの機会にできるところはまとめてしまえばいい。領地と王都を何度も行ったり来たりするのは嫌だろう?」
リヒャルト様は王弟殿下で公爵様なので、結婚式をする場合は王都ですることになるそうだ。
国王陛下や王妃様が参列しないといけないとか、なんか細々とした決まりがあるんだって!
結婚式の準備とか言うのがよくわかんないけど、何度も往復するのは大変だから異論はありません。
「準備って何をするんですか?」
結婚式って、神様の前で「結婚します!」って誓えばいいんでしょ? 準備することって何かあるのかな?
わたしが訊ねると、リヒャルト様が不思議そうな顔をした。
「何って、ドレスを作ったり、パーティーの準備だったり、いろいろあるだろう?」
……うん?
ドレス?
パーティー?
わたしが首をひねると、リヒャルト様が困った顔でわたしの近くに控えていたベティーナさんを見やった。
「ベティーナ、ドレスや装飾品などの手配は任せていいか。金額は気にせず、いいと思ったものを準備してくれて構わない」
「かしこまりました」
ベティーナさんが満面の笑みで頷く。
……まだよくわかっていませんけど、金額とか言い出したので、貴族の結婚式はお金がかかるみたいです! びっくり!









