胃痛だよ、デザイアさん(幕間)
私の名前はデザイア。
魔王軍の頭脳担当。
政略を担当している三魔将の一人である。
ここ最近、変な噂が流れていた。
勇者召喚で人間の攻撃が激化しているこの時期に、困ったものだと思ったら。
なにやら魔族側の歴史を知りたい人間が魔属領に入ってきてあれこれ聞いているらしい。
珍妙なこともあるものだ、と最初は放っておいた。
勇者の攻撃を三回くらい押し返したあたりで再度うわさを聞いた。
魔族の中でも知恵あるものから事情を聴いている人間がいる。
そろそろ無視できないというか、アレ本当だったの?という感覚で話を聞いた。
人間側の事情を聴くチャンスかもしれないとは思った。
実際にあってみたところ、なんの特徴もない人間だった。
たいして強くもない。
なんなら私でも倒せそうだった。
が、周りの魔族から紹介状をもらって魔王城まで来ている。
そう、魔王城まで来たのだ。
色々なうわさは聞いているが、とても博識らしい。
魔族側の事情も聞かなければ判断できないから、と情報を聞いて回っている。
変わったやつだとは思ったが、これはチャンスだった。
魔王様も興味を示して、話をしてみたいと言い出した。
言い出したら聞かないのが魔王様だ。
決して子供だからではない。
で、謁見の間で意見を応酬する。
あれこれ聞いて、あれこれ説明して、納得し、納得され。
周りの魔族がついていけなくて喧々諤々。
ヘンリーやキャサリンは将軍を務めるくらいだ、理解して真面目に聞いている。
私も理解できる。
この人間は浮かんだ疑問だけでここにたどり着く知恵者だ。
魔王様も満足げだ。
そのうえでこの人間は、魔族にも人間にもつかないと選択した。
しかし、これを逃す手はない。
魔王様の口の端が吊り上がる。
悪いことを考えているときの顔だ。
案の定、いきなりこの人間を雇用すると言い出した。
理解できていなかった部下たちがやいのやいのと進言してくるのを、魔王様が言葉で黙らせた。
武力すら使わずに黙らせた、さすが魔王様である。
人間は困った顔をしている。
そうだろう、私も困るが魔王様は一度言い出したら聞かない。
褒美を渡して油断させる。
魔王様の抜け落ちた角をもらって困惑していたが、これでこの後の提案には乗るだろう。
余興で作った黒の鎧を見せたあたりで、しまったという顔をしていた。
やっぱりこの人間、知恵が回る。
こちらの意図に気づいたうえで、乗るしかないと諦めたようだった。
しかし、ここからはさすがに肝が抜かれた。
私やヘンリー、キャサリンと同等の扱いとすると魔王様が宣言した。
もう一度言っておこう、魔王様は言い出したら聞かない。
意図は納得したし、理解もできるが。
やれやれ、と思いながら説得を始めた魔王様の援護に回る。
周りの魔族がやいのやいのとまたも騒ぎ出す。
騒がしくなる中、人間がぽつりとつぶやく。
どうしてこうなった。