ばったり会ったよ、黒騎士さん
何を言っても言い訳になるわけだが、勇者御一行がここに来ることをまるで想定していなかった。
突然後ろから声をかけられたが、顔には出ていなかったと思う。
人数が増えているので、仲間になれそうな人を引き入れたのだろう。
ヘンリーさん対策だ。
なんとか平静を装ったまま受付さんにお礼を言って、
冒険者ギルド内の席に腰かけた。
お互い無事でよかったと話をしたが、背中はすでに冷や汗でいっぱいだ。
私は今魔王城で働いているなんて言えたものではない。
ヘンリーさんに命をとる気はなかったようだが、
少なくとも勇者御一行は本気でかかってきていたはずだ。
私が後ろにいた黒騎士ですなんて言えたものではない。
ここまでの経緯を説明しようとすると困る。
なにより今日ここに至るまでのカバーストーリーを用意していない。
しかも、この世界で仲間にしたであろう女性がこちらを訝しげに見ている。
シスター服を着ているので、聖職らしい。
どこで何がバレているのかわからない得体の知れなさに、
背中を汗でビッショリにしながら話を聞く。
勇者と一緒に召喚された人間であることを少年少女に説明されて幾分かは和らいだが、
それでも首をかしげている。
少年少女たちに水を向けて、意識しないようにした。
何がばれているかわからないなら、探りを入れないことがこちらの最善策。
社会人になって鍛えたトーク力でしのぐのだ。
がんばれ私、負けるな私。
負けたら私は首が飛ぶ。
幸い少年少女たちには疑われずに済んだようで、続きを聞く。
大きな魔物と戦った話や、ヘンリーさんと打ち合った話。
デザイアさんの指揮する魔族軍とも戦っていたらしい。
幾多の戦いを経て、強くなって。
ヘンリーさんと先日、直接やりあった話に及んだ。
力不足を実感し、修行と武器を揃えるための情報収集をしている最中だとのことだった。
おおかたの予想通りだし、報告に聞いていた通りだった。
猫の情報収集を舐めてたわけでもないけど。
少年少女たちには伝承の話とかギルドの資料室で得た話が本当かどうか、
精査する必要があることを説明した。
別に嘘は言っていない。
元いた世界では裏取りできそうな情報の洗い出しが必須だった職種。
社会経験というより職業病なのが悲しい所だ。
少年少女たちは素直に聞いてくれた。
変に誘導する方が危険だし、
本当に魔剣がある所にたどり着くとしても時間がかかるのが望ましい。
この場での最善策は時間稼ぎだと判断した。
渡せる情報は渡したし、話せる限りのことは話しておく。
あとは黒騎士であることがバレる前に体勢を立て直す時間が欲しい。
また今度ねと場を離れようとして立ち上がった。
しかし、回り込まれてしまった。
シスター服の女性に待ったをかけられたのだ。
こちらをじっと見ていて、まるで見透かされるよう瞳だった。
表情を崩してはいけない、と本能的に思った。
怯えるのは背中だけにしなくてはならない。
頭の中で警報が鳴り続けている。
なんでしょうか、と聞き返す。
声は震えていない、大丈夫。
まっすぐに見つめ返したところ、シスター服の女性が口を開く。
体に良くないものが纏わりついていると言われた。
聖職者なので、魔力の流れが分かるのだという。
体を蝕むようなものではないが、危険なものが体に纏わりついているのだと。
あいまいな表現で、確証がない事がうかがえた。
まだチャンスがあるとも判断できる。
訝しんでいた理由はわかったが、説明はできない。
心当たりもあるのだが、原因も言えない。
間違いなくそれは黒騎士の鎧のことだ。
どうやってこの場を切り抜ければいいか。
私は相手の目をまっすぐ見て必死に考えを巡らせることに集中した。




