王宮出たよ、黒騎士さん
王様との交渉でいただいたお金をもって、城下町へ出る。
勇者ほどではないにしろ、それなりにステータスはある。
まぁ、なんとかなるだろうとあちこちを見て回る。
王宮でもらえる装備より貧弱な装備を買って。
食料を買って。
さらに、いわゆる冒険者ギルドというやつに登録して。
とりあえず冒険者ギルドの資料室に閉じこもった。
職員さんからは、駆け出しなのに感心ですと言ってくれていた。
あんまり資料は読み漁らないのだろうか?
異世界転生のよくあるボーナスなのか、文字は読める。
元の世界にあった言葉に該当するものがないのか、たまに文字化けした。
とにかく情報がない。
で、どうしてこのような行動に出たのか。
勇者パーティに金魚の糞のようにくっついていくことも選択肢にあった。
子供たちから、後衛や手伝いという名目でついてきてくださればという提案もあった。
元の世界の知識で補助していただけるととも言ってもらえた。
いや、育ち良すぎか君たち。
乗ってもいいかなとは思っていた時、私の社会人センサーが警告を発した。
まてよ、と思う。
この部屋は謁見の間。
王様のほかに帰属が山ほどいる。
大臣も山ほどいる。
召喚した魔法使いらしき人もいる。
でも、社会人になって、社畜になって。
さんざ鍛えられたセンサーがビンビンに反応している。
なぜか。
わからない。
しかし、上司が怒る前の雰囲気とか。
飲み会を断った時の空気感とか。
ああいうものによく似ているが、それよりも「濃い」においだった。
理由はともかく、この誘いに乗るとまずい。
直感的に思った。
根拠はないが、危険なにおいがする。
勇者の子供たちは気づいていない。
彼らには向けられていない気がする。
で、あれば。
交渉が必要だろう。
情報が必要だろう。
生活していくためには情報が何より必要だ。
そこで、王様に交渉した。
謁見の間から離れてようやくセンサーが鳴りやんだ。
とにかく、なぜあんなにけたたましくセンサーが鳴ったのか調べる必要がある。
勇者の子供たちに誘われたことに、何の不都合があったのか。
大臣にこっそり交渉して、王宮を出る前に見てもいい範囲で書庫にも案内してもらった。
必要そうな資料を抜き取り、重要なことだけ頭に叩き込む。
大臣から書くものは必要かと言われたが、断った。
社畜センサーが鳴った理由がまだわからない。
今ここで証拠になりそうなものを残していくと後をたどられる危険性があると思った。
これでも展示資料を取り扱う身だ。
頭に入れるのは慣れている。
じっさい、いまも冒険者ギルドの書庫の前で出待ちしている奴がいるだろう。
その程度には疑わしい。
情報を積み上げて、対策をとるべきだと感じた。
ギルドにあった情報とも祖語はないか、ある程度照らし合わせる。
うやむやになっている部分がギルド側にいくつか。
ぼかしている実話が王宮側にいくつか。
なるほど、疑わしいことは理解できた。
君子危うきに近寄らず。
書くものを借りて、齟齬があった部分をある程度メモ。
書き込んだのは、元の世界から持ち込んだ資料の裏書へ。
他はもう、薬草や魔物の情報だけをひたすらメモしたり頭に叩き込んだり。
ギルドの受付にありがとう、参考になりましたと声をかけて雑談を開始。
そのままでかい声でひたすらこの周辺の薬草や魔物についての情報と、
知識があっているか確認しながら雑談を進めていく。
視線が明らかに弱まったのを感じた。