上司だよ、リリアさん(幕間)
私の名前はリリア。
ダークエルフ一族のリーダー代わりのようなことをしている。
齢は三百を超えたあたりで数えるのをやめた、細かいことは適度に忘れるのが長生きのコツだ。
三魔将のデザイア様の管轄で諜報活動をしていた。
これでも幻術が特技で、人間に紛れて暮らしている。
と、言っても直属の上司であるデザイア様が忙しすぎるのかあまり指令は降りてこない。
ざっくりとした命令で動くことがたまにあったくらいだ。
不満はないと言えば嘘になるが、概ね無いと言っていい。
と、思っていたのだが。
急展開があった。
つい最近上司が変わった。
勇者一行からはぐれた人間だ。
魔族と人間の争いの原因が何だったのか調べて回っていたらしい。
変な奴だ、と思った。
その人間が、話を聞きたいというその一点だけで魔王城までたどり着いた。
異世界から来た人間なのだが、勇者一行と違って魔法は使えないらしい。
常識的なことを存外に知らない。
魔王様と一緒になって色々教えてやったが、色々知ってもいた。
面白いやつだ、と思ったころには魔王様が思い付きで客将扱いにしていた。
上司になるという事でリーダーである私自ら挨拶に行ったのだが、視線が合わない。
我々は密偵なのだが、種族についてをいくつか知っていた。
違うところもあったが、人間側に密偵がばれているのかと思って少し焦りもした。
異世界の知識らしい。
面白いやつだと思った。
とりあえず視線が合わないまま会話を続ける。
話してみるとやはり人間にしては理知的だし、
魔王城まで身一つでたどり着いたのは伊達ではないらしい。
魔力も装備も大したことないのにここまでたどり着いた人間など前代未聞だろう。
面白いやつから大した奴に評価が変わった。
魔王様からの呼び出しで人間側の情報を探ることになった。
勇者一行も素早く侵攻しているので、食い止めたいとのこと。
他の将軍様方とは違う動き方をすることになる。
気を引き締めねば、と思っていたら人間はさっさと動き始めた。
あっという間にヘンリー様からワイバーンを借りていた。
さすがの交渉術だ。
人間はヘンリー将軍様が気前よく申し出てくれたからとか何とか言ってた気もするが、
ドラゴン族の長ともあって忙しい身だ、謙遜に違いない。
慌てて部下のダークエルフに移動する旨を伝え、私がお供としてつく。
同じくコウモリメイドの二名がお供について、ワイバーンで街まで移動。
諜報活動などしたことがないだろうに、堂々と街に入って涼しい顔で冒険者ギルドの扉をくぐる。
魔王様に身一つで謁見しただけあって肝が据わっている。
やはりこいつは大した奴だ。
資料室で街についてのルールを調べ上げ、後から付いた私の部下に手並み鮮やかに指示を出した。
コウモリメイドも猫も明確かつ具体的な指示をもらってやる気だ。
途中、勇者にも遭遇したがいつのまにか人間は私の近くにいた。
私に知覚させないとは、ますますこの人間できるヤツだと思った。
指示されたとおりに迅速に街を襲撃し、制圧する。
ちょっとしたトラブルはあったが、支障ない範囲で勇者一行の阻害まで済ませたらしい。
凄まじいまでの速さと的確さだ。
認識を改めねばなるまい。
魔王城に帰った後、ダークエルフ一族全員の総意で黒騎士様と呼ぶことにした。
敬意をもって接するにふさわしい。
黒騎士様はと言えばドウシテコウナッタと言っていた。
何の意味があるのか後ほど聞きたいと思う。