追い討ちだよ、黒騎士さん
勇者一行がいつまで経っても後退しないので、どうしたものかと考えていた。
コウモリメイドさんも緊張状態で困っている。
事態を動かすには私が動くしかないと気付いたので、くるりと後ろを向いて撤退。
勇者一行からは、悠々と歩いて鉱山の奥へ引っ込んだように見えるだろう。
物陰に入ってもらった大型の魔物に心配された。
内緒ね、と言って股下を確認。
漏らしてない。
よかった。
番人してもらっているのを無理して開けてもらったので、お礼を言って教会跡地へ。
教会跡地で風化してあちこち欠けた椅子に腰かけて、鎧を脱いだ。
後から付いてきてくれていたコウモリメイドさんが追いついて、
勇者一行が撤退したことを確認してくれた。
そのまま手出しせずに帰ってもらったらしい。
被害者なしで安全に済んだことに安堵する。
教会跡地で待機していたコウモリメイドさんに、
黒騎士の鎧を魔王城へ運んでもらうようお願いして撤収開始。
疲れたなぁ、と座っていると猫から連絡。
勇者一行の撤退を受けて冒険者の一部が街へ戻る準備を始めたらしい。
これで攻略拠点に残留していた冒険者も街が壊滅状態になっているのに気づくだろう。
補給が出来ないとなれば彼らも撤退するに違いない。
黒騎士の鎧運搬に参加しなかったコウモリメイドさんが、
暇を持てあましたので攻略拠点の様子を見に行っていたらしい。
で、猫の案内でこっそり攻略拠点の保存食の倉庫を発見したらしく盗み出したんだとか。
見た目にたくさんあるよう横一列に山積みにして、残りは運び出したと。
結果として見つからなかったからいいものの、見つかっていたら袋叩きに遭っていたかもしれない。
そこに直りなさいと正座させて、お説教。
保存食と引き換えに部下の安全が脅かされたなどあってはならない。
やるなとは言わないが、勝手にされては責任が取れない。
私が中間管理職なのだから、責任をきちんと取らせてほしい。
働いてくれたことは嬉しいことだが、そのために部下の身に何かあっては本末転倒だ。
引き換えにたかだか保存食では論外である。
攻略拠点に残った冒険者はまだまだ数が多いし、ケガしたらどうするんだ全く。
強奪を担当した班にこんこんと説教して、納得してもらって正座を解かせた。
なんだかどっと疲れてしまったが、報告は続く。
保存食強奪に参加しなかったコウモリメイドさんがこれはどうしますかと尋ねてきた。
教会跡地の端に積まれた人間用の保存食は魔族の皆さんにとっては扱いに困る物らしい。
コウモリメイドさんは食べないし、猫も好んでは食べないとか。
魔王城に運んでもいいか確認したら、了解された。
急がなくていいから暇な時にでも、とお願いしておく。
次は猫からの報告。
攻略拠点も保存食が少ないことに気づいて、街も壊滅状態だった情報が回ったらしい。
冒険者ギルドも撤退しているし、宿屋や飲食店、酒場もとっくに撤退して機能していない。
拠点も維持できないと判断したらしく、攻略にいそしんでいた冒険者も撤退を始めたそうだ。
彼らは徒歩で周辺の街へ撤退したが、鉱山の強い魔物相手に戦える冒険者だ。
問題なくたどり着くだろう。
攻略拠点の事後報告は定期的にしてもらえるよう、引き続き猫にお願いした。
残りはダークエルフさんの報告だ。
私は鉱山の地図を畳んだ。