仁王立ちだよ、黒騎士さん
街が壊滅して攻略拠点しか残らない状況になったころ、
コウモリメイドさん数名と一緒に鉱山の教会跡地へ移動。
森から攻撃してもらっていたコウモリメイドさんたちを労って、
教会跡地でゆっくり休んでいてほしいと伝える。
そのまま待機していた猫に勇者の現在位置を教えてもらう。
そこそこ奥へ入り込んでいるが、大広間までは入っていないらしい。
まだ間に合うだろう。
教会跡地で黒騎士の鎧を着込む。
着る時にやっぱりちょっとよろめいた。
鍛えないとなぁ、と思いつつ鉱山の通路を最短で走って大広間のある場所まで。
コウモリメイド数名に付いてもらって、ペース配分してもらいつつ先回りには成功した。
息切れが激しい。
間に合うのが分かってるんだからついてから着るべきだったと後悔した。
配置されている魔族に物陰に潜んでもらって、大広間のど真ん中に立つ。
息が整う頃に勇者一行が到着。
私を見て怪訝そうな顔をしたが、即座に戦闘態勢に入った。
この鎧がどれくらいのものかわかるのだろう。
額に脂汗をかいている。
仲間とぼそぼそ喋っているけど、コウモリメイドさんを通して丸聞こえだった。
勝ち目がなさそうなので撤退するか、このまま挑むか迷っているらしい。
じりじりと武器を構えたまま展開している。
私は鎧を着たままぼっ立ちするだけ。
威厳がないかなと思って腕を組んだ。
勇者一行がビクッと反応して緊張した。
この子らめっちゃ強くなったなぁ。
おじさんちょっと感動です。
私、というよりこの鎧を警戒しているのはわかる。
先頭にいた男の子がかき消えた。
肩をたたかれたみたいな感覚と、甲高い音がした。
走って疲れて凝った肩にちょっといい程度の衝撃だったのはここだけの話。
攻撃したらしい勇者が肩口に剣を当てていた。
目に見えないくらいの速度で斬りかかったらしい。
え、怖い。
鎧の性能を事前に聞いてなかったら私真っ二つになっていたかもしれなかったってこと?
勇者はまだ聖剣を持ってないらしい、鎧には傷すらついてない。
怖すぎる。
鎧の中で小便ちびりそう。
なんなら既にちょっと漏れてるかもしれない。
孫の手で叩かれた位の衝撃で済んだのはひとえに鎧の性能のおかげではあるけど。
肩に当たった剣を手に持って、ぐいと降ろさせた。
勇者はそれも驚愕の表情で眺める。
コウモリメイドさんが攻撃するかどうか迷っている。
今なら後ろから直撃が取れそうな位置にいたが、私は無言で首を横に振った。
勇者一行が真っ青になった。
剣を当てた勇者がまた目にもとまらぬ速さで後退した。
そのまま腕組に戻る。
勇者一行の絶望度が増えているのは間違いないので、そのままぼっ立ち。
おわかりいただけるだろうか。
私には。
武器が。
ないのである。
後ろを向けば攻撃されかねないことも相まってか、
下手に撤退できないと彼らが判断しているのに気づいたのはだいぶ時間がたった後からだった。