モブに化けるよ、黒騎士さん
鉱山すそ野に行ってダークエルフさんと合流するつもりだった。
だったというのはいきなり頭を抱えたから。
幻術で人に化けたダークエルフさんと勇者御一行が和気あいあいと談笑しているではないか。
何故ここにランクの低い私がいるのかの説明が非常に面倒だ。
ダークエルフさんと知己であることもランク差がありすぎて説明に困る。
どうしたものかと思って、街から出ていく冒険者に紛れてやり過ごす。
私は一般通貨冒険者。
私はモブ。
私は背景。
何とか側を通過した。
胃が痛い。
しかし、ランクの高くない自分には鉱山入り口に出てくる魔族を裁くのも難しい。
勇者召喚に巻き込まれはしたが、私の場合は冒険者というよりも旅行者のそれだ。
旅には慣れているが、戦う事には慣れていない。
魔王城の時は紹介状と知恵と力のある魔族の主導で案内してもらったため、自力では戦っていない。
トドメに一般人として活動するのを優先したため、黒騎士の鎧は持ってきていない。
冒険者の活動を行ってもいいのだが、鉱山なので植物は量が取れない。
つまり、採れる薬草もそんなに多くない。
慎重に行動する。
知能の低い魔物に私の情報は伝わっていないので普通に襲われかねないのだ。
時折ほかの冒険者が通りかかるが、基本的に無反応。
自分から声をかけないなら特に困っておらず、助ける必要はないと判断されるからだ。
鉱山入り口の周りをできるだけうろついて、薬草等を探して時間をつぶす。
段ボール箱でもかぶりたい。
そうしてしばらく時間をつぶした後、ようやくダークエルフさんと合流。
勇者からできる限り情報を引き出したかったとのこと。
向こうも情報が漏れるのを気にしてか、口が堅いので時間がかかったらしい。
時間がかかるのは一向に構わないのだが、食物連鎖の最下層にいる自分にはここはしんどいので場所を変えようと提案した。
鉱山の頂上にほど近い位置に、教会の跡地があった。
何の教えかは大して気にしていないので知らないが、セーフハウスの一環であるらしい。
人間軍は基本的に鉱物と魔王城へのルートを求めて下へ下へと潜り込むので、
なかば風化しているとはいえ頂上付近に建物があるのはすっかり忘れていて、人気がない。
ありがたく入り込んで、ひと呼吸。
街に入った時に飲み物を買っておいて正解だった。
建物の隙間から猫が来る。
よく見たら壊れかけの天井にコウモリもいた。
どうやら合わせて集まってくれたらしい。
コウモリメイドさんと猫が情報交換を始めているのを横で眺める。
今後の勇者の動向についてらしい。
ダークエルフさんは直接勇者とやり取りしたので、混ざっているようだった。
一通りの確認が終わったらしいので、コウモリメイドさんを呼んだ。
街中で手に入った情報の確認は私とコウモリチームの仕事だろう。
紙とペンを用意して、端が欠けた机に広げた。
頭の痛いことだが、仕事を始めよう。