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【完結】国立第5魔導研究所の研究日誌  作者: 九条美香
新人魔導師、2回目の発掘調査に参加する
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6月24日、固有魔導発動

 あれから、天音は1人自身の固有魔導について考えていた。雅や恭平、零は授業こそしなかった(色々と特殊すぎてできなかった)が、論文の内容について教えてくれたり、発動するときの感覚などを伝えてくれた。由紀奈が非常に気まずそうに、


「追い込まれると、やらなきゃって思ってできるようになるかも……」


 と言っていた。後輩なのに先にコントロールできるようになってしまったことを気にしているらしい。天音は初めこそ焦っていたものの、由紀奈の成長は喜ばしいものであると先輩として受け入れつつあるので、素直にアドバイスに従った。


 その結果、手加減していたとは言え、夏希との戦闘訓練で蹴り飛ばされて気絶するという事件が起こった。2人は雅に延々と叱られ、天音は半泣きになった。これはあまりにも思い出したくない出来事なので忘れよう。


「はあ……」


 溜息をつきながら、天音は箒に跨った。気分転換だ。何も考えずに地面を蹴って飛ぶ。心地よい風が悩みを吹き飛ばしてくれるようだ。


「……あ」


 空を飛んでいると、地上に恭平がいるのを見つけた。今日の郵便当番だった彼は、上空の天音に気づいて軽く手を振ってくる。天音もそれに返した。


「そういえば、前に恭平さんに何か言われたような……」


 訓練の際に、天音の欠点とも言える部分を、彼に指摘されたような気がする。ぐるぐると研究所を周回しながら考えた。


「そうだ!」


〈天音サンは色々余計なコト考えすぎなんですよね。だから失敗する〉


 以前彼に言われた言葉だ。失敗したらどうしよう、これでいいのか不安だ、そんなことばかり考えてしまう天音を見て、恭平はそう言った。成功した自分の姿をイメージしてみる、彼は天音にそう教えてくれたのだ。


 一旦、地上へと降りる。汚れないように箒を研究所の壁に立てかけた。そして、小説に出てくる飛行の呪文を唱える。それが成功し、空を自由自在に飛ぶ自身の姿を脳内で描き、普段と同じように地を蹴った。


 その瞬間、天音の体はふわりと浮き上がり、先ほど飛んでいた高さまで到達した。箒がないというのにバランスを崩すことなく、右へ左へ自由自在に飛び回ることができる。さらに急降下、急上昇も試してみた。こちらも上手くいき、急カーブも成功した。


 ここまで上手くいくと、同時に他の魔法も復活させられるのかもしれないという気がしてきた。上空で体勢を保ったまま、今度は氷の呪文を唱える。そして、凍っても問題なさそうな地面に向けて放った。


「うわっ!?」


 だが、固有魔導初心者には同時発動は早すぎたらしい。地面は凍ったものの、飛行の魔法は力を失って、天音はそのまま重力に従って落下していった。


 咄嗟に空中で浮遊の魔導文字を書き、魔力を流す。しかし、発動しない。


(魔力が足りてない! これが制約!?)


 せめて頭を守ろうと体を丸めたとき、水色の魔力が天音を包んだ。地面ギリギリではあるが、天音は叩きつけられることなくふわりと浮いた。


「あっぶな……何やってんの!?」


 驚いた顔をした恭平が、慌てて駆け寄ってくるのが見えた。こんなにも焦った顔の彼を見たのは初めてかもしれない。


「なんで1人で特訓しようとしてんですか! 誰か呼べよ!」


 敬語と素の口調が混じった、妙な喋り方で恭平は叫んでいた。気を遣う余裕がないのだろう。天音は何処か他人事のようにそれを聞いていた。


「オレがいたからいいものの……そうじゃなかったら死んでたかもしれないんです! ちょっと、聞いてる!? 聞いてます!?」

「は、はい……」

「なら言うことは!」

「す、すみません……」

「他には!」

「もう1人でしません……?」

「自分の利き手に誓って!」


 魔導師にとって、利き手に誓うことは神に誓うことと同じだ。それほどまでに、手は魔導師に必要不可欠であり、重要な部分なのである。それに誓えということは、恭平は本気で天音を叱っているのだ。


「は、はい、私の右手に誓って……」

「……はい。それならいいです。怒鳴ってすみませんでした」


 大きく息をついた恭平が、天音に謝罪した。悪いのは自分だという自覚があるので、気にしないで欲しいと伝えた。


「それにしても、箒ナシであんなに飛べるようになったんですね」

「いえ、それだけじゃないんです……私、固有魔導の発動のコツを掴んだかもしれません!」


 天音は嬉々として説明を始めた。前に言われたことを思い出して発動したこと、恐らく呪文の詠唱と、激しい魔力の消耗が制約であること。同時に発動するのはまだ難しいこと。それらを聞くと、恭平は「びっくりはしましたけど……おめでとうございます」と言ってくれた。


「この調子で訓練すれば、次の発掘調査には間に合いそうです!」

「へえ。楽しみにしてます。ただ、マジで、訓練は誰かと一緒にしてくださいね」

「は、はい……」


 念を押すように再び言われ、天音は冷や汗をかきながら頷いた。普段気だるげな表情ばかり浮かべている恭平だが、このときばかりは険しい顔をしていた。


「ま、じゃあ、皆に報告にでも行きましょ」

「はい!」


 箒を回収して、天音は恭平と共に「家」へと帰っていった。


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