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【完結】国立第5魔導研究所の研究日誌  作者: 九条美香
新人魔導師、2回目の発掘調査に参加する
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同日、魔導災害と固有魔導

 帰りの空では、誰1人話すことはなかった。疲れているということもあるが、襲撃について気がかりな点が多かったのだ。特に天音は表情が暗く、不安そうに青ざめていた。


「全員、部屋に戻って休んどけ。今日はもう何もしなくていいぜ。和馬も、無理してメシ作ったりするなよ」

「はい」


 疲れきった顔をした研究員たちは、それぞれ部屋に戻っていった。恭平は念のため、夏希の術で医務室に送られた。とはいえ、眠っているだけなので、起きたら声をかけるようにとメモを残しておく。


 天音は箒の柄を握りしめて立っていた。どうしたらよいのかわからなかったのだ。夏希から話があると言われるときはあまりよい意味ではないからだ。前回の発掘調査のときも、そうだったように。


「天音」

「はっ、はいっ!」

「そう構えるな。あたしの部屋に行こうぜ。茶くらいは出せる」


 夏希は天音の手を引いて歩き出した。彼女も疲れているだろうに、足取りは非常にしっかりとしている。これが体力の差か。もっと鍛えなくては、と明後日の方向に思考が飛んだ。


「ま、座れよ」


 部屋に着くと、夏希は魔導で椅子を出した。おずおずと座る天音を、彼女はいつもの考えがわからない瞳で見つめていた。


「悪い、今何時だ?」


 食堂から術で持ってきたのであろうカップに湯を注いでいる夏希が聞いてきた。紅茶の抽出時間でも計るのだろうか。


「えっと、13時29分です」


 就職祝いに貰った腕時計を確認して答える。ただの腕時計だったそれは、壊れてしまわないか心配だとこぼしたら、恭平が耐久性を上げる術をかけてくれたので、戦闘の最中でも無事だった。


「そうか、悪いな」


 数分経って、天音にカップが手渡された。礼を言って受け取る。柑橘系の香りがした。どうやら、夏希お気に入りのアールグレイを出してくれたらしい。


「どこから話せばいいか悩んだが、まぁ、あたしに気の利いた話し方なんて無理だと判断した。単刀直入に言う。お前は魔導考古学省にも、『白の十一天』にも狙われている」

「……え?」

「理由は、お前の固有魔導だ」


 淡々と説明を続ける夏希だが、その口からあり得ない言葉が飛び出したので慌てて止める。


「待ってください! 私、まだ固有魔導は使えません!」

「あぁ……そこから話すべきか」


 この人、頭の回転が速いから、逆に説明がわかりにくいときがある。口には出さないが、天音はそうひっそりと思った。


「お前が12歳のときの魔導災害、覚えてるか」

「あ、はい……見学中に、急に火事が起きて……理由はわからずじまいでした」

「魔導考古学省は、お前がやったんじゃないかって思ってる」

「そんな、違います! 私、やってません!」


 天音は必死に否定した。自分は放火犯などではない、そう訴えたが、夏希は緩く首を振って言った。


「普通の放火じゃねぇ。当時のお前に魔力があって、そのせいで火がついたんじゃねぇかって考えてんだよ」

「いえ、私の適性判明は高校3年生のときです。当時の私には適性はありませんでした。事件の後、検査もしています」

「そうだな。ただ、検査も100パー正しいワケじゃねぇ。それに、適性判明より先に固有魔導が発現する場合もある」

「……そうだったとして、私の固有魔導は何なんですか?」


 納得できないことばかりだ。それでも話を進めようと、天音は質問した。


「恐らく、『魔法の復活』、だ」


 天音は目を見開いた。言いたいことは山ほどあるというのに、何1つ言葉にできない。ただ、唇を震わせていた。


「7年前、見学のときのコトを全部覚えてるとは思わねぇ。ただ、もし覚えてたら教えてくれ。あのとき、何を思った?」

「な、7年前……ええと……」


 頭をフル回転させる。小学生のとき、私は何を思ってあの博物館を見学していたのだろう。つまらなかった? 課題のことを考えていた? 展示品を見て驚いた? どれも違う気がする。


「なぁ、あたしが間違ってなければ、お前は『魔法が復活すればいいのに』って思うとか、好きなファンタジー小説を思い出して再現しようとしたりだとか、そういうことをしたんじゃねぇか? それで火がついた。あたしはそう考えてる」

「あ……」


 確かに、そうかもしれない。目を瞑って、当時の記憶を辿る。


 見学のとき、天音は1人で展示品を見ていた。班行動ではあったが、同じ班のメンバーはやる気がなく、博物館の中でもずっと喋っているものだから、嫌になってこっそり離れたのだ。そして、現代の魔導についての解説を読むたびにがっかりした。ファンタジー小説のようにはいかないのかと、溜息をついていた。その後、思い出すのも恥ずかしいが、当時ハマっていた小説の真似をして、呪文を唱えたのだ。


「や、やりました……」

「なんでそんなに顔が赤いんだ?」


 黒歴史だからです。早めの中二病だからです。などと言えるはずもなく。天音は曖昧に笑って誤魔化した。


「まぁいい。つーわけで、魔導考古学省は魔法復活のため、『白の十一天』はそれを阻止するため、お前を狙ってるんだ。ここまではわかったか?」

「は、はい」

「よし……何度も悪いが、今何時だ?」

「え? 13時57分です」

「やっべ、急げ、『家』行くぞ!」


 夏希は急に慌てだし、カップを持ったまま飛び出しかけた。その後、それに気づいてカップを部屋に戻し、天音を連れて走り出した。その動きが、なんとも人間臭くて天音は笑ってしまった。


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