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【完結】国立第5魔導研究所の研究日誌  作者: 九条美香
新人魔導師、2回目の発掘調査に参加する
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同日、第2回発掘調査開始

「あ!」


 夏希と手をつないで飛んでいた由紀奈が、ふいに大声を出した。彼女が指さす下を見てみると、朽ちかけた神殿のような遺跡が見える。どうやら、そこが今回の調査現場らしい。


「下りるぞ」


 その一声で、全員が遺跡のもとへゆっくりと下っていった。零は先に着地して、由紀奈とつないでいない方の夏希の手をとり、エスコートする。


「さて、ここが今回調査する乙種遺跡だ。双子と、恭平たちのチームに分かれて内部を調査してくれ。あたしは上空から、零は地上からサポートする。雅は由紀奈に調査中の医療班の仕事について教えてやれよ。技術班は、遺跡を壊さない限り好きにしていい」


 夏希の指示で、それぞれが動き出した。由紀奈はひっきりなしに覚えた魔導文字を空中に書いて練習し、口では暗記したプリントの内容を繰り返している。雅に連れられて、たてられたテントの中に入っていくが、不安そうだ。


 それに比べて、技術班は楽しそうである。透は万が一魔導衣が破けたときに備えて裁縫セットを用意しているし、葵は使い方すらよくわからない機械を取り出してはニヤニヤ笑っている。完全に自分の趣味に走っていた。


 天音はそれを横目に見つつ、遺跡の中に入っていった。見た目に反して、中は綺麗なままだ。わざと外観を悪くして、関係のない人物が入らないようにしているのかもしれない。


「保護魔法ですかね。思っていた以上に綺麗です」


 そう言うと、フードとヘッドフォンを外した恭平が首を振った。


「……最近のものです」

「え?」

「古代の魔力の音がほとんどしない。よく見て、色を感じてください」


 言われて、天音は目を凝らした。大理石のような綺麗な石で作られた建物は、うっすらと古代の魔力を残している。だが、それ以上に濃い、魔導師の魔力の色―それも、澱んだような色が、壁に張り付くように見えた。


「誰かが、勝手に修復したんです。多分、住めるように」

「そんなことするなんて……」

「『白の十一天』しかいませんね」


 天音の言葉に、鋭く返したのは和馬だ。その指は既に攻撃用の文字を書いている。


「先回りされたんです、調査ができないように」

「……双子も気づいたっぽいな」


 ひらひらと折り鶴が飛んできた。双子の灰色の魔力を纏っているそれは、ゆっくりと開いて、こちらと同様に異変に気付いたことを知らせた。


「オレ、今夏希に伝えたんで。零か夏希か、どっちかが来ると思います。それまで動かないように、って」


 媒介無しの伝言の術を使える恭平が、現状を伝えたようだ。天音は念のため杖を抜いた。右手に杖、左手に箒を構えて、すぐに動けるようにする。


「面倒なことになりましたね」


 闇よりも濃い黒の魔力が辺りを包んだ。どうやら、天音たちのチームは零がつくことになったようだ。


「調査中止ですか?」

「いえ。『白の十一天』がいるとわかっているのに放置したら共犯と疑われますよ」

「つまり、続行、会敵次第戦闘。あーだる……」

「こら、給料分は働くこと」


 零は恭平をたしなめると、先頭に立って歩き始めた。天音を守るように、零、恭平、天音、和馬の順に歩く。悔しいが、実力を考えれば仕方のないことだ。


「また戦闘なんて、ついてないですね……」


 悲しそうに眉を下げて和馬が言う。辛そうではあるが、一番最初に戦闘態勢に入ったのは彼だということを忘れてはならない。穏やかだが、肉弾戦を得意とし、必要とあれば戦うことも厭わないのが山口和馬という男である。


「しっかし、誘い込むみたいに術使いまくってますね。跡がすごい」

「よくよく見るとそうですね……なんで気づけなかったんだろ……」

「慣れです、慣れ。オレは第1で保護対象のときに散々襲撃事件の資料とか見せられましたから。実務じゃないからセーフっていう、ワケわかんない理屈で勉強させられました」


 おかげで中学の成績はボロボロです、と恭平は愚痴をこぼした。が、しかし。


「それだけじゃないでしょう。呼び出されたフリをしてサボったから内申点が悪かったの、僕は知ってますよ」

「げっ、バレた! ってかなんで知って……夏希かぁ!」

「ええ」


 人事権はほとんど夏希にあるようなもの。そして、彼女はこれから自分の部下になるであろう人物は、直近の学校成績などはきちんと調べていた。


「サボったって言っても2、3回ですよ」

「はいはい、月に2、3回でしたね」


 それは最早ほとんど週に1回ではないだろうか。思わず冷めた目で恭平を見てしまった。その視線に耐えられなかったのか、恭平は大きく手を振って「この話はもうナシ!」と叫んだ。


「黙ってください、天音サンに引かれる!」

「もう引かれてませんか」

「確かに」


 和馬までが楽しそうに恭平を揶揄い出すので、その場は戦闘寸前とは思えないほどに和やかになった。笑い声が響く。


 しばし笑った後、零はピタリと歩を止めた。ついに戦闘か。天音は零の視線の先に杖を向けたが、その瞬間に間違いに気づいた。


「……あっちに、見慣れない色の魔力が!」

「やられた、こっちは陽動か……」

「狙いは医療班と技術班ってことですね!」

「なるほど……作戦としてはなかなか優れていますね」


 前回の失敗を踏まえたのか、「白の十一天」は調査班を狙わずに、医療班と技術班を潰す事に決めたらしい。慌ててそちらに向かおうとする和馬と天音を、零が制した。


「第5研究所は少数精鋭。そのことを忘れたんですか?」

「で、でも……」

「勿論僕たちも戦いには行きますよ。ですが、助けには行きません。この違い、わかりますか?」

「……えっと」

「あっちの4人も十分強いってことですね」


 和馬が答えると、零は満足げに頷いた。


「さて、作戦会議といきましょう」


 そう言って彼が浮かべる笑みは少し悪役じみていて、彼の妻の笑い方に少し似ていた。


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