表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】国立第5魔導研究所の研究日誌  作者: 九条美香
新人魔導師、配属される
2/141

同日、9時37分

「落ち着いたー? じゃ、中入ろっか」


 固まっていた天音のことを、夏希は緊張しているからだと勘違いしたらしい。深呼吸を促すと、門の奥を指した。


「あ、あの……」


 天音は小さく手を挙げて質問する。


「門……飛び越えなきゃ、駄目なんですか……?」


 先ほどの夏希を思い出す。

 学生時代、体育でギリギリ3を取り続けていた天音には不可能な大ジャンプである。


「へ? ああ、あれ。面倒だったから飛んだだけで普通に開くよ。その前に、ほら」


 夏希はくるりと指を振り、流れるように魔導文字を書き始めた。


 古代の魔法の発音方法がわかっていない現在、魔導師は魔導文字を書くことでしか術を使うことができない。書いた文字に魔力を流すことによって術は発動する。


 何もない空間に文字を書いて発動までさせるのは、かなり高位の魔導師にしか行うことのできない技である。


「ほい」


 気の抜ける声と同時に、首に僅かな重みが乗った。

 見れば、入所許可証と書かれたネームプレートが、首元にかかっている。


「それないとさー、侵入者扱いされてアラート鳴るから、なくさないでね。一応、今月いっぱいは使うから忘れずにね」

「あ、はい」

「で、門だけどー、魔力登録した人間か、その許可証持ちの人間なら手で開けられまーす。ただし、魔力流しながらね。今日は見本って意味もあるのであたしが開けるよー」

「明日以降は自分で開けられますか?」

「んー、基本研究員はあんま外でないからなー。しばらくやらないかもよ。ってか、ウチの子たちも何人かやり方忘れてそー」


 言いながら、黒手袋をはめた手が門を押す。重そうに見えたそれは、いとも簡単に開き、天音たちを迎え入れた。


(すごい、真っ白……)


 魔力の感じ方は人それぞれ。色、音、匂い、気配―魔導師によって、確認の方法は異なる。天音は色で感じるタイプだった。


門を開ける小さな夏希の手は、眩しいほどの白い光を放っていた。


「さ、おいで新人ちゃん! 国立第5魔導研究所へようこそ!」


 太陽すらかすむような美しい笑顔で、夏希は天音の手をとる。と思った次の瞬間、強く引き寄せられ、可愛らしい容姿に似合わない低い声が耳元で囁いた。


「キミはここで何日もつかな?」

「え?」


 聞き間違いだろうか。聞き返す天音に、彼女は何も応えなかった。


(何日もつかなって言ってた……?)


 どういうことだろう。

 しかし、考える暇もなく、夏希はどんどん先に進んでしまう。


「こっちだよー」

「い、今行きます!」


 門の向こうには、洋館が一軒、建っていた。夜中に見たら泣きそうなレベルのデザインである。ホラー映画の撮影地に使われていそうだ。


「吸血鬼とか住んでそうな見た目だよねー」

「は、はあ……」

「所長の趣味! まあ、反魔導主義団体とかからの襲撃を防ぐために研究所っぽくない見た目の建物にしないといけないんだけどね。でもほぼ趣味だよこれ。中庭の薔薇とか超綺麗だから今度見てみて」


 反魔導主義団体。


 言葉どおり、現代社会に魔導技術は不要であると主張する団体だ。大小100を超える団体が存在するが、特に過激とされているのが「白の十一天」である。魔導師を表す黒の反対色、白の衣装を纏い、各地で遺跡爆破や魔導師殺害などを行っている。現代魔導における聖なる数12を否定し、11を団体名に掲げるほどの徹底ぶり。これには各研究所の魔導師たちや魔導警察も手を焼いている。


「ま、ウチは対策しっかりしてる方だから安心してね」

「は、はい……?」


 どう見てもただの洋館なのに、どうしてそんなことが言えるのだろうか。

 天音の心を読んだように、夏希はニヤリと笑った。


「今日の研修はー、施設案内とできそーだったら職員紹介ってことで。じゃあいっくよー」


 洋館の扉に手をかける。

 この先に、一体どんな設備があるのだろうか。ここで何をするのだろうか。


 この時、天音は知らない。

 第5研究所は、5つある研究所の中でも最も特殊で―


 過酷な場であることを。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ