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【完結】国立第5魔導研究所の研究日誌  作者: 九条美香
新人魔導師、配属される
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同日、15時59分

 透が仕切り直すように手を叩いた。

 次は彼の番だ。そのことを察したのか、葵は後ろに下がった。天音の後ろ、扉の近くの壁に寄りかかって腕を組む、いわゆる後方彼氏面である。


「今度は僕についてですけど……正直、班長ほどお話しできることはないんですよ。同じような流れで、まずは経歴からいこうかなと思います」


 透はホワイトボードに向き直り、ペンを走らせた。


「僕はここができた1年後、今から3年前に配属されました。とはいっても、ここが初めてではなく、中学卒業後すぐに研究員になり、初めは旧都の第2研究所で通常の研究員として働いていました」


 研究所はまず首都に作られ、その次にかつて陰陽寮のあった旧都、そして独自の文化を残していた北部、南部に作られていった。研究員の誰もが望むのが第1研究所への配属である。首都にあるそこは、いわばエリートたちの集まりであり、「第2研究所の所長より第1研究所の研究員がよい」と言われるほどだ。


「初めは技術班への配属ではなかったんですか?」

「まあ、希望は技術班だったんですけどね。僕、魔導耐久が強くって。そのせいで、罠がある遺跡の調査とか、技術班が作ったものの実験台とか、そんな仕事ばかりさせられていました」


 遺跡の中には、魔法技術を盗まれないためか、罠が仕掛けられていることがある。そのため、魔導探知の高い者がそれを探し、魔導耐久が高いものが突破して発掘することが多い。魔導耐久が高ければ、受けるダメージを減らすことができるからだ。


「新人が必ず希望どおりに配属されるわけないし、仕方ない。そう思って働いていました。けれど、やっぱり疲れてしまって。あの人たち、僕のことを陰で『壁』って呼んでたんですよ。それ聞いた瞬間、ああもうここ辞めようって思いました」


 本人の意思など関係なく、ただその魔導耐久値の高さを求められているだけ。都合のいいバリア代わり。それがわかったその日に転属願を出していたのだと言う。


「で、次に配属されたのがここです。驚きましたよ、『ぜーんぜん人いないから好きなトコ選んでだいじょーぶ! 何したい?』って言われましたからね」

「カラシお前、今どっから夏希の声出したんスか?」


 爽やかなイケメンの顔と可愛らしい少女のような声が合っていない。

 やけに上手い物真似に、葵が驚きの声を上げた。

 それを流して、透は話を続ける。


「まあ副所長にそう言われたので、裁縫がしたいと伝えたら技術班の配属がすぐに決定しました。基本こっちの好きにさせてくれるし、皆服装にこだわりないみたいなので、僕の独断と偏見でその人に似合う魔導衣を作ってます」

「山口さんの魔導衣は確かに特徴的でした」

「夏希のヤツはもっとヤベーッスよ。今は修理中なんで予備の普通のヤツ着てるッスけど」

「ちゃんと似合うもの作りましたよ」

「あれカラシの趣味ッスよね?」

「そうですが何か?」


 開き直る透。一体、どんな魔導衣を作ったのだろうか。非常に気になるところである。


「正式配属が決定したら、第5研究所の印が入った魔導衣を貴女にも作るので楽しみにしててくださいね。希望があったら言ってください。なければ僕が似合うものを作ります」

「ちゃんと言った方がいいッスよ。似合うからって理由でゴスロリ風にされたヤツらもいるんで」

「作ってしまえばこっちのものです。希望を出さない方が悪い」


 堂々と言い放つ透に、少し引いた。もし転属できず、着なくてはいけなくなったとしたらしっかり希望を言わないととんでもないことになる気がする。


(この人、真面だと思ってたのに……)


 ここに配属される時点で真面ではない、ということか。なんだか悲しくなってきた。自分もそう思われて配属されていたとしたら全力で抗議したい。


「えー、大まかにまとめますと、僕は服飾関係の研究をしています。気分で色が変えられる洋服とかですね。裁縫自体にも古代は魔法を使っていたようなので、それについても調べています。こんな感じかな?」


 まとめだけ聞けばごく普通の研究内容である。そこを切り取ってメモをとった。


「じゃあ、これで説明は終わりです。何か質問はありますか?」

「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」

「なら残りの時間は夏希に出すレポート書く時間にしていいッスよ。終業の18時までにアイツのトコに出してきてください。んな長くなくていいんで感想文的にやっときゃへーきッスよ。夏希がいなかったら預かるんで、自分たちのどっちかに声かけて欲しいッス」

「はい、これが預かっていたレポート用紙です。これの半分以上うまっていれば大丈夫ですよ。電気魔導と相性が悪いので、ここパソコン置いてなくて……大変かもしれないですけど、手書きでお願いします」


 渡された紙は罫線の入ったB5サイズほどのものだ。これなら手書きでもすぐに終わるだろう。


「はい。ありがとうございます」

「お疲れッスー」

「お疲れさまでした。明日は医療班へ行くそうですよ、お楽しみに」

「お疲れ様でした。お先に失礼します」


 綺麗に一礼した天音が扉の向こうへと消えた瞬間。

 にこやかだった2人の表情が険しいものになる。


「こりゃすぐに夏希に報告ッスね」

「想像以上に重症ですね……」


 夏希が戻ってきたら、すぐに報告に行かなくては。

 頷きあうと、彼女が戻るまで自身の研究を再開するのだった。


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