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【完結】国立第5魔導研究所の研究日誌  作者: 九条美香
新人魔導師、配属される
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同日、9時15分

「すみません、これでも一応、片付けはしたんですが……それがすぐ散らかすもので」


 透は機材やら資料やらで散らかった部屋を見て、再び溜息をついた。

 「それ」とは勿論、葵のことである。


 どうにかスペースを作って、彼は天音に椅子を出してくれた。少し埃っぽいが、壊れてはいないようだ。


「今日の研修は僕と班長で行います。午前中に簡単な座学、午後は実際に僕たちが作ったものや研究について話したいと思っています」

「ま、そんなに難しい内容じゃないんで安心して欲しいッス!」


 透が紙に文字を書きつけている。

 淡い黄色の魔力が紙に流され、瞬く間にホワイトボードが現れた。幻像魔導だろう。薄れたり掠れたりする部分もなく、実物と変わらないように見える。透のレベルの高さが伝わってくる完成度だ。


「よっ、流石ギリギリ解読師!」

「アンタが上司じゃなければぶっ飛ばしてましたね」

「いやぁ、適性値79はツラいッスよねぇ~、わかるぅ~」

「何がわかるんだこのギリギリ研究員」


 目の前でコントのように行われる会話についていけない。

 天音はいつ座学が始まるのだろうかと、そっと気配を殺して待っていた。


「ああすみません、今始めますね。まったく、班長がいると話が進まない……」


 はあ、とまた深い溜息。この数分間で、彼がかなりの苦労人であることがわかってしまった。


「んじゃ、始めるッスよ! まずは確認ってことで、技術班について知ってることを言ってみて欲しいッス」


 知識ならば、全て頭に入っている。

 教本を丸暗記するくらい、天音の記憶力なら容易いことだ。


「正式には国立魔導考古学研究所技術研究員、他の研究員と区別するべく灰色の耐魔力素材の作業着が支給されます。魔導補助具や魔導衣など、研究所内で必要とされる魔導器具の作成が主な仕事です」


 すらすらと答えた天音に、葵たちは一瞬驚いたような表情を浮かべた。


(あれ……?)


 その表情を見て、天音は不安になった。

 なぜなら、葵たちの表情は、答えの正確さに驚くというよりも、「ドン引き」と言った方がよいものだったからだ。


 しかし、それも僅か一瞬。

 すぐに透が拍手をして褒めてくれる。


「はい、そのとおりです。加えて、教本に載ってないようなことで言うと、前職で何かの職人だったり、エンジニアだったり、そういった人が多かったりします。うちは違いますけど」

「第1とかのオッサンどもと違って、自分たち若いんで! 研究員が初めての仕事ッス」

「すみません、班長の言うことは8割無視してください」


 2割は真面なことを言うのか。

 メモをとりながら、基本的には透の言うことに集中することに決めた。


「ここからは第5研究所に焦点を当てて話しますね」


 ホワイトボードに、透の文字が書かれていく。

 真面目に板書する彼の横で、葵が猫かウサギかよくわからない生き物の落書きをしていた。気づかれると同時に叩かれていた。


「僕たちは、ここでは魔導衣を中心に作っています。というのも、皆さん適性値が高い方が多いので、サポートのための補助具が必要ないんです。かつて、ファンタジーと呼ばれるジャンルでよく魔法使いが持っているあの杖。あれは魔導生成値や構築値が低いがゆえに必要とされているものであって、現代魔導においてはさほど必要ありません。中には、遠距離での発動を可能にするために似たようなものを使っている方もいらっしゃいますけどね」

「箒とかもいらないッスからね。飛びたいならその魔導文字書けばいいだけッス。あ、ちなみに、私有地以外での飛行は魔導航空免許が必要なんで、取るまでやっちゃダメッスよ」


 天音の夢がどんどん壊されていく。

 正直、天音にとって最も魔法への夢を壊していったのが歴代の国立魔導考古学研究所技術研究員たちなので、話を聞けば聞くほど悲しくなってくる。


「逆に、魔導抑制装置を作ったりもします」

「魔導抑制装置とはなんですか?」


 聞き慣れない単語に首を傾げた。律儀に手を挙げる天音に、透は少し笑いながら答えてくれた。


「魔導適性を測るとき、最大値は100までしか表示されません。ですが、実際は100を超える力を持っている人もいます。極稀に、ですけどね。他の数値に比べて、一部分だけ異常に高い。そのせいで苦労している人もいます」

「うちにいるんスよ、魔導探知がヤベーヤツ」

「その方は魔力が音で聞こえるタイプでして……ようするに、研究所のような場所では常にとてつもない爆音やノイズが流れている状態なんです。それを緩和するために、特殊なヘッドフォンを作ったりしましたね」

「あれ大変だったけど楽しかったッスね。アイツも喜んでたんでよかったッス」


 その後、自身の発明品について触れてテンションが上がってしまったのか、2人に詳しく構造や製造過程を語られたが、専門的過ぎてついていくことができなかった。


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