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【完結】国立第5魔導研究所の研究日誌  作者: 九条美香
新人魔導師、発表会に参加する
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同日、紅が散る

 激しい戦いはまだ続いていた。


「ふふ、そっちは外れ」


 真子は幻像魔導で相手を惑わし、その隙に鉄扇で斬りかかる。血飛沫が舞う様子すら美しかった。


「運が悪いね!」


 固有魔導を使った美織は、相手の運気を下げて、転ばせたり銃を使えなくしたりして妨害する。


「……星の位置からして、ここか……」


 輝夜の固有魔導は、あらゆる人の動きや状況が星から読めるというもの。相手の動きは全て読まれ、十二単のような魔導衣を翻し避けられる。


「俺は先に進む! ここは頼んだぞ!」


 広範囲の攻撃魔導を放つと、秋楽は零の後を追うように建物の方へ向かって行った。敵の心を読み、一花の居場所がわかったのかもしれない。


「了解!」


 夏希は叫ぶと、襲い掛かる敵を投げ飛ばした。数は減ってきたが、それでも味方より敵の方が多かった。


「ちっ」

「何か策はあるのかな?」


 炎の術で相手を近づけなくさせると、虎太郎は耳元で囁いた。


「最短ではある。けど、最善ではない」

「なるほど」


 最善は、零が一花を倒すこと。そうすれば敵は戦意を失い、捕まえるのが容易になる。加えて、魔法復活という武器を相手に与えなくて済む。ただし、それまでどれほどの時間がかかるかわからない。


 反対に、魔法を復活させれば、魔導師だけで構成されているこちら側は非常に有利な状況になる。


「最短の方法で行こう。時間は私たちが稼ぐ」

「つっても、10分はかかるぞ! その間、あたしと天音は戦えねぇ!」

「何とかしてみせるさ」


 虎太郎と真子はにっこりと笑った。こうして見ると、笑顔がよく似ている。


「さあ、伊藤さんのところへ行こう。防御は私に任せて」


 紅の魔力が夏希だけを覆う。そして、真子は天音のもとへ走り出した。慌てて夏希も追いかける。


「天音! 来い!」

「は、はい!」


 目の前の敵を倒すと、天音は夏希のもとへ瞬間移動してきた。真子が防御魔導をもう一度使い、2人を包む。


「今から魔法を復活させる。いいな?」

「え、でも……」

「このままじゃ勝てねぇ! やるしかねぇんだ!」

「……はい!」

「それじゃあ、よろしく頼むよ」


 真子は天音と夏希を狙う敵の攻撃を躱しつつ、2人を包む防御魔導の壁には当たらないように守っていた。


「まず、あたしが封印を完全に破壊する」


 言い終わるなり、今まで見たことがないほどの強い光が発せられた。白い光はそのまま広がり、あらゆる場所を包んでいく。


「いいか、よく聞け」


 流石の夏希も、世界中の封印を完全に破壊するのは辛いようで、肩で息をしていた。


「魔法には呪文が必須だと思われてた。けど違うんだ。魔法はイメージだけでいい。ただ、そのイメージのために人は呪文や必殺技の名前みたいに叫んでたんだ」


 あの日、夏希が知ったこと。魔法を使うためのイメージ。


 しかし、特定の決まりがない魔法は学習するうえで困難だった。そこで教科書――夏希たちが資料として集めていたもの――を作り出した。イメージしやすい、簡単な言葉で作られたそれを、後世の人々は魔導文字と呼んだ。


「なんで、それを今……」

「復活させる気がなかったから言わなかった。けど、今からはそうやって使わねぇといけねぇんだ、聞いとけ」


 資料として残されたものには、きちんとした手本のような言葉が書かれていた。だが、実際の魔法使いたちは思い思いの言葉で魔法を使うイメージをした。「よく燃える」、「めっちゃ寒い」など、話し言葉のように言って使っていたのだ。


「お前が魔法を復活させたら、そのことを味方にだけ伝わるようにする。カンのいいヤツは敵でも気づいちまうだろうが、仕方ねぇ。いいな? やれ」

「で、でも、私……世界中の魔法を復活させるなんて……」

「お前ならできる。雅から聞いた。最近、魔力の匂いまでわかるようになってきたんだろ? 今のお前はそれだけ魔法使いに近づいてるんだよ、自分を信じろ!」


 一息に言うと、夏希はずるずると倒れ込んでしまった。魔力の消耗が激しいのだろう。息が荒い。


「……わかりました。やってみます」


 天音は大きく息を吸う。

 魔法を復活させる、それだけを脳内で描く。何度も、何度もそれを繰り返す。


 すると、青みがかった紫の魔力がゆっくりと漂い始め、先ほどの白い光のようにあらゆる場所を包み込んでいった。


 魔力が全て吸われる、そう思った。そのとき、ポトリと何かが落ちた。


「紫水晶……?」

「……魔法使いの、高純度の魔力の結晶だ。強い魔法を使ったとき、生み出される。それが水晶なんだよ。だから魔導とも相性がよかったんだ」


 ぐったりとした夏希が解説した。彼女の手元にも、1粒の美しい水晶がある。


「それが天音の魔力の塊。何かイメージしながら投げりゃ、それだけで攻撃になる」

「そ、そんなことがあるんですか!?」

「封印壊したあたしを信じろ……」


 夏希はふらつきながらも立ち上がる。戦いに戻ろうとしているのだ。


「今魔法で伝えた。さっさとぶっ倒して帰ろうぜ……」


 まだ上手く力が入らない夏希。天音も力が抜けて手を貸せそうにない。

 そんなとき、敵の魔導師が真子の張った防御壁を狙って攻撃してきた。術は防御壁を抜けて、夏希の方にまっすぐ飛んでくる。


 紅が、散った。


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